054:夏休みの課題・4
ご無沙汰してしまいました☆
冬なのに夏の話題ですみません(^^ゞ
今回は健君メイン・・・かな?そうでもないか・・・。
伊織とのドイツ語レッスンは、精神衛生上の問題を除けば零にとってこれ以上ない成果をもたらし、あんなに苦手だと思っていたドイツ語がすんなりと入ってくるようになった。零としては不本意ながらも伊織の協力のおかげでドイツ語の課題を早々に終わらせる事が出来、機会があったら何かお礼をしようと心の中で思う。残るは数学だけ、なのだがその数学が厄介で、零は連日頭を悩ませていた。
「零ちゃん、」
控えめにドアをノックして、かおるが顔を覗かせる。
「・・・どう?進んでる?」
「・・・まぁ、ね・・・。」
解ける問題から進めて、ようやく半分ほど終わらせた。夏休みももう中盤。急がないと全て終わらせる事はかなり困難だ。
「僕、これから父の呼び出しで出かけなくちゃいけなくって・・・零ちゃんに何かあったらって思うと心配なんだけど、出来るだけ早く帰ってくるからね。」
・・・な、何か、かおる君って保護者目線だよね・・・?お兄ちゃんがいたらこんな感じかも・・・。
零は大丈夫だよ、と笑顔を返しながら思う。いつもいつも、自分の事を気にかけてくれる優しいお兄ちゃん。一人っ子の零にとってはその存在は憧れるべき対象であり、そんな風に接してくれているかおるの存在に心癒されている事は確かだ。
「何かあったら、いつでも電話してくれていいからね、」
かおるはそう言っていつものようににっこりと微笑むと、行ってきます、と出かけていった。
「・・・私もお出かけしたいな・・・」
寮にいる限り、特別出かけなくても生活は出来る。出来てしまうだけに、課題が終わるまで、と部屋に引きこもった生活がもう半月も続いている。
・・・そういえば、伊織君はもう課題終わったって言ってたし、かおる君と久遠君はもともとほとんど課題出てないんだよね・・・。
泣きそうになってるのは健と自分だけ、と言う事実に零は少しへこみ、溜息をついて改めて数学の課題に向き合う。
「もーーー!わっかんないよー!!」
すでに分かる問題は全て解いてしまっており、難解な問題ばかりが残っている。時間を置けば閃くかと、改めて問題を見てもやはり分からない。零はお気に入りのクマのぬいぐるみを抱きしめてソファーにゴロン、と寝転ぶ。物理が得意で数学が苦手な意味が分からない、と竹川に言われたけれど、苦手なものは苦手なんだよ、と心の中で思う。
・・・こうなったらお昼寝してやる!
どうせ考えても分からないなら一日くらい休憩したってバチは当たらないはずだ、と零は勝手に決め込んでソファーのクッションに身を沈めた。寮の空調は快適で、半そでのポロシャツにラフなカーゴのハーフパンツでごろごろしていても熱くも寒くもない。連日深夜近くまで伊織がドイツ語の課題に付き合ってくれていたこともあり、寝ようと決めた零の意識はすぐに眠りに引き込まれた。
どれだけ必死に頑張っても絶対に夏休みの間に終われない課題も3年連続ともなると慣れてくる。出来る限りの努力はするものの、どの教科の手を抜くかについても、健はすでに心得ている。
「零ちゃん、数学頑張ってるかな。」
難解な古典の文章を読んで頭を混乱させた健はふと思う。自分だけ英語の課題を手伝ってもらっておいて、自分は何も手伝っていない。ちょうど自分の課題にも飽きてきたし、口実を作って零の部屋へ行こうと思い立ち、軽い足取りで零の部屋へ向かう。女の子の部屋に入る、という以上の緊張に囚われながらドアをノックしようとした健は、ドアが完全に閉まっていないことに気付く。
・・・先客?
いつも誰か男子が部屋に入るときは扉を閉めないという暗黙のルールが敷かれている。そっとドアを押して中を覗くと、ソファーの上に寝転んでいる零が見えた。
・・・寝て、る?
ソファーの上でクマのぬいぐるみを抱えて、眠っているように見える零。柔らかそうな髪が少し頬にかかり、目を放すと次の瞬間には消えてしまいそうな儚さをまとう。健は一瞬ためらった後、音を立てないようにそっと零の部屋に入り、眠っている零の側に近づいた。
センターテーブルの上にはやりかけの問題集。途中までやりかけて投げ出してある問題をみて小さく笑う。その問題はかなりひねくれた問題で、零は素直だから途中で混乱したのだろうと思うとほほえましかった。
「・・・・・・」
そっとソファーの側に跪く。すやすやと穏やかな寝息を立てる零は精巧に出来た人形のようで思わず見惚れた。色白で陶器の様にも見える肌に長い睫毛が影を落としている。ほんのりと桜貝色をした唇は少し肉厚でもっと近づいて触れたいと思ってしまう。いつもかおるや伊織がそうしているように頬を寄せて抱きしめたいと願う自分と、いつだったか伊織が言っていた、首筋に噛み付きたい、と言う言葉の意味が今なら分かる気がする。
あまりにも無防備な美しい人形。華奢な身体は簡単に攫ってしまえそうで、眠っている零に口付けて抱きしめたいと言う欲望と抑えようとする理性の狭間で葛藤する。
「・・・・零ちゃん、」
囁くように、呼びかけてみる。目を覚ましそうにない零をしばらく見つめ、健はそっと顔を近づける。
「・・・・ん・・・?」
健の唇が零の唇に近づい時、零はふと、何かの気配に気付いて目を覚まし、まだ完全に覚醒していない意識の中、間近に健の顔を見つけた零は思わず大声を上げた。
「あ、ご、ご、ごめん、お、起こすつもりなかったんだけど、って言うか、俺、その、あのっ・・・」
「・・・た、健君っ?!」
「あっ、あのっ、ご、ごめんっ」
不意に目を覚ました零に驚いた健は飛び上がる勢いで零から離れる。
「・・・どうしたっ?!・・・おい、健!お前何しやがった、」
「えっ?!俺?な、何もしてないって!本当だって!」
零の声に隣の部屋の駿が開いたままのドアから飛び込んできて鋭く健を睨む。たいてい無表情で不機嫌そうな顔をしている駿だがいつも冷静なその瞳に怒りの色が閃く。
「ならどうしてそんなに慌てる必要があるんだ?」
怒鳴っているわけでもないのに、冷静な怒りがこんなにも怖いものかと、ソファーから起き上がった零は思う。
「え、いやっ、だ、だって、その・・・」
「どうせ、数学の課題の手伝いを口実に部屋に来たらソファーで間抜けに寝てたから手を出そうとでもしてたんだろう、」
「そっ、そんなことしてねぇよっ!」
「ならどうして佐倉が悲鳴を上げるんだ?」
「えっ?!そ、それは・・・」
・・・いつも思うけど、久遠君って、すごい観察力・・・。
まだ目が覚めたばかりで少しぼんやりしたまま零は思う。
「・・・おい、お前がボーっとしてるからこういう事になるんだ!お前自分の置かれている立場が分かってるのか?!」
「えっ?!わ、私っ?!」
突然駿の怒りの矛先を向けられて零は戸惑う。少しお昼寝してただけなのに、と思うが怖くてとても言い出せない。
「・・・零ちゃんは悪くねーよ!零ちゃんにまで怒ることねーだろ!」
「諸悪の根源は黙ってろ。」
健を黙らせて零を睨んだ駿は明らかに怒りを含んだ口調で続ける。
「お前が自分で自分の身を守れないせいで、こっちはいい迷惑なんだよ。いい加減に自分が常に狙われてるって事くらい自覚しろ!」
・・・ねっ、狙われてるって、そんな・・・
駿の言葉に零は戸惑う。
「かおるや伊織がいつも側にいるから誰も手出ししないだけで、お前が一人でいれば間違いなく手を出すヤツが出てくる。それなのにいつもフラフラ構内を一人で歩き回ったりしてどういうつもりなんだ!」
・・・図書館に行ったりすることを言われてるの・・?
駿の怒りのベクトルが零に向けられ、零は駿に鋭く睨まれて言葉に詰まる。
「・・・・はい、そこまで。駿、そんなに怒っちゃ零ちゃんがかわいそうだよ。それに零ちゃんが悪いんじゃなくて、零ちゃんに手を出すヤツが悪いんでしょ?」
「・・・かおる君!」
ただいま、零ちゃん、と優しく微笑むかおるの顔を見るとホッとする。迷子になって一人ぼっちで淋しい思いをしていた子供が迎えに来てくれた親を見て安心する気持ちに少し似ている、と零は思う。
「・・・チッ、お前がもっとちゃんと見張らないからこういうことになるんだ!」
駿はそう言って零の部屋を後にし、隣の自室へ戻っていく。半ば呆然とその背中を見送った零にゆっくりと歩み寄ったかおるは零の隣に座ってそっと肩を抱く。
「・・・どうして駿があんなに怒ってたの?・・・まぁ大体察しはつくけど・・・」
かおるは部屋の中を見回してそう言うと、チラリと健を見る。
「健?後で僕の部屋へ来ること。いいね?」
ふー。
守られたい。守られたい願望が強すぎるわりに・・誰も守ってくれない悲しい現実。
私的にはリアルお兄様が欲しい今日この頃です☆




