048:プラネタリウム・2
引き続き、零とかおるのデートです。
迎えの車に乗り込み、よく冷えた車内の空気にほっと息をつく。8月ともなると外の空気は熱く熱せられて時に呼吸をする事さえ困難になる程だ。
「零ちゃん、すぐにプラネタリウムへ行きたい?少しお買物でもしようか?それとも少しドライブはどうかな?」
せっかくのデートだからね、と微笑むかおるに零は少し赤くなる。
《なんでかおるじゃないわけ?》
不意に伊織に言われた言葉が蘇る。こんなにも優しくて、こんなにも素敵で、こんなにも想ってくれているのに。
・・・多分、私が一人を選べないだけ。
零は心の中で思う。過激なほどの想いを惜し気もなくぶつけてくる伊織、穏やかで優しく包み込んでくれるかおる、不器用だけどいつも見ていてくれる健、そして孤高の駿。その誰が欠けてもこの場所での思い出は成立しないような、そんな気がして。誰か一人を選ぶ事で何かが壊れてしまう事が怖いのかもしれない。
「お父さんとの約束は夕方だから、それまで零ちゃんが行きたいところへ行こう。」
「うん、ありがとう。プラネタリウムは早く終わっちゃうともったいないから、最後にとっとくね。」
いたずらっぽく笑う零にかおるは微笑む。
「じゃあ、お買物でも行こうか?零ちゃん雑貨屋さんとか、好きでしょ?」
雑貨屋、と言うキーワードに零の目が輝く。本当にわかりやすいな、とかおるは心の中で呟いて運転手に指示を出した。
「一つ、聞いてもいい?」
何?と首をかしげる零にかおるは立ち入った事かもしれないけど、と前置きをしてから切り出した。
「零ちゃん、前にNASAの研究者になりたい、って言ってたでしょ?」
「うん、」
「どうして、そう思うようになったのかな、って。」
「うーん、どうしてって聞かれるとちょっと困るんだけど・・・。私、星が好きでしょ?それで小さい頃アメリカにいたからよく両親がNASAへ連れて行ってくれてね、」
うんうん、と微笑みながら相槌を打ってくれるかおると話していると心が落ち着く。ふと、もしこの相手が駿だったら、と思うとそれだけで少し緊張してしまう。
「その時に宇宙の仕組みとか、今研究している事とか、いろんな話を聞いたり見たりして、自分もそこで一緒に研究したいって思ったのが最初で、
「今はスペースコロニーとかね?アニメの世界みたいだけど宇宙で暮らせる擬似地球みたいな。それは大げさだけど、地球上の資源がなくなる前に、いかにして少ない資源や動力で暮らせるかって言う、そう言う研究をしたいと今は思ってるの。」
零ちゃんらしい夢だね、と微笑んでくれるかおるに零は少しはにかむ。
「かおる君は再生医療の研究、するんだよね?何だか地に足が着いてて、すごいな・・・。」
零の素直な印象にかおるは小さく笑う。
「さぁ、ついたよ。お姫様?お気に召すといいんだけど。」
運転手がドアを開け、かおるが先に降りて手を差し伸べる。
・・・こういう所、本当に王子様みたい・・・。
いつの間にか、かおるの自然な行為に慣れてしまった零だが時々急に我に帰って恥かしくなる事がある。かおるの手に掴まって車を降りると、かおるはそのまま零の手を握って歩き出した。
数分歩いた先にあった雑貨屋は、輸入物やアンティークなど品揃えが豊富で店内に入った瞬間から零のテンションは上がりっぱなしだった。目をキラキラさせて店内を見て回る零の姿をかおるは微笑んで見守る。
・・・今日の零ちゃんはまた、とびきり可愛いな、
アンティーク調の小物入れを手にとってうっとりと眺めている零を見てかおるは心の中で呟く。いつもストレートの髪が今日はふわふわの巻き髪で、思わず触れたくなる衝動に駆られる。
「欲しいものがありすぎて困っちゃうよー。どうしよう?」
「・・・せっかく来たんだから、買って行こう。今日の記念に。僕から姫への贈り物。」
そう言って、かおるは零が手にしている小物入れを手に取る。正直、こう言う物のどこがいいのかあまり理解はできないが、キラキラしていたり、フワフワしているものを見ると零のテンションが上がる事をこの数分で理解した。それならこの小物入れは零にとってはドストライクなのだろうと思う。
「あっ、ダメだよ!それ高いし!今日の贈り物はプラネタリウムだけで十分だから。」
「プラネタリウムは僕の父からのプレゼントだから、僕からも何か贈らせて?お願い。」
かおるは半ば強引に零を説得して、ゆっくり見てて、と言い置いて会計をしに店の奥のカウンターへ向かう。途中、見た目にも美しいアンティークの万華鏡が目に留まり、かおるは小物入れとともにラッピングする様店員に依頼した。
「・・おい、あの店の中の子、見てみろよ、」
「超カワイイじゃん、」
「次のターゲット、決定?」
大通りを挟んだ向かい側を派手に学ランを着崩した3人の男子生徒がアンティークショップの中を指差す。すれ違う人たちが皆彼らと目を合さないようにそそくさと通り過ぎていく。
「・・・あれ、白金の月島じゃねーの、」
「あぁ、そうだな。」
「ふぅん、そりゃまた、面白いじゃねーか。」
「ごめんね?かおる君。ありがとう。」
かおるが手にしている綺麗にラッピングされた贈り物を見て零は嬉しそうに笑う。かおるはいつも通りそんな零に優しく微笑みかけ、待たせていた車に乗り込むと次の行き先を運転手に告げる。
「この後、ゆっくり食事をしてからプラネタリウムへ行こうか。プラネタリウムまでは移動に少し時間がかかるから、丁度いいくらいの時間になると思うよ。」
・・・さっき、北高の奴等がいたな。
かおるは車の窓からチラリと外を見て思う。さっき一瞬目が合った気がした。自分を見ていたのか、零の事を見ていたのか、と思うと心がざわめく。
「・・・かおる君?どうかしたの?」
不意に厳しい表情で黙り込んだかおるに不安を覚えた零が問いかける。
「え?あぁ、何でもないよ。ごめんね、ちょっと考え事しちゃってて。」
かおるの表情がいつもの穏やかな笑顔に戻ったのを見て零は安心して車のソファーにもたれる。
・・・プラネタリウム、楽しみだな・・・。
「零ちゃん、プラネタリウム、楽しみ?」
「えっ?私、声に出してた?」
「ううん、顔にそう書いてあるから。」
かおるの言葉に思わず顔に手をやる零を見て、かおるは楽しそうに笑う。本当にどうしようもなく無防備で、側にいないと心配で仕方がない。自分の前でだけこうあって欲しいと願っても、このお姫様はどこにいても誰といても同じように無防備で、そのせいで関わった者達を虜にして行っている事に気付いてさえいない。
「零ちゃん、好きだよ。」
不意に真剣な眼差しになったかおるの呟きに零は少し驚いた表情で頬を染める。
「・・・かおる君、ずるい、」
「・・そうだね、でも、ずるくても少しでも零ちゃんの側にいられたら僕は幸せだから、」
できることなら、ずっと独り占めしたいと思ってるんだけど、とまっすぐに零の目をみてにっこり微笑むかおるに零は真っ赤になる。
・・・どうしてそんな事、サラっと言えちゃうんだろう・・・。
頭の芯がクラクラするほど恥かしくて俯く。
「零ちゃん、もう少し側に行ってもいい?」
広い車内で離れて座っている零にかおるは問いかけ、零が答えるよりも先に肩を抱いて引き寄せる。
「・・・キャ・・」
「僕では、零ちゃんの一番にはなれないかな?絶対に辛い思いや寂しい思いはさせないって約束するよ。零ちゃんは僕の側で笑っててくれたらいいから、」
かおるの腕の中は温かくて、居心地がいい。抱き寄せられていても強引ではなくそっと守られているように感じて安心できる。でも、と零は思う。その優しさに甘える事が、何故か出来ない。答えられずに黙っている零にかおるは続ける。
「僕は零ちゃんが誰の事を想っていても零ちゃんの事が好きだよ。だから、いつも零ちゃんの隣にいられるように努力するつもり。零ちゃんにふさわしい男になってみせるよ、」
「そ・・・そんな・・・」
・・・私にふさわしい、ってそんなの、言いすぎだよ・・・。どっちかといえば、私がかおる君にふさわしくない、の方が正しいのに。
戸惑う零にかおるは微笑む。
「誰が何て言っても僕は零ちゃんのことが好きだよ。他の男の人と話しているのを見るだけでも心が乱れるくらいに。」
それにね、とかおるはいたずらっぽく笑って続ける。
「僕は零ちゃんが思うよりもずっと零ちゃんの事を知ってるよ。何が好きで、何に喜んだり笑ったり怒ったりするのかも。」
「零ちゃんの好きなところをあげたらキリがないけど、僕は零ちゃんの全てが大切なんだ。」
眩暈がするようなかおるの言葉に零は胸が苦しくなる。物腰も言葉も穏やかだけれど、情熱的な言葉はやはりイタリアンだ、と零は思う。好きな女性にはとことん積極的で、情熱的なイタリアの男性。かおるほどの容姿と家柄があればそんな事必要ないだろうに、と思うと零は不思議で仕方がない。婚約を破棄してまで一般庶民の、何のとりえもない自分をここまで好きだと言い切るかおるの気持ちが零には理解できずにいた。
情熱的な告白・・・・(*/∀\*)




