046:課題の山
夏休みに入る前の前フリです。すみません・・・。
伊織と話してから余計に自分の中の気持ちに混乱した零は出来るだけ何も考えないように、本来の姿である受験生としての毎日を過ごしていた。
つい先日、1学期の終わりに行なわれた学力テストの結果が廊下に張り出され、生徒達は教科毎の自分の成績に一喜一憂している中、どの教科を見ても上位3人までに名を連ねているかおると駿の優秀な成績に、零は納得をしながらも驚いていた。
「零ちゃん、どうだった?」
「うん・・・予想通りって言うか、」
・・・得意科目と苦手科目の差がすごいよね、私。
「零ちゃんは数学苦手なの?」
「うん、ドイツ語も。」
苦笑する零にかおるはいつも通り微笑かける。
「かおる君はすごいよね。全教科優秀だもんね。」
「零ちゃんの物理には負けるけど、」
と言って張り出されている唯一満点を取っているの零の順位を指す。
「物理だけだよ?数学なんて下から数えた方が早いし・・・ドイツ語だって全然だし・・・。」
しゅんとする零はいつ見ても可愛い、とかおるは内心思う。
「苦手科目の夏休みの課題、びっくりするくらいたくさん出るから・・・頑張ってね、零ちゃん、」
「えっ、そうなの?」
「残念ながら。だから多分零ちゃんは数学とドイツ語の課題がね、」
「・・・そ、そうなんだ・・・」
「だって、得意科目を強化する必要ないでしょ?」
「まぁそうだけど・・・」
憂鬱そうな表情を浮かべた零にかおるは微笑む。
「零ちゃんは夏休みは、どうするの?」
「どうするって?」
「寮に残るの?実家へ帰る?」
「あ、私ね、両親が海外にいるから・・・寮に残るよ。」
「じゃあ、僕と同じだね。街で夏祭りもあるし、花火もあるし、課題ばかりじゃなくて少しは遊びにいけるといいね、」
「お祭りあるんだ!花火も見に行きたいな、」
ぱっと顔を輝かせる零を見てかおるは苦笑する。こんな顔が見られるなら、お祭りでも花火でも、何処へでも連れて行きたいと思ってしまうのは自分だけではないはずだ。
「他のみんなはどうするんだろうね?みんな実家へ戻るのかな?」
「さぁ・・・多分ほとんど帰るんじゃないかな?春休みもそうだったでしょ?」
「俺は帰らないぜ、今年は姫君がいるからな。」
いつもの様に、突然現れて後ろから零を抱きしめる伊織。ものすごく不本意ながら、そう言う状態に慣れてしまった自分が悲しい。
「みんながいるところでそう言うことしないでッ!」
「人がいなけりゃいいんだな?」
「そう言う意味じゃないっ!」
クラスメイトも毎回繰り広げられる光景にすっかり慣れてしまったらしく、誰一人反応しない。
「伊織、僕の目の前で零ちゃんを抱きしめるなんて、相変わらずやってくれるね?」
「・・・おっと、いたのかナイト様?」
「ずっといたよ。」
「俺の目には愛しい姫君しか見えてなかったんだ、悪かったな。」
「いい加減、僕の零ちゃんに手を出すのはやめろ。」
「残念だが、零は俺のもんだぜ?いくらナイト様でもそう簡単には渡せねーな。」
「じゃあ、真剣で決闘でもする?」
「あぁ望むところだ。いつでもいいぜ?」
「ちょ、ちょっと!ちょっと!!もうやめてよ二人とも・・・。」
・・・・二人とも、過激すぎるよ・・・。
かおるはあのパーティー以来、前にも増して零の側にいるようになり、それに呼応するように伊織の過激さも増しているような気がする。前まであまり公然と発言をしなかったかおるが今は堂々と零の事を好きだと言い、零に声をかけようとする生徒達に対して怒りを露にする。
そんなこともあり、気が付くといつも3人で行動している事が多く、いつのまにかそれが当たり前のようになってしまっていた。顔をあわせればすぐ口論を始めるかおると伊織だったが、お互いに牽制しあっているだけで手を出すわけでもなく、お互いを認めつつ競い合っている。
「お前ら席に着け!夏休みの課題を配るからな!覚悟しとけよバカども!・・・おい、伊織はクイーンだろうが。零を放してさっさと行け、」
「とんだ邪魔が入りやがった。じゃまた後でな。」
・・・せんせー呼び捨てやめてくださーい。
「先生こそどさくさにまぎれて零ちゃんの肩を抱いたり呼び捨てにするのはやめてください。・・・零ちゃん、行こう、」
おー怖い怖い、と竹川は大げさに怖がって教壇に上がる。個人別の成績に応じた課題。一人ずつ名前が呼ばれ、各教科のテスト結果の一覧と共に、その結果に応じた個人別の課題が手渡される。
「次、かおる!・・・相変わらず優秀なこった。これ課題。」
「どうも、お褒めいただきまして、」
次々と呼ばれるクラスメイト達。かおるに手渡される課題は明らかに量が少なく、彼の優秀さを物語る。
「・・・佐倉!」
「はっはいっ!」
「お前は・・・数学とドイツ語。自覚アリか?ならいい。お前まだ優秀な方だぞ。」
手渡された課題は数学の問題集が10冊にドイツ語の本が5冊とその5冊分の感想文を全てドイツ語で書いて提出する、と言うもの。受け取った零はその重さよりも内容に眩暈がした。
「零ちゃん、持ってあげる・・・大丈夫?」
すかさず、いつの間にか横に来ていたかおるが零の手から課題の束を奪い取る。
零の次に呼ばれたクラスメイトは持ちきれない課題を出されてすでに撃沈していた。
「零ちゃんは優秀だよ?とっても。自信持ってね。」
にっこりと微笑むかおるに零は少しはにかんで、大量の課題に溜息を付く。これだけの量が本当に夏休みの間にこなせるのか不安になる量だ。
・・・数学の問題集10冊って単純計算でも3日で一冊くらいはやらないとダメってことだよね・・・しかもあのドイツ語の本超分厚いし・・・感想文もドイツ語って殺人的だよ・・・。
得意科目の課題がない、ということは息抜きをする時間もない、ということだ。要するに、夏休みと言う名の苦手克服教科月間と言うわけだ。さすが超進学校だな、と零は内心思いつつ、深い溜息を付いた。
強引なヒト好き・・・。そろそろかおると伊織から離脱して駿と健が登場します。
激甘モードに突入するのは早くて9月後半(小説内)か、10月くらいを予定しておりまする・・・。早くそこにたどりつきたい私・・・。




