045:恋愛相談?
零と伊織のお話です。
寮に戻った零は制服を着替えながら小さく溜息をつく。決して伊織のことが嫌いなのではないが、強引過ぎて少し怖い。一つ一つの行動や、選ぶ言葉の毒が強すぎて一緒にいると疲れてしまう。
7月も後半に差し掛かり、すっかり夏の日差しが強くなってきている窓の外を見た零は、ハーフパンツにシフォン地のチュニックを着て寮を出ると、すでに伊織が待っていた。
「行くぞ、」
黒いパンツに黒のシャツ。革靴を履いた伊織は見た目高校生には見えない。
・・・何か、迫力あるよね、伊織君って・・・。
内心そう思いながら、前を歩く伊織についていくと、校門近くに止めてあるバイクにまたがった。
「乗れよ。」
「えっ?これに?」
真っ赤な大型バイクに零は戸惑う。
・・・似合ってるけどさ、かっこいいけどさ・・・
思いながら、零は渡されたヘルメットを受け取りながら伊織を見上げる。
「免許なら持ってる。心配すんな、」
言いながら差し出された手に掴まってバイクの後ろにまたがると、伊織はヘルメットをかぶり、エンジンをかけた。
「しっかり掴まってろよ、落ちたらシャレになんねーからな、」
「えっ?!ちょっ、待ってッ!!」
有無を言わさずバイクをスタートさせた伊織に、初めてバイクの後ろにのった零は恐ろしいほどのエンジン音とスピードに驚いて慌ててしがみついた。
「どうだ?ちょっとはスッキリしただろ・・・っていつまで抱きついてんだお前、」
「え、あ・・・ごめん・・・」
どの位走っていたのだろう。景色を見る余裕もなく必死に伊織にしがみついていた零は伊織の声で我に返る。手を離して降りようとすると、いつもかおるがするように伊織が手を差し伸べてくれた。
「あ・・ありがとう。」
バイクから降りた零が大きく伸びをして緊張して固まってしまっていた身体をほぐしていると、バイクを止めた伊織が近づいて彼がいつもそうするように肩を抱く。
「さ、行くぜ、お姫様?」
「ちょっ、伊織君!離してッ!」
ムスクの香りに包まれるとイヤでも伊織を近くに感じてドキドキしてしまう。
「イヤだね。」
いつもならこの辺りで誰かが助けてくれるんだけど、と零は内心思うが、今は無理だと諦める。暴れても無理なら大人しくしているほうがいいだろうと大人しく従った。
「素直でよろしい、」
伊織は満足げにそう言って、高台のベンチに零を座らせた。
「ここって、街外れになるの?」
眼下に街並みの広がる高台の公園。眼下の町街がいつも買い物に行く街なのか、違う街なのか、まだ地理感のつかめていない零が問いかけると伊織は小さく笑う。
「街外れ、っちゃ、そうだな。今見えてる街がいつも行く街、その向こうの山の中腹に見えてるのが学校だ。」
「あ、あそこが学校なんだ、」
じゃあここは学校の反対側なんだね、と納得する零を面白そうに眺めていた伊織だったが、不意に目を細めてじっと探るように零の瞳を覗き込んだ。
「お前、駿のこと好きなんだろ?」
「なっ、何急に?!」
ギュッと心臓を掴まれた様な苦しさと同時に頬が赤くなる。
「お前ほんっと、わかりやすいよな、」
伊織はそう言って、彼にしては珍しく零と距離をとって座る。
「まともにしゃべったこともないヤツの事好きでどうしようっての?」
・・・・こ、これって、相談、乗ってくれるってこと?どうして伊織君が急にそんなこと・・・。
零が戸惑って黙っていると、伊織は小さく笑って眼下に広がる街に目を泳がせる。
「お前さ、いっつも怯えたような目でアイツの事見てるだけだろ?正直、見てるこっちが痛くてやってらんねーんだよな。」
「お前、どうしたいの?聞いてやるから言ってみろよ、」
いつも攻撃的な伊織の瞳に優しく笑いかけられると、ドキン、と心臓が跳ねる。
「ど、どうしたいって・・・よく・・・わかんない。」
「なんだそれ?好きなんじゃねーの?」
・・・もういいや、思ってること、言っちゃお・・・。
「す、好きって言うか・・・気になっちゃうって言うか・・・だっていつも一人でいるし、全然笑わないし、なんか心配って言うか・・・」
「それだけ?」
「・・うん、」
「お前さぁ、
いつもの伊織らしい、人を少しバカにしたような口調。
「そんなくらいであんな目して見つめてたわけ?!
・・・あ、あんな目って、私どんな目してたんだろう・・・。
「言っとくけど、寮のやつら全員、お前が駿のこと好きだって、思ってるぜ?まぁ本人はどう思ってんのかしらねーけどさ、」
アイツ完璧ポーカーフェイスだからな、と伊織は言って零の反応を見るようにじっと零を見る。
・・・みんな、ってみんなって・・・
思わず顔が火照る。そんなに私、久遠君のこと見てたんだ、と思うとさらに恥かしくなった。
「ま、悪い気はしないだろうな。姫さんがじっと自分の事見つめてたら勘違いも含めてオトコは舞い上がるってもんだ。」
まるで人事の様にそう言って、伊織は立ち上がり、柵にもたれて零を振り返る。
「でも・・・
「でも、何だよ?
「私、久遠君が話してくれるとうれしくって、笑ってくれたりするとすごいテンションあがるし、」
「で?」
「だから、
「だから私は久遠君のことが好きなんだと、思う・・・」
・・・私、何言ってんだろ。何で伊織君にこんなことしゃべってんの?!
「それって、健とかかおるとかでも同じじゃねーの?
「えっ?あ、まぁ・・・そうなんだけど・・・」
・・・わかんなくなってきちゃった・・・。
「好き、ってどういうことなんだろうね?」
「何だよ、いきなり哲学的な事言い出しやがって」
「だって、分からなくなってきたから、
「何が?
「だから、好きって言うのがどういうものか、
・・・久遠君に笑って欲しいって思うけど、でもそれは久遠君が笑わないからで・・・
・・・かおる君や健君が笑いかけてくれたり助けてくれるのもすごく嬉しいし、今だって、伊織君がちゃんと話聞いてくれてるの、すごく嬉しいし・・・
「好き、ってのはソイツの事を独り占めして自分の事だけを見て欲しいって思うことじゃねーの?俺はそう思うけど。」
《僕のことだけを見て欲しい》
パーティーの夜にかおるに言われた言葉が不意に蘇り、零は思わず頬を押さえる。
「俺はお前を独り占めしたいと思うぜ?それに、俺なら好きなヤツにはいつも幸せでいて欲しいと願うけどな。」
辛そうな顔や泣き顔なんか見たくねーし、と続けた伊織は少し赤い顔をして、それでもじっと零の瞳を見つめる。
「俺にしとけよ。お前が俺を選ぶなら、絶対に不安になんかさせないから。」
いつも自信に満ち溢れている伊織の瞳に微かによぎる不安の影。初めて見る照れたような笑顔に目を奪われる。
「・・・・チッ、邪魔が入りやがった」
その時鳴り出した携帯に伊織は舌打ちし、大げさに溜息を付いてみせる。
「ナイト様からだぜ?お前出るか?」
言いながらも携帯に出た伊織はいつもの彼に戻っていた。
「いいところで邪魔してくれて、ありがたい話だな、」
『邪魔されて困るような事をしている君がいけないんじゃないの、』
「言ったろうが、俺も本気で行くってな。悪いけど、手加減しないぜ?」
『好きにしろ。だけど傷つけるような事したらただではすまさないよ、」
「そんな事するわけねーだろ?いくら俺でも好きな女を泣かせるような事はしねーよ。」
・・・私、また携帯持ってないや・・・。
伊織が電話をしている間、かばんの中を探っていた零は自分が携帯を持っていないことに気付いて溜息を付く。また無駄に心配をかけたに違いない、と思うと気が重かった。
「・・・かおる君、怒ってた?」
電話を切った伊織に問いかけると、伊織は少し驚いた顔をして、すぐにいつもの毒のある表情に戻る。
「いや?俺と一緒なら安心だ、って言ってたぜ。」
そっか、と納得する零を見て伊織はかねてから感じている疑問を口にする。
「お前さ、何でかおるじゃないわけ?」
「へっ?!」
「だからさ、なんでかおるを好きにならないわけ?」
・・・・なんで、って、そんな事聞かれても・・・。
「・・・好きだよ?」
「そう言う好きじゃねぇよ、」
「そんな事聞かれたってわかんないよ!一緒にいてドキドキするとか、笑ってくれたら嬉しいとか、そう言うの好きっていうんでしょ?だったら好きだよ?かおる君も健君も、伊織君も。」
零の言葉に、伊織は少し驚く。
「そこに、駿は入らねーのかよ?」
「・・・久遠君は・・・」
・・・・よく、わかんない。
目を見てもくれないし、笑ってもくれないし、挨拶さえほとんどしてくれないし、きっと嫌われているから。好きと言うよりは、嫌われたくない、んだと思う。
零が素直な思いを口にすると、伊織は声をあげて笑い、なるほどね、と頷いた。
「じゃあもし、駿が俺達みたいに普通にお前に接していればそうは思わないわけだ?」
「・・そ、そりゃそうでしょ?普通に話してくれる人に話しして欲しい、って思うわけないじゃん。」
「じゃ、俺もお前に構うのやめるわ。それで追いかけてくれるならそんな楽な事ねーし。」
「そう言う意味じゃないよ!・・・無視されたら哀しいから、そんなのはイヤ・・」
「・・・冗談だよ。んな顔すんな。悪かったよ、」
哀しげな顔をした零に慌てて謝った伊織は、決まり悪そうな顔でポケットに手を入れる。
「もし、駿がお前のこと好きだっつったら、お前どうすんの?」
「えっ?!久遠君が?!・・・そんな事、あるわけないじゃん。」
伊織の言葉に一瞬、心臓が跳ねる。瞬間的に頬を染めた零の反応を見た伊織は軽く舌打ちして零から目を逸らせる。
「悪い事言わないから、俺にしとけ。俺の側にいたら不安になることもなくなる。」
「き、急にそんな事言われたって・・・」
「俺、ずっと言ってなかったか?お前に会った瞬間から言ってると思うけど?」
「えっ?!あ、で、でもっ、冗談だと思って・・」
「冗談でそんな事言うバカがいるもんか。・・・だいたいお前鈍すぎるんだよ、」
照れた笑顔で、伊織は零の頭を軽く叩き、帰るぞ、といつものように零の肩を抱いて歩き出した。
うーーー。俺様キャラの照れ顔。ツボ。ヤバイ。想像すると。。。やばい。




