043:パーティー・3
最近毎日更新できず・・・すみません。これからもがんばります。
よろしくお願いいたします☆
話がややこしくなるから、とパーティーの途中で帰る事になったかおると零はリムジンの中にいた。
まさかあの父が、あっさりと持論を覆すとは思わなかった。先日の電話では、全く僕の言い分に耳を貸さなかったのに。
・・・親子の血は争えないのか・・・。あの厳格な父が、零ちゃんの前では全く見る影もなかったな。
思い出すと、少し笑える。確かに、今日の零は直視できないほどの美しさと、目を離せば消えてしまいそうな儚さをあわせ持っていて、いつも一緒にいてよく知っているはずのかおるでさえも視線を合わせる事をためらうほどだった。
・・・あのフィアンセはどうなったんだろうな、
今まで気にかけたこともなかった、名前も覚えていないフィアンセの事を思う。あの時零に向けた侮辱の言葉は、裏を返せば零への嫉妬。もしかすると零が言うように彼女は自分の事を少なからず想っていたのかもしれないな、と思うと微かに心がざわめいた。
・・・零ちゃん、僕は冷たい人間なんだよ。君が思うよりずっと。
かおるは心の中で思う。慣れない環境によほど疲れたのだろう。リムジンのクッションにもたれて眠ってしまった零の肩をそっと抱き寄せる。小さな零の身体は簡単に腕の中に納まり、肩にもたれかかる体重が心地いい。
「無防備になっちゃだめだ、っていつも言ってるのに、」
自分の腕の中で穏やかに眠る零にかおるは囁く。うっすらと開いた唇が、少し頬にかかる髪が、かおるの心を締め付ける。もしここにいるのが自分ではなく伊織だったら、と考えると恐ろしくなる。火の様に激しい伊織なら間違いなく手を出している事だろう。
「僕だって、いつまでも紳士でいられるとは限らないのに。」
そっと零の頬に触れる。もう、自分の気持ちを抑える必要はない。フィアンセとの婚約は解消され、自分の夢を叶える事を許された。零の気持ちが他の男に向かっているのならこちらを振り向かせる努力をすればいいだけだ。
・・・でもそれじゃ、伊織と大差ないな。
《お前を彼女にしてやる。必ず俺を選ばせてやる》と豪語している伊織を思い出し、かおるはふと唇の端に笑みを浮かべる。この無防備な姫を手に入れたいと願うのが自分だけならどんなに楽だっただろう。こんなにも小さくて頼りなくて、誰かが守っていなければすぐに攫われてしまいそうな子なのに、はっきりと自分の夢を語れる強さがあって、本当に驚かされる。ただ怯えているだけかと思えば、その澄んだ瞳で見つめられると何もかも見透かされているような気分にもなる。感情を素直に映す瞳を見ていると、いつまでも見ていたくなる不思議な魅力。笑う事も泣く事も起こることもためらわない強さをうらやましく思うのはかおるだけではないはずだ。
「好きだよ、」
腕の中で眠る零にそっと囁く。
・・・たとえ零ちゃんが、アイツの事を想っていても、僕に未来をくれた君を、僕はずっと想い続けるよ。
音もなくリムジンが校門の前に止まり、運転手がドアを開ける。眠ってしまっている零を起こさないようそっと抱き上げたかおるは運転手に軽く頭を下げて校門をくぐった。
・・・相変わらず、軽いな、零ちゃんは。
抱っこしたのは何ヶ月ぶりだろう、と思う。思えば出会った頃は目が合うだけで真っ赤になっていたな、と出会って間もない頃を懐かしく思い出す。腕の中の零を起こさないように、と言うよりは、この時間を少しでも長く続けたくてかおるは寮までの路をゆっくりと歩く。
・・・今日一日、って約束だからね、
時計の針は10時前。かおるは小さく溜息を付いて、零を抱いたまま寮の自分の部屋のソファーに深く腰を下ろす。窓から差し込む月明かりが照らす零の寝顔は美しく、いつまで見ていても飽きない。
「どうしてそんなに無防備になれるの、」
眠る零に問いかける。
「僕はもう、遠慮しないって決めたから、僕だって安全じゃないのに、」
そっと、額に口付ける。
「目を覚まさないなら、このまま襲ってしまうよ?」
もう一度、額に口付けると、零が小さく身動ぎしてうっすらと目を開ける。
「零ちゃん、目が覚めた?」
間近に寄せられたかおるの顔と、かおるの後ろの窓に浮かぶ月、抱きしめられている腕の熱さに零は瞬間的にパニックになる。
「えっ、わ、私、寝てた?!こ、ここ、今、どこ?!」
「寝てたよ。ここは寮の、僕の部屋。」
にっこりと微笑むかおるに、零は真っ赤になる。
「ご、ごめんね、迷惑かけて、私、部屋に・・・ッ!」
慌てて腕から逃れようとする零をぎゅっと力を入れて抱きしめ、その髪に頬を寄せる。
「今日一日は、僕の恋人になってくれるんでしょ?」
「えっ、で、でもそれってパーティーの・・・」
「ひどいな、パーティーが終わったらもうおしまいなんだ。僕はずっと一緒にいたいのに、」
「えっ、で、でも、」
「言ったよね、僕は零ちゃんの事が好きだって。今まではずっと、フィアンセの事や、跡継ぎの件があったから踏み込まないようにずっと我慢していたけど、もうその必要がなくなったから。」
言って、強く抱きしめていた腕の力を抜き、まっすぐに零の瞳を見つめる。
「もう誰にも遠慮しないし、自分を偽る事もしない。僕は零ちゃんの事が好きだ。誰にも渡したくないし、誰の事も見て欲しくない。僕の事だけを頼って僕の事だけを見つめて欲しい。」
窓から差し込む月明かりの下で少し潤んでいるようにも見えるかおるの瞳にまっすぐに見据えられた零は呼吸を忘れるほど胸が苦しくなる。どうしてこんなにもまっすぐに想いを伝えられるんだろう。どうしてこんなにも人の事を好きだと言えるんだろうと頭の片隅で思う。
「今は零ちゃんの目が、アイツの事を見てるって分かってるけど・・・
「僕の事を見てもらえるように、努力するから。いつか、僕の事を見て欲しい。」
かおるはそう言うと、腕の中の零を再び抱きしめた。
・・・・どうして、かおる君がそんな事、言うんだろう・・・?
かおるの腕の中で苦しいほどに抱きしめられた零は苦しくて悲鳴を上げ始めた心を抱えながらぼんやりと思う。突然いろいろなことが起こりすぎて心が付いて行っていない。つい数時間前までのパーティーの事も現実ではなく夢だったのではないかと思えるほどだ。
・・・かおる君が?私を?好き?そんなことって・・・
ありえない、と思う。完璧に美しい王子様が何故?日本を代表する財閥の跡取りで、容姿端麗、成績優秀なだけでなく穏やかで優しくて、こんな完全な人間がいるとは思えない程に完璧なかおるが、嫌われ者の自分の事を好きだなどと俄かに信じられる話ではなかった。
「零ちゃん、」
零を抱きしめたままかおるが小さく呟く。
「もう、今日が終わってしまうね、」
悲しげなかおるの声に零の心が締め付けられる。かおるはそっと零の身体を離し、ソファーに座らせると、自分は床に跪いてまっすぐに零の瞳を見つめる。ずっと抱きしめられていた零はかおるの体温が離れると急に一人にされたような気になってそっと自分の腕を抱く。
「今日は本当にありがとう。零ちゃんのおかげで僕の夢が叶うんだ。
「零ちゃんが迷惑だと言っても、僕はずっと零ちゃんの事を想うよ。僕に未来をくれた君の事を。」
かおるは強い意思を秘めた瞳でまっすぐに零を見る。
「・・・だから、僕の前でもう無防備になっちゃだめだよ?僕だっていつまでも紳士ではいられないと思うから。」
そう言って、少し辛そうに目を伏せたかおるは戸惑いを隠せないままの零の手を取って立ち上がらせる。
「約束の時間だから、部屋まで送るよ。」
ドアを開ければすぐ目の前にある零の部屋。かおるはそのドアを開けて電気をつける。
「おやすみ、零ちゃん。」
いつものようににっこりと微笑んで、ドアを閉める。ただそれだけの事が今のかおるには辛く、閉めたドアにもたれて深く溜息をついた。
《僕はずっと零ちゃんの事を想うよ。》
まっすぐに自分を見つめたかおるの瞳が脳裏から離れない。何故急にそんな事を言うのだろう?頭の中が混乱して心の整理がつかない。
《アイツの事が好きなんでしょ?》
そう言った時のかおるの哀しげな瞳。誰にも言った事のない、自分でさえも、はっきりと気付いていない零の気持ちを、なぜかおるは知っているのだろう?
ふと、ドレッサーの鏡に映る自分の姿に目をやった零は、見慣れない自分の姿に溜息をつく。かおるが持って来てくれたドレスは零の好みのデザインでもあり最初は心躍っていたがやはりこう見ると借り物の様に見える。キラキラと輝くネックレスやイヤリングも自分には似合わないと思うと、今日かおると共にいた時間が辛くなった。
ダンスも上手く踊れない零を完璧にエスコートしてくれたかおる。周囲の目には一体どう映っていたのだろう。
・・・私は、かおる君には釣り合わないよ。
鏡の中の自分に呟く。好きだと言ってくれたかおるの言葉が真実でも、かおるの隣に立っている自分の姿など想像できない。それに、と零は思う。
・・・私は・・・。
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