040:パーティーへ
今回はちょびっとシリアスモードです。あぁ早くラブラブモードに入りたいぃぃ。
《パーティーがあるんだけど、付き合ってくれる?》
いつものかおるらしくない、少しさみしげな微笑みが気になってOKしたけれど、いざ当日が来てしまうと零はものすごく緊張している自分に気付く。
そもそも、正式なパーティーにはまだ参加した経験がない。パーティードレスは僕が準備するから、とかおるは言っていたが、そもそもドレス自体着た事がないのにそんな場所に行く事が許されるのかどうかさえも不安だった。
かおるに渡されたドレスや靴、ネックレスなどの装飾品を身につけ、精一杯背伸びをしたメイクをする。髪型は悩みに悩んだ末、自分的に最も《可愛く》見えると思われるハーフアップの巻き髪にした。
誘ってくれたかおるに恥をかかせるような事をしたくないと願うが、生まれて初めての経験なだけに不安だけが募る。
「零ちゃん、準備できた?」
遠慮がちにドアをノックする音。いつものかおるらしくない少し寂しげな声。
「う、うん、大丈夫。」
零が返事をすると、そっとドアが開き、かおるが姿を現す。正装をしたかおるは、似合いすぎていて、素敵過ぎて零は思わず見惚れたが、同じようにかおるも零に見惚れていた。
「零ちゃん、可愛すぎて綺麗すぎて、言葉にできないな。」
唯一、零がイギリス人の血を引き継いだと思われる、長く濃いまつげを綺麗にカールして、ほんのりとパステルカラーのシャドウを入れた瞼、くっきりと入れたたれ目がちなアイライン、ほんのりと淡いチーク、潤んだようなピンクの唇。かおるはしばらくうっとりと零を見つめ、自分が選んだ自分好みのドレスとはいえ、これほどまで似合うとは思わなかった、と思う。目の前に佇む零は、目を背けたくなる程美しい。
「さぁ、姫、行こうか。」
いつも通り、微笑んで手を差し伸べたが、かおるは自分がいつも通りに笑えているのか自信がなかった。
「・・・ねぇ、かおる君、今日ってどんなパーティーなの?私、こういうの初めてだからちょっと怖くて・・・」
不安気に見上げる瞳にかおるはいつになく辛そうに眉根を寄せる。いつか話す日が来ると覚悟はしていたが、いざ話すとなると、自分が思っていた以上に心が痛んだ。
「零ちゃん、今まで何度も話そうと思ってたんだけど、
辛そうなかおるを見て零は不安になる。
「僕は月島財閥の跡取り息子なんだよ。
言って、かおるは小さく微笑む。
「え、そ、そうなんだ・・・
驚いて、目を見開く零から、かおるは目を逸らす。
「僕には幼い頃から決められた未来があって、その未来にはフィアンセもいるんだよ。」
「フィアンセ?」
「そう、3歳くらいのときに一度会ったきり、二度と会っていないフィアンセがね、」
皮肉気な口調に零の心が痛む。
「今日は正式に僕が跡取りになると言う、お披露目のパーティーなんだ。」
そう言って、かおるは辛そうに口を噤む。
・・・跡取り、お披露目・・・フィアンセ・・・。
零は雲の上のような話に瞬時に状況が理解できずにかおるを見上げる。
「黙ってて、ごめん。
かおるはそこでまた言葉を選ぶかのように間をおいてまっすぐに零の瞳を見つめる。
「今日のこの日までに、僕が僕自身の手で、僕が目指すべき道と、愛するべき人を見つけることができなければ、高校卒業と同時に結婚することを約束させられる日、でもあるんだ。」
「え・・?あ、、」
「本当は、先に話しておくべきだったんだけど、ごめん、言えなくて、」
辛そうなかおるを零が黙ったまま見つめているとかおるはさらに言葉を続ける。
「僕が目指すべき道はもうずっと前から心に決めてるんだ。僕は高校卒業と同時に、アメリカへ留学して再生医療の研究をする。そう、決めてるんだ。・・・そして僕が愛すべき人は、零ちゃん、だと思ってる。」
でもね、とかおるは強くて哀しげな瞳をまっすぐに零に向ける。
「僕がどんなに零ちゃんを好きでも、この思いは絶対に叶わないんだよ。僕と、そのフィアンセの結婚はずっと前から決まっていて、僕が他の誰を愛したとしても、覆される事はないんだ、」
「あ、あの、私・・・」
戸惑う零に、かおるは力なく微笑みかける。
「ただ、時間稼ぎができる、と言うだけ。そんなしょうもない事に、巻き込んでごめん。」
・・・愛すべき、ヒト。
「好きだよ、零ちゃん。決して叶わない想いだけど、今日一日だけ、僕の彼女になってほしい。今日だけ僕の為に、側にいて欲しい。」
見開かれた零の瞳をじっと見つめ、かおるは小さく吐息を付く。
「・・・ごめんね、こんな時に告白するなんてずるいよね。ごめん。」
辛そうに謝るかおるにかける言葉が見つからず、零はただ黙ってかおるの隣に佇む。
好きって、どういうこと?かおる君が、私を、好き?でも、フィアンセがいて、フィアンセとの結婚は決まってるのに?
頭の中で、様々な思いが渦巻く。いつも完璧で優しく強いかおるが今は酷く弱っているようにも見える。
「私・・・私、かおる君のフィアンセはきっと、とても幸せだと思う。かおる君みたいな素敵で優しい人が一生エスコートしてくれるって言う未来が約束されているなんて、女の子にとってそんな幸せな事ってないと思う。」
零が呟くようにそう言うと、かおるは力なく微笑む。
「その相手が、零ちゃんならよかったんだけど。」
「零ちゃん、僕は零ちゃんが誰の事を想っているか、分かってるつもりだよ。分かってて、今日こうやって連れ出して、告白して、上手くいけば独り占めしてしまいたいなんて考えているような卑怯な男だけど、」
「それでも、僕は君が好きだ。」
・・・言ったってムダなんだけど。言ったって未来は変わらないけど、それでも、僕は・・・。
想いを告げても、かおるの心の中の黒い闇は晴れることはなく、ただ苦く広がる後悔がかおるを苦しめた。
零ちゃん、かわゆす。
妄想して一人でニヤニヤしてしまいました。
普段スッピンの高校生が正装してバッチリメイクって、いいですよね。。