041:パーティー・1
お待たせしました・・・(って誰も待ってないか・・・グスン)。
今回、長いです・・・。いつもの2話分くらいあります。
校門に横付けされたリムジンに乗り込み、かおると共に向かった先は高級ホテル。間違いなく場違いな空気に物怖じしている零をかおるがそっとエスコートする。
零の脳裏から、《今日一日でいいから僕の恋人でいて、》と言われた時の、泣き出しそうなかおるの瞳が焼きついて離れない。
あのかおるが日本を代表する財閥の跡取りで、すでにフィアンセがいて、その未来に抗いたくてもがいている姿を、そんな現実を知った零は驚きと同時に不思議と自然にその現実を受け入れていた。日常に見せるかおるの振る舞いや決断力などはきっと生まれ持っての資質なのだろうと思えば全て納得できた。
・・・・私がここにいることで、少しでもかおる君が楽になるのなら、
零はそう思って、かおるに手を引かれて会場の中に入る。見たことのない景色、たくさんの《上流階級》の人たちが正装して談笑する姿。
《僕は君が好きだ》と言った時の、初めて見たかおるの真摯な瞳。いつも冗談めかして好きだと言われていた時とは違って、心が震えた。
でも、と零は思う。かおるが話してくれた現実離れした現実に驚きすぎているせいだろうか、かおるの言葉が心の表面を滑って通り過ぎてしまう。現実に起きていることなのに、まるで夢の中で話をしているような、そんな気分にさえなった。
会場に着くと、迎えに出てきた初老の男性がかおるを見るなり泣きそうな笑顔で駆け寄ってきた。
「かおる様、お久しぶりでございます。」
「高田さんも、元気そうでよかった、」
・・・この感じ、執事ってやつ??本物初めて見た!
零は二人の様子を見て内心思う。明らかに住む世界の違う人だ、と実感する。
「こちらのお嬢さんは?」
「紹介するよ、こちら佐倉零さん。ぼくの恋人。零、執事の高田さんだよ、」
「はじめまして、佐倉零です。」
「なんと美しいお嬢さんでしょう。かおる様、お二人よくお似合いでございます。」
・・・・きっ、緊張するんだけど・・・零って呼び捨てだし何か恥かしい・・・。
零の耳がピンク色に染まったのを見てかおるは小さく笑い、そっと零の腰に手を回して会場へいざなう。
「零ちゃん、今日は僕等は恋人、だからね。全部僕に任せて。何があっても僕が守るから。僕から離れないでね。」
耳元で囁かれ、零は黙って頷く。明らかに場違いな場所でどのように振舞うのが正しいかも分からない。着慣れていない胸元の開いたドレスを気にしながら、履きなれない高いヒールで歩くだけでも零にとっては緊張の連続だった。
「かおる様、おめでとうございます。」
「ありがとう、久しぶりだね。」
会場内ですれ違う人がかおるに声をかける。どう見ても年上の人たちが敬語を使い敬称をつけて話しかける様子を見ていた零は、かおるが本当に王子だったのかと錯覚しはじめていた。
みな、かおるに声をかけながら、隣にいる零に興味あり気な視線を投げる。目が合ったら笑顔で会釈すればいい、と言われていた零は目が会うたびににっこり笑って軽く頭を下げていた。
「かおる!」
会場の奥から一際大きな声でかおるを呼ぶ声。視線を上げるとまさにちょい悪親父を地で行っているような、スマートな男性が手招きしている。
「・・・僕の、父だよ。」
「えっ、あれが・・・」
・・・お父さんもかっこいいんだ。あんまり似てないけど・・でもステキな人・・・
零はかおるにエスコートされて会場を横切り、かおるを手招きした父親のところへたどり着く。広すぎる会場にはたくさんの人が歓談していて、慣れない零は姿勢を正してかおるについて歩くだけですでに疲れていた。
「零ちゃん、大丈夫?」
かおるは慣れないヒールを履いて歩いている零を気遣っていつもよりゆっくりと歩いていたが、それ以上にこの場の空気が零を追い詰めていないかが気がかりだった。ただでさえ目立つ自分と一緒にいるのだから自然と注目も集まっている。
「・・うん、大丈夫。何かすごいね。」
無理しているのか、本当に平気なのか判断できなかったが、かおるの予想に反して零は笑顔でかおるを見上げる。高いヒールのおかげでいつもより顔が近い。いつもと違う髪形できれいにメイクをしている零の笑顔は直視出来ないほど美しく、かおるは少し頬を染めた。
「かおる、久しぶりだな。」
「えぇ、7年ぶりですね。」
・・・えっ?7年?そんなに会ってないの??
驚く零の隣で親子とは思えない作り物の笑顔で会話する二人。
「ところで、・・・こちらの美しいお嬢さんは・・・?はじめまして、かおるの父、月島崇です。・・・貴方の様に美しいお嬢さんに出会ったのは初めてだ。」
・・・・ちっ、近い!近い近い近い!お父さん、近いっ!
かおるの父、崇はかおるの隣に佇んでいた零の両手を取って掌で包み込むように握り、ぐっと顔を近づけてくる。
「いや、本当に美しい。ずっと見つめていたい程だ、」
「・・・お父さん、零から離れてください。」
「なんだ、うるさいな、」
「零は僕の恋人です。お父さんでも手を出したら許しませんよ、」
「・・・・お前の?恋人?この美しいお嬢さんが?」
零の手を握り締めたまま姿勢を戻し、かおるに問いかける崇。
「今日恋人を連れて来いと言ったのは貴方でしょう?」
呆れたように吐息を付くかおるに崇はニヤリと笑う。
「まぁ言ったが、まさか本当につれてくるとはな。しかも・・・・こんな美しいお嬢さんを。」
・・・近いよ、近いって!
再び近づいた崇に零は思う。
「お父さん、離れてください。・・・紹介するよ、こちら、佐倉零さん。零、父だよ。」
「はじめまして、佐倉零と申します。」
零ちゃんと言うのか、と完全に目じりの下がっている崇は呟き、零の肩を抱き寄せる。
「かおるのどこがいいのかね?私の方が言いと思わないか?私も独身なんだ。私の方がかおるよりも甲斐性があると思うがね、」
肩を抱き寄せて顔を間近によせてくる崇に、零はどうしていいのか分からず固まる。
・・・かっかおる君のお父さんって、軽い人??すごい人なんじゃないの??
「お父さん、それ以上零に触れると、たとえ父さんでも許さないよ、」
怒りに燃えるかおるの瞳。いつもとは違う冷たい口調に固まったのは零。
「・・・まぁそう怒るな。ちょっと試しただけさ。・・それにしても、美しい。」
うっとりと零を見つめる父親を冷たく一瞥して零を自分の傍へ引き寄せると、かおるは不満を隠さずに呟く。
「そんな目で零を見るのはやめて下さい。零、行こう、」
かおるは父親の手から零を奪い返し、かばうように抱きしめる。
「・・・お前にはもったいない。」
「貴方に言われる筋合いはありません。」
「零ちゃん、零ちゃんはどう思う?私とかおるとどっちが魅力的だと?」
「えっ?!そ、そんな・・・」
「そんな赤くなって・・・可愛いすぎるじゃないか、かおる。お前どうやってこんなお嬢さんを見つけてきたんだ?ん?」
・・・・なんか、かおる君とこのお父さんって、すごく対称的と言うか・・・。
「同じ高校のクラスメイトです。零、もう行こう、」
あまりにも積極的に零に絡む父親に呆れたかおるが零の手をひいてその場を離れる。かおるは零の肩を抱き寄せて大勢の人が行きかう会場を縫うように歩きながら給仕を呼びとめた。
「彼女に飲み物を、」
その毅然としたその態度は本物の王子のようで、零は思わず見とれる。自分とは住む世界が違う人なんだ、と心の中で思いながらその端正な横顔を見つめた。
「・・・ごめんね、零ちゃん、驚いた?」
「えっ?あ、うん。なんか住む世界が違うなーって。」
「・・・そうだね。僕もそう思うよ、」
かおるはそう言って小さく微笑み、給仕が持ってきた飲み物を零に渡す。小さなグラスに入った飲み物は淡い琥珀色をしている。
「大丈夫、アルコールは入ってないよ。」
かおるに微笑まれ、零は手にしたグラスに口を付ける。飲んだことのない、不思議な味。甘いような、甘くないような、それでいてスッキリとした後味だ。
「零ちゃん、向こうで少し休もうか、足疲れるでしょ?」
慣れない高いヒールの靴を履いている零を気遣ってかおるはテラスへと零を誘う。途中、両親に連れられた年若い女性とすれ違った。
「あ・・・」
すれ違いざま、女性が何か言いたげに口を開いたのを見た零は軽くかおるの手をひくが、かおるは見向きもせず、零の肩を抱き寄せて通り過ぎ、テラスに出ると手すりにもたれて大きく息を吐き出した。
「・・・さっきの、フィアンセだよ。」
「え・・?よ、よかったの?何か言おうとしてたけど・・・」
「僕は何も言う事はないし、勝手に決められたフィアンセに突然会わされて突然好きになれる?僕も彼女も、3歳の時に一度会って以来会うのは二度目なんだよ?もしそれで彼女が僕の事を好きだと言うならそれは偽りでしかない。そんな人の話なんて、聞く意味もない。」
冷たく言い放つかおる。決められた道を歩かざるを得ない苦痛を、怒りに近いその感情をどこにぶつけていいのか分からない、と言った様に呟く。
「僕には、何も選べないんだよ、」
「かおる君・・・」
「ごめん、零ちゃん。零ちゃんに八つ当たりなんかして、」
辛そうに目を伏せたかおるに零は戸惑う。いつも、そんな不安や辛さを抱えてあんな風に微笑んでいたのかと思うと、胸が苦しくなった。
「かおる君、私には・・・その、そう言う気持ち、多分分かってあげられないと思うけど、でも、一人で抱え込んで辛い思いしているならもっと話して欲しいな。かおる君いつも笑ってて、そんな悩みなんてないって思ってたけど、本当はすごく辛いんでしょ?私には話を聞く事しかできないかもしれないけど、それでも少しでもかおる君の心が晴れるなら・・・ッ!」
零の言葉を遮って、かおるは零を抱きしめる。かおるの心の中に言葉にできない想いが渦巻き、ただ黙って零を抱きしめていると少し心が落ち着いた。
「・・・ごめんね、」
かおるは小さく謝って零から身体を離して微笑む。
「僕は幸せだよ。心から大切にしたいと思える人に出会えて、そしてその人が今目の前にいてくれる。
「零ちゃんが誰の事を想っていても、僕は君を想うよ。零ちゃんが幸せに笑っていられるように、ずっと祈ってるから。」
「かおる君・・・。」
「アイツの事が、好きなんでしょ?」
名前を出さずに問いかけると零は微かに頬を染める。自分ではない人に零の心が向かっている事に気付いた時、どれほど辛かっただろう。だけどそれは同時に、かおるを少し慰めもした。
・・・もしも零ちゃんが自分の事を好きだと言ったら、僕はこの自分が置かれている現実を、受け入れる事ができなかっただろう。
そう思うと、他の男の側であっても、ずっと幸せに笑っていてくれるならそれでいい、とそう思うことにした。
「零、こっちに来て」
不意に、かおるが零の手を引き寄せ、手すりにもたれた体制のまま腕の中に抱き寄せる。僕にもたれて、と小さく囁かれ、零は言われた通りに体重を預ける。
「・・・あ・・」
「何か、用?」
零の視線の先に、こちらを見ているフィアンセの姿が映る。戸惑う零とは対称的に冷たく問いかけるかおるに、いつだったか竹川が言っていた《かおるは冷たい》と言う言葉をぼんやりと思い出す。
「あ・・あの・・」
口ごもるフィアンセに、かおるは用がないのなら邪魔しないで、零を抱く腕に力を込める。零はフィアンセが泣き出してしまうのではないかと気が気ではなく、かといって、何か口出しをする立場でもなく、ただ黙って成り行きを見守る。いつも優しいかおるが、こんな風に冷たい態度を取れることに変に感心したりもしていた。
フィアンセは、特別な美人とは言えないが、清楚でおとなしそうな印象の女性。年齢は少し上ではないかと思う。立ち居振る舞いには品があり、きっとお嬢様なんだろうと思って見ていると、意外にもその女性は零を鋭くにらんだ。
「貴方のような、品のないお方がかおる様のお側にいらっしゃるのはいかがなものでしょう?」
「え・・?」
彼女の口から出た鋭い非難の言葉に零は驚いたが、零の驚きと同時にかおるが手すりにもたれていた身体を起こして彼女を睨んだ。
「僕の零を侮辱するのは僕を侮辱するのと同じ事だとわかった上でのお言葉ですか?不愉快だ。僕の前から消えろ、」
「か・・かおる、君・・?」
「零、不愉快な思いをさせてごめん。向こうへ行こう。」
有無を言わせぬその言葉に零は戸惑いながらも従う。かおるは零をいざないながら、敵意に満ちた視線を見た瞬間に自分の中に生まれた彼女に対する嫌悪感をもてあましていた。
この場所に零を連れてきたのは自分で、ここで零が好奇の視線や嫉妬の視線にさらされる事は分かっていたのに。
「ごめんね、かおる君、私のせいでかおる君が恥かいちゃうよね・・・」
「えっ、な、何言って・・・」
「だって、彼女の言う事、間違ってないよ?私は明らかに場違いだし・・・品がないって言われても仕方ないと思うの。」
「・・・そんなこと・・・」
・・・僕は、守っているつもりで、零ちゃんに守られているのかも、しれないな。
かおるは心の中で呟く。もしも零がこの場に来てくれていなかったら、今頃どうなっていたのだろうと思うと背筋が寒くなる。
「そんなことないよ、零。そこにいてくれるだけで、隣で笑っていてくれるだけで、僕は本当に救われるんだ。」
かおるはそう言って零の身体を抱きしめた。
パーティー、行ってみたいですねぇ。
かおる君って、大人ですよね・・・私はあんな風にはなれないなぁ・・・。
誰かのそばでも幸せに笑っていてくれたらいいよ・・・キャーッ☆言われたいっす。




