038:夜更けの会話
今回は次話へのネタふり的位置づけなので・・・面白くなかったらすみません。
体育祭が終わり、零はそれまで以上に気を使ってくれるかおる達の優しさをいつの間にか辛く感じるようになっていた。多分、それは自分にも原因がある。忘れたくても忘れられない過去をひきずって、あんな少しの陰口に傷ついてしまう自分の弱さが優しい周囲の人たちを巻き込んでいる事を零は理解していた。
前の学校にいたときの様に一人ではない、と思える心強さはあったが、それでも同じ痛みを共有させる痛みは、一人で耐える痛みよりも辛い、と零は思う。
苦手な数学の講義。難解な公式を紐解く作業は苦痛で頭の芯が痛くなる。些細な事がきっかけで雲が晴れるように理解できた時の爽快さはあるにしろ、そこにたどり着くまでの長いプロセスはいつも零を悩ませた。
・・・久遠君は、いつも淡々としてるよね・・・。
隣に座る駿にチラリと視線を投げて零は思う。初めて会った時から全く変わらないポーカーフェイス。寮でもいつも一人で部屋にいるか、食堂でも一人本を読んでいてあまり誰とも関わろうとしない駿。修学旅行先の沖縄で皆と笑い会ってふざけていた駿の姿を思い出すと、一人でいるより他のみんなと同じようにいろんな事を話して笑っていて欲しいと願ってしまう。
・・・ちょっと笑ってくれるだけでも、すごいテンション上がるんだけどな、私。
表情一つ変えずに淡々とノートにペンを走らせている駿を見て、零は小さく溜息を付く。
「佐倉、次の問題、お前やってみろ、」
「あっ、はっはいっ!」
駿の事を考えていた零は突然名前を呼ばれて焦って席を立つ。慌てすぎて机の上のペンケースを派手に床に落としてさらに慌ててしまう。
「・・・お前、大丈夫?」
真っ赤になって床に散らばったペンを拾う零に呆れた視線を投げる駿。拾ってくれた消しゴムを受け取る瞬間指先が触れて零は慌てて手をひっこめた。
・・・あ、あれ?
手の中に、消しゴムと一緒に渡された小さなメモ。広げてみると今出された問題の回答が書かれている。
「?!」
驚いて駿の方を見たが、駿はいつも通りのポーカーフェイスで頬杖をついて次の問題を解いている。零は渡された回答のおかげで卒なく回答する事ができ、ほっと胸をなでおろしていた。
・・・零ちゃんは相変わらず・・・分かりやすいね。
授業中、一番後ろの席で授業を受けているかおるは時折零に目をやって思う。あぁ今の問題は分からないんだろうな、とか、あ、今解けたんだろうな、とか、ずっと見ていても飽きない。
けど、とかおるは軽く目を伏せる。
・・・見たくないものまで、見えるのはどうかと思うけど。
零の目が、駿を追っていることに気付いたのは少し前。寮で食事の時にいつも駿の方を気にしたり、授業中に隣に視線を投げたり、放課後に図書室へ向かう駿について行ったり、いつもポーカーフェイスの駿に少し怯えたようにおどおどして、それでも近づこうとしている零に気付いた時、零に冷たい態度を取る駿に怒りさえ覚えた。
常にポーカーフェイスの駿が零の事をどう思っているのかは分からないが、それでも零に対する態度は他の生徒に対するそれとは違うと思う。それは零が女の子だからなのか、それとももっと別な理由でなのか、と思いをめぐらせる。
・・・駿も、零ちゃんの事が好きなんだろうな、きっと。
ぼんやりと思う。好きだから、距離を置く。駿らしいといえば、駿らしい。近づかなければ傷つく事も、傷つける事もない。もしも駿が僕や伊織の様にまっすぐに思いを告げていたら、と思うと急に心が苦しくなった。零が他の男と手をつないで笑いあっている姿を想像しただけで、今まで感じた事のない感情に囚われた。
・・・嫉妬?焦り?僕がそんな事したって、僕が零ちゃんと手をつなげるわけじゃないのに、
かおるは零から目を逸らせて窓の外を見る。梅雨が明けたばかりの夏空。もうすぐ7月がやってくる。出来ることなら避けて通りたい日が訪れる。そう思っただけで憂鬱になって、かおるは小さく溜息を付いた。
「だから、ちゃんと行きますよ、約束通り、・・連れて。・・・僕は!再生医療の研究をしたいんだ。治らない病を治せるかもしれない奇跡の医術を・・・聞いてください、お父さん!・・・」
夜中に喉が渇いて目が覚めた零は部屋を出て、かおるの部屋から途切れ途切れに聞こえてきた、めずらしく切羽詰ったようなかおるの声に驚いて足を止める。
・・・電話、してるのかな。再生医療の研究、かぁ。すごいな、かおる君。電話の相手はお父さん?お父さんに敬語使うんだ・・・。
かおるの口調から、何となく聞かないほうがよかったのかもしれない、と少し後悔する。そういえば一度もかおる自身の事について聞いた事がないから、あまり話したくない理由があるのだろう、と思う。
・・・でも、かおる君のことだから、超セレブでお父さんの命令は絶対なんですー、とかありえそうだよね。夢を持ってても、お父さんが許さなければダメ!とか。
心の中で、王子様が次期国王となるために教育されて、自分のしたい事を許されない悲運を描いた物語を思い出す。
・・・王子かー。それでもかおる君なら別に驚かないよね。
零は内心勝手に納得して食堂へ足を運び、食堂の隅の自動販売機でミネラルウォーターを買う。そのまま部屋に戻ろうかとも思ったが、何となく食堂でコップを借りて飲んでみる。いつもみんなで過ごす食堂に一人でいると不思議な寂しさに囚われた。いつの間にかみんながいる事に慣れて、みんなと過ごす事が楽しくて、出来ることならずっとこのままでいたいと願ってしまっている。
・・・他のみんなは何処を目指しているんだろう、
零は思う。自分の夢は知っていても、みんなの夢は知らない。みなそれぞれ、自分の思う夢があってその夢の為に今ここで頑張っているはずなのに。
・・・伊織君は国際経営学を学ぶ、って言ってたよね・・・。国際経営学の権威って、どこだったっけ、
卒業したら、みなバラバラになることくらい分かっていたはずなのに、それがすごく寂しく感じる。もしかしたらもう二度と会うことがなくなるかもしれない別れがやってきてしまう事に気付いた零は言い様のない寂しさを覚えた。
「・・・零ちゃん、こんなところで何してるの、」
「ッ?!かっ、かおるクンッ?!」
ぼんやりと、未来に訪れる別れの日の事を考えて哀しくなっていた零は突然声をかけられて椅子から飛び上がるほど驚く。
「・・・ごめん、驚かせちゃったね。」
優しい笑顔で近づいてきたかおるは自販機でブラックのコーヒーを買う。
「珍しいね、零ちゃんが夜中に起きてるなんて、」
にっこりと微笑むかおる。いつも通りで零は少し安心する。
「何だか目が覚めちゃって。いつもは一回寝たら起きないんだけどね、」
零の言葉にかおるが笑う。いつも優しいかおる。さっきの話を聞いた、と言ったら怒るのだろうか?
「ねぇ、零ちゃん、零ちゃんと話すと落ち着くから、少し話し、してもいい?」
コーヒーを一口飲んで、零の隣に座ったかおるが問いかける。零が無言で頷くと、かおるはありがとう、と小さく微笑んで手にしていたコーヒーを飲む。
「ねぇ、かおる君、今コーヒー飲んだら眠れなくなっちゃうよ?」
「え、あぁそうだね。・・・大丈夫、僕は平気だから。」
そうなの?と不思議がる零にかおるは微笑みかけ、目を閉じて小さく溜息をつく。
「今日の数学の時間、大変だったね。」
「え?あ、急に当てられたからびっくりしちゃって、」
「あの問題、わかんなかったんでしょ?」
「えっ?!な、何でそんなことわかるの?」
カマをかけてみたらやっぱり、とかおるは内心思う。
「だって零ちゃん難しそうな顔して考え込んでたからさ。僕、一番後ろの席だからよく見えるんだ。」
「実はね・・・。でも久遠君がこっそり答え、教えてくれたから助かっちゃった。」
「駿が?」
「ふでばこ落とした時にね、消しごむひろってくれて一緒に答えのメモを渡してくれたの。」
いたずらっぽく笑う零につられてかおるも笑う。
・・・僕にその事を話してくれるって言う事は、零ちゃんの中では特別な事ではない、と言う事か?
深読みし過ぎか、と心の中で苦笑する。
「そう言う事だったの。心配してたんだよ、解らない問題あてられちゃったなって。」
「そんなにわかりやすいかな?」
「零ちゃんの考えている事なら大体ね。」
えー、と不満そうな声を上げる零にかおるは笑う。僕は、いつも零ちゃんの事を見てるから、と心の中で呟いて、小さくため息をついた。
昨日、Another sideをUPしましたので、ぜひそちらも読んでみてくださいね!
2015/09/28 誤字修正しました。




