035:体育祭・1
体育祭ですー。あまり場面切り替えするのは好きじゃないのですが、今回あっち行ったりこっち行ったりしちゃってます。すみません。
憂鬱だった試験が終わると、目前に体育祭が迫っていた。クラスリーダーのかおると零はなにかと駆り出される事も多く多忙な毎日を送っていた。
「・・・どうしたんだ、溜息なんかついて。」
授業が終わると同時に無意識に深いため息をついた零に隣の席の駿が声をかける。
「えっ?!あっ、ううん、なんでもない・・ごめんね、」
駿から声をかけられる事に慣れていない零は少し慌て、とっさに謝る。
「・・・なんで謝るんだ?」
・・・うっ、不機嫌になっちゃった・・・?
じろりと睨むような駿の瞳とぶつかった零がそれ以上話をする勇気を出せずに口ごもると、駿はいつものあきれたような溜息をついて黙って席を立つ。
「あ・・・」
・・・行っちゃった・・・。せっかく声、かけてくれたのに・・・。
零が教室を出ていく駿の背中を見送って零は溜息をつく。駿とは挨拶以外の会話はほとんどしたことがない。
「・・・零ちゃん、どうしたの?」
「あっ、かおる君。なんでもないよ。もう集合時間かな?」
「なんでもない、って顔じゃないけど?駿がどうかしたの?」
「えっ?!あ・・・ううん、何かいつもうまく話せないなって思っただけだよ。いつも怒らせちゃって。」
零の悲しげな顔にかおるの瞳にも影が走る。
「・・・零ちゃんにそんな顔をさせるなんて・・・」
言いかけて、かおるは口を噤み、いつも通りの微笑みを向ける。
「打ち合わせの時間に遅れちゃうから、急ごうか?」
そして迎えた体育祭当日、学校の全体行事と言う事もあり、全校生徒が校庭に集まるとかなりの人数がいることに零は初めて気付く。学校指定のジャージがないため統一性はなく、クラブに所属している生徒はユニフォームを着ていたりと様々だ。
一般教養科の生徒達は普段あまり見ることのない別棟の海外進学科や理工系進学科の生徒達に興味津々で、特に女生徒達はお目当ての男前を見に集まってくる。
「零ちゃん、気をつけてね、」
不意に、かおるが零に声をかける。大きく分けて各種目に推薦された、いわゆる『運動神経のいい生徒』によるエキシヴィジョン的種目と、全員が参加できるクラス対抗の種目に分かれているため、零はかおるや駿と共にキングクラスのテントにいたが、もうすぐ健が200M走に出ると言うので応援に出てきている。
「何に?」
隣を歩くかおるは少し前にいる男子生徒の集団に視線を送り、眉を寄せる。
「一般教養科の男子。伊織よりタチが悪いから。」
「俺がなんだって?」
「あぁ、いたの?伊織がいてくれたらきっと大丈夫だね、」
「?」
腑に落ちていない零に微笑みかけ、かおるは零を促して健がいる場所の近くへ移動した。
「あっ、零ちゃん!応援きてくれたの?」
いつもながらの全開の笑顔がまぶしい健に零は離れた場所から小さく手を振る。絶対優勝するからなー、と大声で叫ぶ健に零は笑顔で頷く。
「・・・またあのバカは考えなしに・・・」
隣に立っていた伊織が呟く。零が不思議に思っていると、後ろの方で女生徒たちの声がした。
「あの女、かおる様だけじゃなくて健クンも?」
「だって、寮生なんでしょ?オトコ目当てってバレバレだよね、」
「前に久遠クンと一緒に図書室いたって話も聞いたしさ、
「伊織様に抱かれたって話も聞いたよー、
ウソー、とひときわ大きな声があがる。わざと聞こえるように言われる陰口。前の高校でイヤと言うほど聞かされてきたから慣れているはずなのに。
「チビのくせに、どうせうまく演技して取り入ってるんでしょ、」
零の心に鋭く刺さる言葉。聞こえないフリをしようとしても、平気なフリをしようとしても、俯いてしまう。せっかく忘れかけていた心の傷が開いて酷く痛む。
・・・絶対、こんなくらいで泣かないっ。
泣きそうになる心を必死に押さえつけてギュッと強く手を握り締める。ふと気がつくと、隣にいたはずの伊織とかおるの姿はなく、顔を上げるとスタート位置につきながら零に向かってVサインを出している健と目が合った。
「健君、頑張って!」
泣きそうな自分を誤魔化すために大声を上げて手を降ると、健からも100%の笑顔が戻ってくる。それだけでも少し、心が救われる様な気がしていた。
「おい、お前ら、」
伊織は心の奥に揺らめく怒りの炎をおしとどめながら、ギャアギャアと騒ぎ立ていてる女生徒達に近づく。
「俺がいつ、アイツを抱いたって?」
伊織の言葉に、女生徒達の動きが止まる。
「えっ、あの・・・」
「勝手な事言ってんじゃねぇよ!」
伊織の怒声に、噂話をやめさせようと近づいていたかおるは足を止め、少し離れた場所から様子を伺う。
「お前ら、言いたい事があるなら俺に言ってみろよ、」
残忍、とも思える伊織の視線。かおるは遠巻きに見ながら溜息を付く。伊織は気に入らない相手は徹底的に殲滅する。たとえ相手が女子供でも容赦しない。それが伊織、だ。
「直接言えない様な事を大声でベラベラしゃべりやがって、今度そんな事言いやがったら殺すぞ、」
泣きそうな女生徒達を見下ろして伊織は言う。
「お前らみたいな低レベルな人間、相手にされると思うなよ。さっさと消えろ、目障りだ。」
健のレースが始まり、レース前の公約通りハイペースで走る健に零が声援を送っていると、不意に背後から肩を叩かれて振り返る。気が付くと見たことのない顔の男子生徒が数人、零を取り囲んでいた。
「君、海外進学科の子だよね?
「前に見かけてからずっと気になっててさ、
「ちょっと向こうで話そうよ、
「あっ、ちょ、ちょっと待って、」
背の高い男子生徒に囲まれてしまうと身動きがとれず、意図しない方向に連れて行かれる。
「大丈夫何もしないって、
「そうそう、ちょっとお話するだけ。
「ちょっと、ヤダッ、離して!
腕を掴まれると、急に怖くなって零は声をあげた。
「そんな怖がんなくてもいいじゃん、ホラ、あっちいこうよ?」
零はそのまま、いた場所から離れたクラブハウスの裏まで連れて行かれた。
「かおる、アイツいないぞ、」
「えっ?!」
女生徒達を追い払った伊織が零のいた場所に目をやり、そこに姿がない事に気付く。
「・・・しまった、」
・・・僕とした事が、あの子達の陰口に気を取られて・・・。
周囲を見回してもそれらしき姿は見えず、想像以上に焦っている自分に気付く。
・・・彼女達の悪口に耐えかねてこっそり泣いているのか、それともタチの悪いやつらに絡まれているのか・・・。
どっちにしても最悪だ、とかおるは思う。
「あぁクソ腹が立つ!あのアマぶっ殺してやる、」
「・・・伊織、彼女達は十分反省してるよ、物騒な事言わないで、」
伊織を諌めながらも、かおるは内心素直に感情を表に出せる伊織をうらやましく思う。
「お前はあんな事言わせといて平気なのか?アイツの顔、見ただろうが!」
そう言って伊織はハッと口を噤む。
「・・・伊織、僕は君がうらやましいよ。」
「ご、誤解すんな、俺は勝手なウワサを立てられるのが気に入らないだけだ、」
「そうだね。僕も、気に入らないよ。」
かおるは寂しげに少し微笑んで、零を捜して校庭に目をやった。
自分の知らないところで自分の事を守ってくれてる人がいると思うと・・・。キュン・・・。まっ、零ちゃんは知らないんですけどね(笑)。




