032:修学旅行・5
みんなで過ごす夜と言えばー・・・肝試しっ!
夏じゃなくても肝試し(笑)まぁ沖縄だしいちお、夏ってことで。
翌日も朝から散々海で遊び、フラフラになるまで大騒ぎした零たちはホテルの部屋に戻って穏やかに過ぎる時間を過ごす。なんとなく、みなリビングに集まって同じ時間を共有していた。
「離島、やっぱ正解だよな。本島だともっと人も多くてうるさそうだし、」
誰にともなく健が呟く。
「そうだよね、静かだし、人少ないし、海綺麗だし。」
ソファーに寝そべっていた零も、静かな昼下がりの心地よい風に吹かれて思う。二度と戻らないこの瞬間を穏やかにみんなで過ごせる幸せを、ずっと忘れたくないと思える楽しい思い出を作れる幸せを与えてくれるこの瞬間に感謝しながら。
その日の夜は昨晩の公約通りに竹川に夕食をごちそうになり、その後は竹川の提案で肝試しを行う事になった。零は気が進まないまま皆の後について歩く。それでなくても人が少なく、街灯もほとんどない離島はホテルのある場所から離れると真っ暗で気味が悪い。
「二人一組で、最初の組はこの森を抜けてあの丘の上にある慰霊碑にこの花を置いてくること。次の組はそれを持って帰ってくる事。いいな?」
「二人一組って、僕等は5人ですよ。まさか先生も入る気ですか?」
「おう。当然。」
俺の提案だからな、と言い放つ竹川が準備したくじ引きでメンバーを決め、零は駿と組む事になった。
「ちぇっ、何で俺が竹川と行かなきゃならねーんだよ、」
ブツブツ文句をいいながら健と竹川が出発し、残ったメンバーは手近にある石碑のふちに腰を下ろす。満点の星が輝いているが、真っ暗な道を小さな懐中電灯一つで丘の上まで続く森を歩くのはどう考えても気持ちの良いものではなさそうだ。
・・・久遠君、何か話してくれるかな・・・。
黙ったままずっと歩くのはきっと辛いに違いない。懐中電灯は二人に一つしかなく、いつもの様に黙って一歩前を歩いていかれたらどうしよう、と零は出発前から泣きそうになった。
「・・・零ちゃん、大丈夫?こういうの苦手なの?」
俯いたまま黙っている零を見たかおるは優しく声をかける。
「・・・うん。苦手。人生で一度もホラー映画見たことないのに、肝試しなんてありえない。」
零の言葉にその場にいた3人は思わず笑う。
「笑い事じゃないよ。肝試しだよ?それに慰霊碑に行くって言うし・・・。」
しゅん、と耳を垂れた子犬のような零に抱きしめたくなる衝動を抑えてかおるは微笑む。
「大丈夫だよ、駿は優しいから、ちゃんと守ってくれるさ。ね?駿。」
「・・・さぁな、」
駿のそっけない返事に零の心が痛む。駿にとっては肝試しなどただの子供だましで、夜の散歩とそう変わらないのかもしれない、と思う。
「そんなに不安なら俺が駿の代わりに行ってやってもいいぞ、」
「伊織はだめ。別な意味で危険だから、」
「なんだそれ?」
「言葉通りさ。自覚してるんでしょ?」
「まぁな、そう言うお前はいつになったら本音を出すつもりだ?」
かおると伊織の会話はいつもこうだ。お互い牽制しあっているのか、際どいキーワードを応酬する。
「お前ら、うるさいんだよ。もうメンバーは決まってるんだ、ごちゃごちゃ言うな。」
「じゃあ駿、ちゃんと零ちゃんを守ってね?」
「・・・だから、うるさいんだよ、お前らは。」
不機嫌にそう言い放つと駿はそれきり黙りこむ。
・・・やっぱり、やっぱり機嫌悪いし・・・。絶対しゃべってなんかくれないよね・・・。とにかく置いていかれないようについて行かなきゃ、
「おう、今戻ったぞ、」
零がもんもんとしていると、竹川と健が戻ってきた。二人で何を話していたのか、健は怒っているような、すねたような顔をしている。
「じゃあ次、行ってこい。さっきの花を持って帰ってくるんだぞ、」
竹川に言われ、零は慌ててすでに歩き始めている駿を追いかける。
「・・・・あいつら、大丈夫かねぇ?」
「心配なら、後をつけますか?」
「お前、そうしたいの?」
「まぁ、出来る事なら駿の代わりに行きたかったですけど。」
あいかわらずはっきり言うねぇ、と竹川に突っ込まれながらもかおるは闇の中に消えていった二人の姿を見送った。
「あっ、あのっ!ま、待って、久遠君っ!、」
一生懸命追いかけてくる足音に、もうここまで来れば他のやつらからは見えないだろうと駿は足を止めて振り向き、今にも泣きそうな顔をしている零の瞳を見て苦笑し、昨日は一人で夜の海にいたくせに、と言いかけてやめる。
「・・・悪い、大丈夫か?」
微笑んで手を伸ばすと、躊躇いもなく繋がれた手に駿は思わず赤くなる。
「ほら、行くぞ、」
ギュッと力を入れて握り返すと、零は闇に怯えるように身体を寄せてもう一方の手で駿の腕を掴む。
「・・・歩きにくい、」
「だ、だって、」
「置いていったりしないから、安心しろよ、」
「う・・うん・・・」
頷きながらも離れようとしない零に駿は苦笑する。つないだ手が微かに震えている。
こんな時、かおるだったらどうするんだろう、と駿は思う。優しく微笑んで肩を抱き寄せるのか、それとも悪びれもせずお姫様抱っこをして歩くのか。かおるの特殊な事情を知ってはいるが、男から見ても優雅で完璧な身のこなしと、完全に感情を隠す微笑みはさすがだと思う。
・・・それにしても、お姫様抱っこはやりすぎだろう、
駿は心の中で呟いて零を見下ろす。こうやって見るとやっぱりチビだな、と思っていると、見上げる零と目が合った。
「・・・何か話しても、いい?」
「え?・・・あぁ、」
返事はしたものの、何を話すべきなのか、検討もつかない。
「あの・・・いつも、迷惑ばっかりかけて、ごめんね?」
駿が黙っていると、零が突然切り出した。
「何か、いつも怒らせちゃってばっかりで、邪魔ばっかりしちゃって、私がいると、迷惑だよね?」
「え?あ・・・ま、まぁな、」
・・・別に、怒ってなんかないけど、と内心思う。いなければ起こらないドタバタが零がいることで日々発生している事は確かだが、別にそれが迷惑だとは思っていなかっただけに少し驚く。
やっぱりそうだよね、と肩を落とす零を見ると、知らず微笑んでいる自分に気付く。暗闇に怯えてくっついてきて、子犬のようだ。
「お前ってホントに犬みたいだな。」
「わんわんうるさいってこと?」
「・・・いや、子犬みたいで、小さくて弱くて、守ってやりたくなる。」
思わず本音を口にした駿の言葉に驚いて目を見開く零と目が合い、駿は思わず顔を背ける。
「とにかく、早く行くぞ、もたもたしてるとまたあいつらがうるさいからな、」
零に赤く火照った顔を見られないように前を向き、わざと零の手を離して歩調を速めた瞬間に、懐中電灯の明かりが消え、フッと辺りが闇に包まれた。
「キャァッ!」
突然やみに包まれて思わず悲鳴を上げてその場にしゃがみこんでしまった零は、暗闇に駿の姿を捜す。辺りは真っ暗で、まだ闇に目慣れない零の目にはどこまでも続く闇しか見えない。
「・・・く、久遠君?」
「久遠君、どこ?」
自分でも驚くくらい小さな声。その時零は、戻ろうにも来た道を覚えていない事に気付いてさらに心細くなった。
「佐倉、おい、佐倉っ、」
携帯を開いて小さな明かりを点し、零の姿を見つけた久遠はすっかり怯えている零に駆け寄る。
「大丈夫か?・・・ごめん、悪かったよ。まさか電池が切れると思わなかったから・・・」
「く・・久遠君?」
怯えた瞳。暗くて良く分からないが、一瞬涙が光ったような気がして駿は息をのみ、思わずしゃがみこんでいる零を抱きしめる。
「ごめんな?大丈夫だから。」
震えている身体を抱きしめると、今更ながら手を離した事を後悔する。
「立てるか?」
跪いて零の身体を支えて立たせると、自分も立ち上がって零の手を取る。
「・・・さぁ、どうするかな。」
電池の切れた懐中電灯と怯えている零を見て駿は溜息を付く。
「・・・どうする?行く?帰る?」
「・・・り、たい。」
「ん?」
「帰りたい・・・です。」
俯いて小さな声で訴える零の手を安心させるように強く握り、じゃあ帰ろう、と来た道を戻る。どうせみんなに散々言われるだろうが、これ以上この子犬を怯えさせる必要もないだろう。
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