029:修学旅行・2
引き続き修学旅行です。
離島に到着した一行は予約しておいたホテルにチェックインを済ませる。
散々悩んだ結果みんなで決めた、ビーチに程近いロッジタイプのホテル。家族の長期滞在用などでも利用される、多人数で泊まれるキッチン付きのホテルだ。
せっかくだから、と少し金額を弾んだ事もあり、寝室は3つに別れていて、零は個室をもらい、荷物をおろした。ホテルからビーチまでは歩いて数分で、さっそく水着に着替えてリビング集合することになっている。
・・・やっぱりちょっと恥かしいよね・・・。
部屋で水着に着替えながら零は思う。今年流行の胸元に大きなリボンがついたセパレートの水着。フリルが着いていておへその少し上まで隠れるデザインだ。零は長い髪をおだんごにまとめ、水着の上に大きめのパーカーを羽織って部屋を出た。
「お待たせっ!」
部屋から海、見えてたね、と恥かしさを紛らわすためにわざとハイテンションにリビングに顔を出した零は男前達の水着姿に少し赤面する。思った以上に全員ガッチリした体型で、特に健は普段から鍛えている事もあり美しい筋肉が目をひく。
一見線が細そうなかおるもしなやかな筋肉に覆われていて直視することがためらわれた。
「・・・んだよ、つまんねーの。それ脱げば?」
パーカーを羽織っている零を見て面白くなさそうに呟いた伊織に、零は自分が皆の身体に目を奪われていた事を誤魔化すためにわざと大げさに恥かしがって見せる。
「まぁまぁ、とにかく海、行こうぜ!」
健のその一声で外へ出かけようとした瞬間、バン、と勢いよく扉が開いて竹川が現れた。
「・・・いきなりですね、先生?」
最も冷静に対応したのはかおるで、皆一様に突然登場した竹川に視線を注ぐ。
「俺は教師だからな。お前らが間違いを犯さないように見張るのが役目だ、」
「何だよ間違いって!」
声を荒げる健をチラリと一瞥し、零の鼻先に指を突きつける。
「お前らみたいな野獣の群れにコイツを放り込んで見過ごせるわけがない、と言ってるんだ。お前らの事だから何やらかすかわかったもんじゃねぇ、」
「つか、お前と一緒にすんなよこのエロオヤジ!」
「そんな事言って健、お前コイツのこの胸を見て興奮してんじゃないのか?え?」
竹川は零の肩に腕を回して羽織っていたパーカーの前をはだける。小さな身体の割には形のよい膨らみが谷間を作り、きれいにくびれたウエストが露になると健は頬を染めて目をそむけた。
「せっ先生ッ!やめて下さいッ!」
零は真っ赤になって竹川の手を振り解き、パーカーをかきよせて胸の前で押さえる。
「お前、いい身体してんじゃん、隠すなよもったいない、」
伊織の毒のある瞳に見られると恥かしさも倍増し、零はいたたまれなくなってリビングから逃げ出して部屋に駆け込んだ。
・・・もう、何なのっ?先生のせいだよっ!あんな事言って!
火照った顔に手を当てて座り込む。どんな顔で出て行けばいいのかさえ分からない。
「・・・先生?この状況、どうやって責任を取ってくれるおつもりですか?」
冷静なだけに凄みのあるかおるの声がリビングに響き、竹川は決まり悪そうに頭を掻く。
「悪い悪い。やりすぎた。けどお前らだって少なからず、下心あるんだろうが、」
「・・・ありませんよ。少なくとも僕には。零ちゃんが傷つくようなことは絶対にしないし、他の人にもさせません。」
きっぱりと言い放つかおるには周囲を従わせる力があり、竹川も言葉に詰まる。
「別に同じホテルに居て頂いても結構ですが、余計な口出しは無用です。」
では僕は零ちゃんを迎えに行ってきます、と竹川を完全に黙らせると、かおるはリビングを横切って零のいる部屋の扉を叩く。
「・・・零ちゃん、竹川先生は僕からよく言っておいたから、機嫌直して?」
そっとノブに手をかけると、中から鍵がかけられていてかおるは小さく溜息を付く。
「零ちゃん、お願い。零ちゃんがいてくれないと楽しい思い出が作れないから・・・」
こういう時はどう言うのがいいのだろう、とかおるは頭の中で考えながら言葉をさがす。
「零ちゃん、ごめんね、僕がさっきちゃんと守ってあげられていたら嫌な思いをさせずにすんだのに・・・僕のせいだよね、ごめん。」
優しい零の事だから、かおるが自分を責めればきっと扉を開いてくれる、と選んだ言葉にカチャリ、と鍵を外す音がして、そっと扉が開く。
「・・・かおる君のせいじゃないよ?・・・ごめんね、」
零は小さく微笑んで、それでもまだ赤い顔をして俯いてしまう。
「行こう、みんな待ってる。」
気を取り直してビーチに出た零たちは目の前に広がる美しい海に心を奪われ、我先にと海の中へ走りこむ。真っ白な砂浜、覚めるような青い海、5月下旬の沖縄は海に入るには丁度いい気候で吹く風もさわやかだ。泳ぎの得意な健は沖まで泳ぎ、熱帯魚がいる、とはしゃいでいる。持ってきたビーチボールでビーチバレーの真似事をしたり、波打ち際でじゃれあったり、それほど人の多くないビーチでは思う存分騒いでも問題なく過ごせそうだった。
ひとしきり大騒ぎし、疲れた零は海から上がって白いパラソルの下に入る。誰が一番長くもぐれるかを競っている面々を砂浜から眺めているだけで自然と笑顔になった。
・・・駿君も普通にあんな風に笑ったりはしゃいだりするんだ・・・。
いつも一人で本を読んで、あまり他人と話したがらない駿がみなと競い合っている姿は何か新鮮で、零は無意識に目で追っていた。
「零ちゃん!零ちゃんもこっち来いよっ!」
海の中から健が叫ぶ声に答えて、零も青い海へと飛び込んだ。
細いくせに適度に胸がある。女子の理想ですね(笑)いいなー。零ちゃんみたいな子に生まれてたら間違いなく人生変わってたと思う今日この頃。私と零ちゃんの唯一の共通点はチビだってことのみです。あぁ悲しい。