030:修学旅行・3
修学旅行三話目☆
昼間に思いきり海で騒いだおかげで、ホテルに戻った零たちは気だるい体をリビングのソファーに投げ出してうつろう時間を過ごしていた。波の音だけが響き、ゆっくりと時間が流れていく。沖縄時間、とはよく言ったもので、普段の生活にはない、時計の針を気にしないで済む穏やかな昼下がりに零は心地よく身をゆだねていた。
「おいおいお前ら、若いくせにダラダラしやがって、」
唐突に部屋のドアが開き、竹川が姿をすと、皆普段の週間で思わず姿勢を正す。
「お前ら、メシはどうするんだ?ココで作る気か?」
部屋に備え付けのキッチンを指す竹川に、零は頷く。
「今日の夕食は私が作るって、約束なんです。明日はみんなで食べに行く予定ですけど、」
「へぇ、お前がね。そんなら俺も混ぜてくれよ、
明日おごるから、と言う言葉に惹かれた一行は竹川の同席を許す事にし、食材の買出しに行く事にする。
幸いすぐ近くに商店街があり、様々な食材を手に入れることができた。
夕食のメニューは商店街の魚屋さんで安くしてもらった不思議な青い色をした魚の煮付けと、サラダにゴーヤチャンプルー、からあげ、健がどうしても作ってほしいと言って聞かなかった肉じゃが。
男の人5人が食べる量ってどのくらいなんだろうと心の中で思いながら、大量に買って来た食材を次々とさばく。いつも父親についていってしまう母が不在である事が多かった零は、どんな料理でも一通り作れると言うのが唯一自分の特技だと思っている。
ちょうど太陽が沈み始め、空が夕焼けから夜の色に変わり始める頃に出来上がった料理をリビングへ運ぶと、メンバーから歓声があがった。
「お疲れ様、こんなにたくさん、大変だったでしょ?」
優しい微笑みを浮かべてねぎらいの言葉をかけてくれるかおるに零は少しはにかんで、待ちきれずにつまみ食いをしている健を見て笑う。多めに作った事もあり、余るだろうと思っていた料理は結局きれいにたいらげられ、食べ過ぎた、と苦しがる面々を見て零は不思議ととても幸せで満たされた気分になる。
「お前結構やるじゃねーの。これならいい嫁になれるな、」
俺が保障する、と竹川はぐしゃぐしゃと零の頭を撫で、髪が絡まるからやめてください、と嫌がって両手で乱れた髪を整える零をかおるがかばって竹川を睨む。
「先生、退場したいんですか?」
ちょっとくらいいいじゃねーか、と言いながらも竹川は零に謝り、ささやかなディナーは終了となった。
作ってくれたから片付けは僕らで、と言うかおるの言葉に甘えて零はリビングのソファーに座り、窓から見える海を見る。すっかり闇に包まれた外の世界は神秘的で、闇の中から響く波の音に耳を済ませていると宙に浮いているような気分になった。
早朝からの移動や昼間の海での大騒ぎの疲れもあって、気がつくと零はソファーにでうとうととまどろんでいた。窓から吹き込む穏やかな風と波の音が優しく零を包み、いつしか零は眠りの世界に引き込まれていった。
「・・・相変わらず、隙だらけだな、」
最後の片づけを他のメンバーに任せて一足先にリビングに戻った伊織はソファーで眠っている零を見て呟く。天使の寝顔、とよく言うが、コイツの寝顔はちょっと反則だな、と内心思う。
開いたままの窓から吹き込む風が眠っている零の髪を弄び、零は小さく身じろぎして風から身体を守るように自分の身体を抱きしめて丸くなる。
・・・これで襲われても、文句言えねぇよな、
俺たちが全員男だって、コイツは本当に理解しているんだろうか、と伊織は思う。何度も何度も、襲う真似をして警告してやっているのに全然わかっていない、と内心溜息をついた。
「・・・おい、起きろ、」
軽く肩に触れても零は起きる気配がなく、いやいやをするように小さく首を振って丸くなる。
・・・殺人的だな、コイツは。
伊織は自分のこめかみを強く抑えて理性を保つ。それでも眠る零の頬に手を伸ばして耳元に唇を近づける。
「起きろよ、起きないとお前の首に噛みつくぜ?」
微かに伊織の唇が零の耳に触れる。それでも目を覚まさない零から身体を離し、伊織は大きく深呼吸をして自分が羽織っていたパーカーを眠っている零にかけてその場を離れた。
料理を作ってくれたから僕が片づけるよ、と言える男子は最高です。かおる様完璧なり。




