026:修学旅行の計画
今回はあんまり甘くないかもです。
4月も後半に差し掛かり、クラスリーダーになった事も手伝って零はクラスのみんなともかなり打ち解けていた。5月の中旬に予定されている修学旅行に向けて、今は何かと忙しく、放課後も学校に残る事が多い。
皆で同じ場所へ行くのかと思っていたが、行き先も選択制で、設定された3箇所から好きな行き先を選べるらしい。
・・・もし選ぶ先がみんなバラバラだったら、修学旅行、楽しくなくなっちゃうかもしれないな・・・。
「・・・でね、零ちゃん、零ちゃん?聞いてる?」
「えっ、あ、ごめん、ちょっと考え事しちゃってた。」
「もう、仕方ないなぁ。考え事って?
「え、あ・・・あのね、
「うん、
「修学旅行、みんな行き先が違っちゃったら淋しいな、って思って」
「みんな、って誰の事?」
「えっ?あ・・・
改めて問いかけられて零は言葉に詰まる。クラス全員、というわけではなく、零が思い描いたのはいつも一緒にいてくれるかおるや健、駿のことだった。
「あの・・・寮の、みんな、かな・・」
名前を出す事をためらった零がそう言うと、かおるは小さく微笑む。
「そうだね、寮のみんなとはずっと一緒だし、旅行も一緒に行けるといいね、」
「かおる君もそう思う?」
ぱっと、花が咲くような笑顔になった零を見て、かおるは息を飲む。心の中心を射抜かれる様で、一瞬呼吸を忘れるほどに心の奥が苦しくなった。
「そ、そう思うよ。僕は零ちゃんと同じ行き先を選ぶから、どこにするか教えて?」
本当は、僕が君と一緒にいたいんだけど、と内心思って小さく吐息を付く。このお姫様はいつもそうだ。無意識にこうやって周囲を虜にする。きっと寮のほかのメンバーにも今と同じように声をかけるに違いない。
「ホントに?よかった!もうみんな決めちゃってると思ってた。」
嬉しそうに笑う零を見ていると、微かに苛立ちを覚える。自分にだけ向けてほしいと思うその笑顔を、分け隔てなく誰にでも向けてしまう無防備な姫。もしも僕が、他の人には言うな、と言えば言わずにいてくれるんだろうか、そう思ってかおるは零から目を逸らせた。
いくらそう願っても、決して叶うはずのない願いだと分かっているのに、どうして心惹かれるんだろう?今まで一度も人を好きになどならなかったのに、今になって何故、と思うとかおるはなおさら苦しくなった。
今年の修学旅行の行き先は沖縄・北海道・韓国の3箇所。基本的に何事においても自由が尊重される校風で、旅行先の行動も班の単位で好きに決めていいらしい。好きに決められる、と言う事は逆に言うと自分達で責任を持たなければいけない、と言う事でもあり、その作業は楽しくもあり苦痛でもあった。
「私は沖縄がいいな!5月だし、もう海も入れるでしょ?」
韓国は辛い食べ物苦手だし、北海道は行ったばっかりなの、と無邪気に笑う零を見てかおるは溜息を付く。沖縄の海、確かに楽しいだろうと思う。だがこの姫は一歩間違えば自分が野獣の群れの中にいると言う事を本当に分かっているんだろうか?無防備と言うだけでは足りないこの天真爛漫なお姫様をどうすれば守れるのだろう。
「かおる君、沖縄は嫌いなの?」
よほど浮かない顔をしてしまっていたのだろう、ふと気付くと零が不安げな瞳でこちらを見ている。かおるは少し苦笑して、首を横に振った。
「ごめんね、そんな顔しないで?ちょっと考え事してただけだよ。」
微笑んでそう言うと、零は再び笑顔になる。
「じゃあ、いろいろと決めないとね。5人で一つの班を作って行動だから、僕等はリーダーの独断と偏見でメンバー決めちゃおうね。」
とかおるはいたずらっぽく笑い、零も頷く。
「多分、違うクラスでも行き先によって班を作るはずだから、零ちゃんが望むなら健も同じ班にできると思うよ、」
かおるの言葉に、零は嬉しそうに笑う。
「5人だもんね、じゃあメンバーは、かおる君と、私と、健君、久遠君、後一人は・・・ッ!
「俺しかいないだろ?」
不意に、背後から抱きしめられ零は言葉を失う。ムスクの香りがあたりに漂い、顔を見なくても伊織だと分かった。
「伊織、離れろ、」
かおるににらまれた伊織は名残惜しそうに零から離れ、零の前の席に後ろ向きに座って間近に顔を覗き込む。
「なっ、何?伊織君、」
「久しぶりに近くで見たけど、やっぱお前、かわいいな、」
「きゅ、急にそんな事、」
いつもの高圧的な視線ではなく、笑いかけられると戸惑う。照れもせずにそう言う事を言えてしまう辺り、かおると伊織は案外似たもの同士なのかもしれない、と零は思う。
「零ちゃんは可愛いに決まってる。邪魔だから帰ってくれないか、」
微かに怒りを含んだかおるの声。
「邪魔なんかしねーよ。見てるだけさ。可愛いお姫さんをね、」
伊織はそう言って少し顔を離し、机に頬杖をつく。
「で、5人目のメンバーは誰にするんだ?」
「えっ、あ・・・、」
「目の前にいるのに、外すって言えないだろう?普通、」
諦めたように答えるかおるに伊織はニヤリと笑い、姫がいるなら行き先はどこでも構わないぜ、と言い置いて教室を出て行く。
「・・・た、健君と久遠君にも、聞いてみなきゃね。行き先、もう決めてるかな?」
気を取り直した零は携帯を取り出して健に電話をかける。いつもワンコール以内に電話に出る健に零は毎回驚かされる。
「・・・健君、今平気?」
『平気平気、何?!』
電話の向こうで弾む声に零もつられて笑顔になる。
「あ、あのね、今かおる君と修学旅行の準備の班決めをやってて・・・」
「寮のメンバーで同じトコにいけたらいいねって話を・・・」
『行く行く、どこでもいいぜ俺!零ちゃんと同じとこ行く!』
「沖縄がいいなって思ってるんだけど、いい?」
『沖縄なら海だな!楽しみだ!』
耳が痛いほどの大声に零は苦笑する。
「じゃ、じゃあまた相談するね、また後で。」
零は健との電話を切り、小さく息を吐き出すと、駿の名前を探してコールする。健にかける時とは違って、なぜかとても緊張している自分に気付く。
「・・・・・・」
零から電話をかけるのはこれが2度目。一度目はまだ寮に入ってすぐの夜だった。何度目かのコールで、零は緊張に耐えかねて携帯を切った。
「出ない?」
駿が電話に出なかった事にホッとしているようにも見える零に問いかけてかおるは小さく笑う。
「じゃあ駿には寮に帰ってから聞こうか。きっと、大丈夫だと思うよ。」
かおるが微笑むと、零も笑って頷いた。
修学旅行、また行きたいなと思いつつ。私の修学旅行はスキーでした。最近は海外も多いんですよねー?うらやましい限りです。




