024:朝寝坊
今日は休日なので朝から投稿してみました。
ちょうど寝起きネタだしちょうどいいかな(笑)
感想やダメ出しなど頂けたら泣いて喜びます。
駿の部屋から戻った零は、大きく深呼吸をして暴れている心臓を落ち着けようと試みる。
《お前みたいなバカは誰かが守らないと何もできないんだ、》
そう言って、一瞬向けられた優しい瞳。ほんの一瞬ですぐいつもの怒ってるような目に戻ってしまったけれど、それでも零はその言葉を思い出すと苦しいほど胸の奥が締め付けられた。
転校してきてまだ数日。まだまだ慣れない事ばかりで緊張の連続だが、それでも気にかけてくれる人がいてくれると思うだけで少し安心できる。
かおるの王子様的エスコートはもちろん無条件に心地よく、無意識に頼ってしまっている自分がいる。いつも元気いっぱいで笑顔の健がいると、自分も笑顔になれる。いつも怒っているようだけれど、困っていると黙って手を差し伸べてくれる駿。不安や緊張をやわらげてくれる人がいてくれてよかった、と零は心から思う。
零は早々に課題のプリントを終わらせ、借りてきた本を開く。零の大好きな作家の一人で、儚くておぼろげなパステルカラーのもやがかかったような繊細な文章は辿っていくだけで心が落ち着く。
「・・・あれ?」
数ページ目をめくったところで、ヒラリ、とはさまれていたメモが床の上に落ち、零はメモを拾い上げた。
「・・・これって・・・、」
『心から、君が好きだよ。
君が好きだよ、誰よりも。
いつも見てる。遠くから。
一人ぼっちの君を守りたい。』
メモに書かれていた数行の言葉。詩、なのか、手紙、なのか、判断しかねる文章だが、零は胸の奥が苦しくなるような切なさを覚えた。
こんな風に思いを伝えられたら、こんな風に誰かに想ってもらえたら、どんなに幸せだろうと思う。流れるような美しい文字はその文字を書いた人の繊細ささえも伝えるようで、零はしばらくそのメモをじっと見つめる。
・・この思い、ちゃんと伝わるといいな。
そう思って、小さく微笑む。このメモを挟んだ人は、きっとこの思いが《彼女》に伝わる事を祈って挟んだにちがいない。まだ読み始めたばかりの本だが、そんな切ない思いを届けるにはぴったりの内容だ、と零は思う。
こんな事をする人はとてもロマンチストで、繊細な人なのだろう。そう思うと、零はなぜかとても幸せな気持ちになった。
物語の世界に引き込まれた零は明け方近くまで本を読み、そのままソファーで眠ってしまっていた。まだ4月の朝の肌寒さに目覚めると、あたりはまだ夜明け前の静けさに包まれている。
「・・・寒・・・」
零は小さく呟いて、数時間でもしっかり眠ろうとシャワーを浴びて布団にもぐりこむ。お気に入りの毛布はフワフワと肌に心地よく絡みつき、零はすぐに眠りに落ちた。
「・・・ちゃん、起きて、零ちゃん、零ちゃん!」
「・・・・ん・・・」
「零ちゃん、朝食の時間だよ?そろそろ起きないと・・」
「・・・?えっ!?あっ!あ、あ、」
ぐっすりと眠っていた零は目覚まし時計の音にも気付かず、鳴り続ける目覚まし時計に心配して起こしに来たかおるに驚いて飛び起きる。
「おはよう、零ちゃん。・・・・よく眠ってたね?」
にっこりと微笑まれ、零は恥かしさに真っ赤になる。かおるはすでに制服に着替えていて、まだ何もできていない零は慌ててロフトを降りる。
「あ、あの、ごめん、ありがとう。急いで準備するから、先に行ってて?」
少し寝癖のついた髪を気にする零を見てかおるは優しく微笑む。
「大丈夫、部屋で待ってるよ。準備ができたら呼んで、」
かおるが部屋を出て行くと、零は慌てて制服に着替え、顔を洗う。
・・・くまができてる・・・。
夜更かしは美容の敵、とはよく言ったもので、これは少し恥ずかしい。
・・・あんまりメイクは好きじゃないけど、仕方ないな、
零はできてしまったくまを隠すために手早くメイクをして部屋を出てかおるの部屋をノックした。
「早かったね、零ちゃん。もう少しゆっくりでもよかったのに。」
かおるは穏やかに微笑んでまだ少しはねている零の髪に手を伸ばす。
「あれ、零ちゃん今日はメイクしてるの、」
「えっ、あ・・うん。昨日夜更かししたらクマができちゃってたから隠したくって、」
本当はあまりメイクするのは好きじゃないんだけど、と零が笑うと、かおるは優しく微笑む。
「零ちゃんはメイクなんかしなくても十分可愛いからそんなことする必要ないと思うよ。だけど、メイクしてる零ちゃんも可愛いね。唇がぷっくりしてて食べちゃいたいくらい。」
「た、食べるって・・・」
「あぁ、表現が悪かった?キスしたいくらい、って言えばよかったかな。」
100%スマイルのかおるに完全に悩殺された零は真っ赤になって俯く。
「今度デートするときは、クマを隠す程度じゃなくて、バッチリメイクした零ちゃんを見てみたいな。きっと、目もぱっちりしてお人形さんみたいになるんだろうね。」
素顔でも十分可愛いけどね、とかおるは念を押す。相変わらず、殺人的なセリフを平然と口にするかおるに、慣れてきたとは言え、どうしても恥かしくなる。今まで自分は褒められて伸びるタイプだと思っていたが案外そうではなかったのかもしれない。
いつもより遅れて食堂に着くと、すでに生徒の姿はほとんどなく、すでに食事を終えて悠然と本を読んでいる駿と、ウロウロと歩き回っている健の二人だけが残っていた。
「健君、久遠君、おはよう、」
零が声をかけると、健はいつもの様に全開の笑顔で近づいてきた。
「おはよう。遅いからさ・・・何かあったのかと思って心配したんだぜ?」
「ちょっと寝坊しちゃった、」
昨日遅くまで本を読んでたの、と笑う零の顔を健が間近で覗き込む。
「零ちゃん何かさ、今日いつもと違う、」
・・・た、健君、顔が近い・・・
思いがけず間近に迫った健の顔に零は思わず真っ赤になって固まる。
「おい、朝から食堂でナンパはやめとけ、見苦しい。」
「ちょっ、何だよッ!掴むなっ!おいッ!」
固まっている零を尻目に、健の制服の襟元を掴んで悠然と立ち去る駿の姿を見送ったかおるは二人分の食事を運んでくると、小さく溜息を付く。
「零ちゃん、食事にしようか。・・・それにしても、零ちゃんは相変わらず無防備だね、誰に対してもそうだから、ちょっと嫉妬しちゃうな。」
「そ、そんな・・・」
戸惑う零を見て、かおるはますます溜息を付いた。
このお姫様は、どうしてこうも自覚がないんだろう?自分が笑う事で周囲がどれほど明るくなり、自分の視線で、その仕草一つで一喜一憂する人がいると言う事に、いつになったら気付くのだろう。
ちょっとメイクとか、ちょっと髪型変えたとか、気付いてくれる男子は素晴らしいと思います。しかもそれを上手にほめたりしたらもう最高。やっぱ王子キャラは最強かなぁ・・・。




