閑話 クラウディアたちの末路
クラウディアとヴィッキーの末路です。こちらは読まなくても物語の進行上、まったく問題ありません。「ざまぁ」はもう十分という方は飛ばしてくださいませー
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初日、作業場に連れてこられた二人は、支給された粗末な作業着を前に呆然と立ち尽くしていた。
「な、何なのよ、この服! こんなもの着られるわけがないでしょう! それに、この靴は何なの!?」
「汚水の中に入るんだから、長靴に決まってるだろう。ほら、さっさと着替えな。今日は溜まった泥を全部運び出してもらうぞ」
監督官にそう言われ、クラウディアは恐る恐る地下水路を覗き込んだ。薄暗い水路の底には黒っぽい泥が溜まり、鼻を突くような悪臭が漂っている。ところどころに正体のわからない汚物まで浮かんでいるのを見て、クラウディアは思わず口元を押さえた。
「オエェー! ま、まさか、あの中に入れっていうの……?」
「ほかにどうやって掃除するんだい? スコップで泥をすくって、桶に入れて運ぶんだよ。最初は臭いがきついだろうけど、そのうち慣れるさ」
監督官はあっさり答えると、二人にスコップと桶を手渡した。ところが、ヴィッキーはスコップを握ったことさえない。重たい泥をすくい上げようとしても、うまく持ち上げられず、すぐに腕が痛くなってしまった。
「お母様、こんなの無理よ! 腕が痛いし、臭くて鼻が曲がるわ!」
「あたしだって無理よ! どうしてこんなことをしなければならないの! ああ、もう、臭くて息もできないわ!」
クラウディアが涙目で訴えたところへ、監督官の怒鳴り声が飛んできた。
「口を動かしてないで、手を動かせ! あんたたち、さっきからちっとも仕事が進んでないじゃないか! 甘ったれるんじゃねーぞ!」
叱られたヴィッキーは腹を立て、投げやりな気持ちで勢いよくスコップを泥に突き刺した。
「やればいいんでしょう? やれば。なによ、偉そうに指図して」
ところが、スコップを持ち上げようとした拍子に足を滑らせ、そのまま汚水の中に尻もちをついてしまった。派手な水音とともに、汚水が周囲に飛び散った。
「ぎゃああああっー! き、気持ち悪い。汚い水が口に入ったぁー、ゲェエエー」
娘の悲鳴を聞いたクラウディアは慌てて駆け寄ったが、足元の泥に滑って自分まで転んでしまった。
「ぎゃああっ! あ、あたしの口にも入ったわ! ペッ、ペッ! 吐きそうだわ」
汚泥まみれになった母娘が抱き合って泣き叫ぶ姿を見て、監督官は呆れ果てた。
「まったく、何をやってるんだい。あんたたちが掃除するはずなのに、余計に汚してどうするんだよ。ほら、さっさと立って仕事に戻れ!」
ヴィッキーは涙と泥でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、必死に訴えた。
「もう嫌よ! こんな仕事、絶対にやりたくない! 屋敷に帰りたい!」
「つべこべうるせーな。これは王命で決まったことだ。諦めて働くしかないだろ!」
監督官の言葉に、クラウディアとヴィッキーは絶望した。
かつては新しいドレスを仕立て、宝石を買い、贅沢な料理を食べるのが当たり前だったというのに、今では粗末な食事を取るのが精いっぱいである。作業を終えて宿舎に戻っても、侍女が風呂の支度をしてくれるわけではなく、汚れた作業着を洗うのも自分たちでやらなければならない。
慣れない仕事で全身が筋肉痛になり、翌朝にはベッドから起き上がることさえつらかったが、それでも仕事を休むことは許されなかった。
「ほら、起きな! 今日も仕事だぞ。昨日は半分も進まなかったんだから、今日はしっかり働いてもらうからな!」
監督官に叩き起こされ、クラウディアとヴィッキーは泣く泣く作業着に着替えた。その後も二人は何度となく逃げようとしたが、そのたびに捕まって王命に背いた罰として労役期間を延長され、結局は自分たちの首を絞めることになった。
かつてクリスティアーナにメイド仕事を押しつけ、少しでも手際が悪ければ役立たずだと罵っていた母娘が、今では自分たちの仕事ぶりを監督官から散々叱られているのである。
ほかの作業員たちも、あまりに仕事のできない二人に呆れ果てていた。
「まったく、あの親子は本当に使えないねえ。母親は泥を運ばせれば半分こぼすし、娘は掃除をさせれば余計に散らかすんだから。親子そろって少しは役に立ってもらいたいもんだよ」
そんな小言を耳にするたびに、クラウディアとヴィッキーは悔しくてたまらなかったが、事実なので反論もできない。文句を言えば仕事が増え、泣きわめけば監督官に叱られるだけだった。
こうして二人は、以前とは比べものにならないほど惨めな生活を送ることになった。
「どうしてあたしたちが、こんな汚い仕事をしなきゃいけないのよ! 昔は全部クリスティアーナにやらせていたのに……!」
「そうよ、お母様! あんな役立たずだったクリスティアーナが今じゃ辺境伯夫人として贅沢三昧で、あたしたちは毎日泥まみれだなんて! こんなの絶対おかしいわ!」
母娘が揃って悔し涙を流していると、監督官の怒鳴り声が飛んできた。
「こら! いつまで無駄口を叩いてるんだ! 二人とも桶が空っぽじゃないか! 役立たずはどっちだ! さっさと働け!」
叱りつけられたクラウディアとヴィッキーは、慌ててスコップを握り直した。
こうして今日もまた、王都の地下水路には、かつて贅沢三昧だった母娘の情けない泣き声が響き渡るのだった。




