第16話-3 テニエス伯爵家の凋落
クラウディアとヴィッキーは凍りついた。なんと、ヴィッキーがグラスを投げつけた相手は、王妃の実姉であるファルネーゼ女公爵だったのである。
女公爵は普段から限られた高位貴族としか交流せず、クラウディアやヴィッキーとは一度も言葉を交わしたことがなかった。二人は顔さえ知らず、落ち着いた装いの女性を、低位貴族の奥方だと勝手に思い込んでいたのだ。
「う、嘘……。王妃殿下の、お姉様……?」
ヴィッキーの唇が震えた。
クラウディアも慌てて膝をついたが、王妃は二人を見ようともしなかった。ヴィッキーとクラウディアはズルズルと騎士たちに貴族牢へとひきづられていった。
お茶会は急遽中止され、やがて王妃は地下牢へと姿を現した。
「わたくしは、あなた方が過ちを反省していないのであれば、陛下に罰を下していただこうと様子を見ていたのです。まさか姉にこのようなことをするほど愚かで凶暴な人たちだとは思っていませんでした。陛下には、わたくしからすべてご報告いたします」
「お、お待ちください、王妃殿下! 娘は相手がファルネーゼ公爵閣下だと知らなかったんです! もし知っていたら、こんなことは絶対に……!」
クラウディアは必死に弁解したが、その言葉を聞いた王妃の顔は、ますます険しくなった。
「では、相手が公爵でなければ、グラスを投げつけてもよいというのですか?」
クラウディアは口を開いたまま固まった。
それ以上、何も言い返せなかった。
クラウディアたちは貴族裁判が開かれるまで貴族牢の住人となった。
数日後、貴族裁判が開かれた。
裁判では複数の裁判官によって事件の審理が行われ、国王も最終的な裁定を下すために臨席していた。テニエス伯爵も家長として召喚され、妻と娘が裁かれる様子を青ざめた顔で見守っていた。
幸いファルネーゼ公爵の怪我はかすり傷で済んだものの、硝子のグラスを人に向かって投げつけるなど、一歩間違えば重傷を負わせかねない危険な行為である。しかも王妃主催のお茶会で、その実姉に怪我を負わせたのだから、極めて悪質だと判断された。
さらに、クラウディアとヴィッキーが以前、アルディオン辺境伯夫人に炎魔法を放ったことも問題視された。辺境伯が訴えを起こさなかったため処罰を免れていたが、今回の事件によって、これまでの行いも含めて厳しく責任を問われることになったのである。
審理を終えた裁判官たちは、ヴィッキーに女公爵への傷害の罪を認め、治療費と慰謝料の支払いが妥当であると国王に報告した。
それを受けた国王は、厳しい表情でテニエス伯爵家の三人を見据えた。
「貴族としての品位も責任もわきまえず、これほどの不祥事を重ねるとは言語道断である! もはやテニエス家に伯爵位を与えておくわけにはいかぬ!」
国王は、ヴィッキーにファルネーゼ公爵への賠償金の支払いを命じるとともに、テニエス伯爵家を男爵家へ降格させ、領地の一部を没収する裁定を下した。
その瞬間、テニエス伯爵は真っ青になり、その場に崩れ落ちた。クラウディアとヴィッキーも泣き叫んだが、国王の決定が覆ることはなかった。
もともと彼らは破綻寸前だった。クリスティアーナをアルディオン辺境伯家へ嫁がせたのも、裕福な辺境伯家から多額の金を得るためである。その金を使い果たしてからも、辺境伯へ援助をねだろうとしていたほどなのだから、賠償金や慰謝料など払えるはずがなかった。
加えて、それまでクラウディアたちが後払いでドレスや宝石を購入していた代金も一斉に請求された。
その結果、王都や領地の屋敷まで手放すことになり、クラウディアとヴィッキーが大切にしていた宝石も、すべて差し押さえられてしまう。
「いやああっ! その首飾りだけは駄目よ! あたしが一番気に入っているものなの!」
「お母様! あたしのドレスまで持っていかれるわ! あれはまだ一度しか着ていないのよ!」
母娘は泣き叫んだが、差し押さえに来た役人たちは取り合わなかった。しかし、屋敷も財産も売り払ったというのに、賠償金や慰謝料はまだ半分以上残っていた。
途方に暮れたテニエス男爵は国王に嘆願書を提出し、どうか支払いを免除してほしいと訴えたものの、当然ながら許されなかった。
そして、未払いの賠償金を返済するため、テニエス家の三人には王家が管理する労役事業への従事が命じられた。
テニエス男爵には、北方の王立鉱山での採掘作業が割り当てられた。冬には厳しい寒さに見舞われる土地で、危険を伴う仕事ではあったが、そのぶん賃金が高く設定されていたのである。
一方、クラウディアとヴィッキーに命じられたのは、王都の地下水路の清掃作業だった。
「ち、地下水路ですって……?」
判決を聞いたクラウディアは、最初、何かの間違いだと思った。
王都の地下には生活排水を流すための水路が張り巡らされており、定期的に溜まった汚泥を取り除かなければならない。しかし、悪臭がひどいうえに作業環境も厳しく、進んで働こうとする者は少なかった。
そのため、危険手当を含めた賃金は比較的高く、労役による賠償金の返済には都合がよいと判断されたのだ。
「い、嫌よ! そんな汚いところで働くなんて! あたしは貴族なのよ!」
ヴィッキーは激しく抗議したが、当然王命に逆らうことはできない。こうして、かつて豪華なドレスをまとい、使用人たちにかしずかれていた母娘は、王都の地下水路で働くことになったのである。
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本編でのざまぁは、ここまで。
もっとざまぁが読みたい方は閑話2話を用意してます。
もちろん、その先はまたクリスティアーナが幸せになるお話に戻ります。




