仲間を守れる悪役へ①
講堂へ移動した俺たちは、体操服姿で整列させられていた。この学校の体操服なんか格好いいんだよな。
「それでは基礎体力測定を開始します」
アイゼン先生の合図と共に、A組はそれぞれの測定場所へ散っていく。
「普通だ……」
「普通だな」
測定が終わった俺とガレスは思わず顔を見合わせた。どれも至って普通の測定だったからだ。
「もしかして本当に普通なのか?」
「いや、判断するのはまだ早いぞガレス。だって、あの先生だぞ?」
信用できない、全員がそう思っていた。そして案の定だった。
「測定終了です!」
「お疲れ様でしたー!」
「よーし昼飯だー!」
喜ぶ生徒たちにアイゼン先生は満面の笑みで告げた。
「それでは今から山に捨てます」
「だから言い方ァ!!」
ジークが叫んだその瞬間、大きな音とともにどこからか煙が噴き出した。
「げほっ!?」
「な、何だこれ!?」
「睡眠薬入りです」
「説明が遅い!!」
俺の叫びも虚しく、意識は沈んでいった。
「それでは皆さん。良い遭難を」
目を覚ます。それでは問題です、ここはどこでしょうか? 見渡す限り木、そうここは……
「山じゃねぇか!!」
勢いよく起き上がる。目ん玉飛び出そうなくらい驚いたわ。
「あぁ……終わった」
草とは仲良しだったはずなんだけどなぁ……。勿論、土とも雨とも友達だよ?
「とりあえず……助けてくださーい」
まずは大きな声で助けを呼ぶのが大事って本に書いてあった。
「うるさいよ」
「うおっ!? な、何で居るんだよハク!」
後ろを向いたら、当然のように木の根元へ座っていた。
「お前……何でそんな落ち着いてんだよ」
「寝てたから」
ゼロみたいなこと言わないでもらっていい? 俺、お前背負って歩くとか無理だよ?
その時だった。ハクの尻の下に何かある。そこには、アザゼル先生の字で書かれた演習内容が。
【三日以内に学園へ帰還せよ】
【食料・水・装備は現地調達】
【途中で教員が襲撃する】
【死んだら失格】
「最後の一文おかしくない?」
「アルト、俺水は持ってるよ」
「お前天才か!!」
思わず抱きついてしまった。無表情で押し返さないで、心に来る……。
「アルト、これ」
紙には続きがあった。
【なお遭遇した仲間を見捨てた場合減点】
【全員生還なら加点】
「……なるほど」
「どうしたの?」
ハクが首を傾げる。
「これ勇者対策だ」
「これが勇者対策なの?」
「ああ」
勇者は人を助ける。だからこそ、対になっている悪役は仲間を見捨てる存在だと思われている。でも違う、終焉学園が教えているのは仲間を守れる悪役だ。
「とりあえず雨風凌げる場所を見つけよう」
「うん。アルト、水どうぞ」
「お前良い奴だなぁ……」
「俺のことなんだと思ってたの?」
「扉の番人」
ペットボトルを返しながら森を進み始める。あら、ハクさん? 急に俺にもたれかかってくるのやめようか。俺君と同じくらい体力ないんだなぁ、これが。すると数分後。
「た、助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
聞き覚えのある騒がしい声が聞こえた。
「ねぇアルト、これってジーク?」
「十中八九アイツだな」
声のした方へ茂みをかき分ける。
「何してんだお前ぇ!?」
逆さ吊りになったジークがいた。完全に罠に掛かっていた。
「頭に血がのぼる……助けてください、アルトぉぉ……」
「何で開始五分で捕まってるの? バカみたいだね、アルト」
「おいこらハク! 今の俺にその言葉は禁句だぞ!!」
こうして、俺とハクとジークの山岳サバイバルが始まった。うん……何でこの二人なの。ガレスとかヴァイスが良かった……。
その頃、森の奥では岩の上に腰掛けたアザゼルが双眼鏡を覗いていた。
「結構バラけたな」
その隣にはアイゼンが楽しげに微笑んでいる。
「どう? いい感じに配置できたでしょ」
「だが、相変わらず生徒人気が低いな」
「それ今関係あった……? というかさー、アルト君はあからさまにアザゼルの授業が好き!って感じで私ちょっと悲しいんだよ……」
その言葉にアザゼルは口角を上げた。滅多に笑わない彼は同期の前だけでは微笑む。
「でも、ちゃんとお前の授業も聞いてる。その証拠に、誰も仲間を見捨ててない」
逆さ吊りのジークを助けるために刃物を探すアルトとハク。マキナのネジを見つけては手渡すリリカ。足を怪我したセレナを運ぶガレス。
誰も置いていかない。それが、終焉学園一年A組だった。
「いい子たちだよね」
アイゼンの呟きにアザゼルは少しだけ微笑んだ。
「だからこそ、勇者に勝てる悪役になる」
二人が生徒を見つめるその目は、どこか誇らしげだった。
「あ、アザゼルそろそろ行かなくて大丈夫?」
「はぁ……俺は実技担当じゃないんだけどな。後でアイツに夜飯奢らせる」
「私も奢ってもーらお。店予約しとくから、早めに終わらせてきてよアザゼル」
山岳演習一日目、地獄の特訓が幕を開けた。




