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敗北英雄―勇者を勝たせる仕事です―  作者: 来巳日咲
第一講『終焉学園入学編』

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仲間を守れる悪役へ②


「よし、とりあえず降ろすぞ」

「頼む!」

 その変にあった鋭い木でジークの足に絡まったロープを切る。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 その瞬間、無様に頭から地面へ落下した。


「無事だよな、よし行くぞ」

「無事じゃねぇわ! 見ろ、頭から血出てんだろ!」

 元気そうだった。良かった。とりあえずこの二人を見捨てることはできないので、何か手掛かりがないか聞いてみる。

「それで、ジーク。お前は何か見つけたか?」

「知らん! 起きたらこうなってたし、ヤバいよな!」

 笑い事じゃねぇぞ、こら。本当に役に立たない情報だった。だがしかし、人数が増えたのはありがたい。力仕事は全部ジークに任せよう。


「とりあえず移動するぞ」

「どこに?」

「……知らん」

 俺、方向音痴だから分かんないよ?


 歩き始めて十五分。

「腹減ったぁぁあ」

「お前ゾンビみたいな声出すな」

「仕方ないだろ!? 朝から測定してたし、お腹は空くもんだ!」

「ジーク、水ならあるよ」

「は!? お前……神かよ、ハク!」

 あ、やめてくれ。勢い余って抱きつくシーンはさっき俺で見せました。


 まぁ、確かに水もいつ尽きるか分からないし、食料も見つかる気配がない。このままだと割とまずい。冷や汗で水分を摂れそうな、そんな時だった。ガサガサと茂みが揺れる。一瞬で静かになった俺たちは反射的に身構えた。

「誰だ!」

 俺が叫ぶとその声に飛びついたのは、リリカさんだった。

「アルトくん! 良かった、合流できて!」

「おぉ……」

 さらにその後ろからは、星喰さんもやってきた。

「はぁ……テンション上がりすぎでしょ」

「リリカさん、他のみんなは?」

「私たち最初からずっと二人で、誰も見てないの」

「だよな」

 まぁ、そう簡単には集まらないか。そんなにたくさん居ると、こちらの処理や食料事情も大変になりそうなので。


「あ、アルト。これ拾ったんだけど」

 星喰さんに肩を叩かれてそれを見れば、地図らしき紙が渡された。

「使える?」

「……お前、天才だな。よくやった、星喰!!」

「痛っ!? 力加減考えてくんない、女の子なんだけど」

「すみません……」

 そこには学園の位置が記されていた。現在地は不明だが方向だけは分かる。


「これ東だな」

「お前バカか!? これ、北だろ!」

「ジーク、お前やるじゃん。じゃあ進もう」

「何だお前。恥ずかしいのか」

 減らず口だな、この勇者擬き。


 途中で水源を見つけました。濾過したら飲めると思います。ですがね、みなさん……世の中そんなに甘くない。

「こんなの、飲めないでしょ……」

「葉っぱ入ってるけど、大丈夫?」

 女子二人に思いっきり引かれてる。尊厳がなくなりそうなくらい引かれてるわ、助けて。


「アルトが大丈夫って言ってんなら大丈夫じゃねーの? 草と雨水と泥ってコイツの得意分野だし」

「何その得意分野」

「尖りすぎじゃない?」

 それはフォローになっているのだろうか、ジークよ……。とりあえず俺の雑草魂で汚泥が綺麗な飲み水になりました!


「凄いね、アルトくん!」

「まぁ、俺の親友だからな!」

「俺、いつお前の親友になったんだ?」

「え……傷付いた」

「ごめん、本当ごめん。冗談だって」

 案外打たれ弱いのだろうか、コイツは。


「じゃあ歩くか……って、待て。ハクは……どこ行った」

「ヤバい……早く探さないと失格になるぞ!」

「ねぇ、見て。あれ、彼じゃないの」

 セレナの声に反応して上を見上げた。

「あ、アルトたち気付いた。助けてー」

「何してんだぁ!?」

 何か知らないうちにアザゼル先生に捕まってるんですけど!?


 先生は黒いローブを着ていて格好良かった……じゃなくて、どうしよう。

「嘘だろ」

 俺は思わず呟いた。アザゼル先生は余裕そうに木の上に座っている。そして、完全にこっちを見ていた。


「随分と固まったな。まぁ、捕まえたのはコイツだけだ。お前らは俺から逃げ切れたら失格にはならない」

「逃げろぉぉぉぉ!!」

 俺が叫んだと同時に全員が走り出した。勿論、アザゼル先生に背を向けて全力疾走。何でこんなに次から次へと……!


「そうか、お前らの評価は……」

 何か言っていたけど聞こえなかった。俺たちが逃げる木々の間から大量の黒い犬が飛び出して、行く手を阻まれる。

「い、犬……いやだぁぁぁぁ!」

「お前の恐怖は犬か。昔噛まれたりしたのか?」

「世間話できるほど余裕ないんですけど!?」

 いや、それにしても多すぎるだろ!! 涙が止まらないんですけど、助けてください。一匹一匹が大型犬ほどの大きさで、唸り声を上げながらこちらを囲んでいる。


「終わった……俺の人生終わった……」

「まだ死んでないぞ」

「今からアンタの能力に殺されるんだ!」

 情けないが鼻水が出てきそう。みんなと逸れてしまったし、俺はここの切り抜け方をしらない。

 

「……紫泉、お前は何故逃げた」

「何故って……先生が逃げろって言ってたじゃないですか」

「…………それもそうだな」

 変に納得したような表情でゆっくりと手を振り下ろす。急に眠気が襲ってきた……。

「アルトちゃん、まだ寝るには早いんじゃね?」

「え、ヴァイス!?」

 浮遊感で目が覚めたら何故かヴァイスに担がれていた。


「お前、何でここにいるんだ……!?」

「これちゃーんと拾ったからさ」

 そう言って見せてくれたのは、俺が木に括り付けていた小さな紙切れ。

「アルトちゃん、ナイス。これのおかげでみんな合流できた」

 アザゼル先生から距離を取ったところで降された。フッと笑って水を差し出してくれたヴァイスは、俺の一番の杞憂を吹っ飛ばす。

「ハクちゃんは、しっかり救出済みだからね〜」

「……見捨てて無かったんだな、お前たち」

「えっ、アザゼル先生……!?」

 上から降ってきた先生に捕まりそうなんですけど、ヤバいヤバい!!


「仲間を置いて逃げたのかと思っていたが……」

「置いていきませんよ。悪役は一人じゃ戦えないので。それに……俺たちが先生に勝てるわけない。だから、みんなの力が必要なんです」

「……良い成長だ」

 はっ……!? アザゼル先生の口角が少し上がったような気がする……!


「まぁ、俺から逃げられるかは別物だがな。捕まったら失格、これは変わらない」

「ヴァイス、もっかい担いでぇぇえ!!」

「アルトちゃん、俺ずっと人担いでんのよ〜」

 確かにちょっとしんどそうだ……。ならばここは俺が何とかするしかない。


「先生!」

「何だ」

「話し合いで解決しませんか!?」

「しない」

「即答!?」

 知ってたけど! 知ってたけどさぁ! 冷たすぎて、アルトくん泣きそう。


 その瞬間、木の上から聞き慣れた声が響く。

「先生」

「助けたのか?」

 アザゼル先生が俺たちに向かって尋ねる。ちゃんと間に合ってるのは流石だな、星喰さん。


「アルト、ちゃんとやったけど」

「星喰……そうか、幸運を使ったか」

 アザゼル先生が小さく息を吐く。俺の後ろに立つ星喰さんは、どこか不機嫌そうに髪を払った。

「流石だ」

「上司か。腹立つな」

 えっ、純粋に褒めたんだけど!?

「偶然じゃなく、必然に変えたか」

 アザゼル先生の言葉に首を傾げれば、本人から補足が入った。


「私の能力は運を奪う。全員の運を回収して、月夜を見つける確率も救出に成功する確率も引き寄せられる。それに賭けた」

「つまり……」

 俺はゆっくりと理解した。そして血の気が引いた。

「今のアンタら全員、運ないよ」


 その言葉を待っていたかのように先生はゆっくり立ち上がる。

「運はない。実力もない。それで俺から逃げられたなら、この演習は合格だな」

 嫌な予感しかしない。先生が指を鳴らした瞬間、森全体が揺れた。

 ドゴォォォォォン!!

「うわっ!?」

「地震か!?」

 木々の間から巨大な影が現れる。それは黒い狼だった。いや、訂正しよう。狼なんて可愛いものじゃない。二階建ての家くらいある。


「デカすぎるだろ!!」

 俺とジークと星喰さんは同時に叫んだ。リリカさんは目を丸くして呆然としている。ただ一人、ヴァイスだけ笑っていた。

「おぉ〜、せんせーの本気モードじゃん」

「感心してる場合か!!」

 黒狼が咆哮して、空気が震えた。どうしよう、あれ絶対勝てないわ。


「安心しろ。お前らにコイツを倒せとは言わない」

「本当ですか!?」

「終業するまで逃げ切れ」

「やっぱり地獄だったぁぁぁぁ!!」

 俺の悲鳴が森に響いた。こちらパニック状態のアルトです!!


「アルトちゃん、指揮取って」

 そんな俺の隣からヴァイスが珍しく真面目な声を出す。

「は?」

「こういう時のアルトちゃん、結構冷静だから。それに……俺たちのリーダーでしょ」

 冷静じゃないし今も泣きそう。だが、その言葉で周囲を見る。リリカさん、ジーク、星喰さん、ハク、ヴァイス……みんな俺を見ていた。


 俺に出来るかなんて分からないけど、誰一人欠けたくない。じゃあ、ここで黙るわけにもいかないだろ。

「ヴァイス!」

「ん?」

「影で足止めできるか!?」

「三分なら」

「五分だ!」

「無理言うね、アルトちゃん……」

 

「ハク!」

「うん、できるよ」

「まだ言ってない」

「ヴァイスの影消えたら最大光力で当て続ければいいんでしょ?」

「話が早いな!?」

 コイツ実は優秀なのかもしれない。


「星喰さん!」

「はぁ……なに?」

「みんなの今の運はどのくらいまで下がってる!?」

「1番下。大凶くらいだけど」

「ジークの運だけ気合いで何とか凶くらいまで上げて!」

「私だけ指示雑なんだけど!!」

 怒られた。だが今は仕方ない。


「アルト、俺は?」

「ジーク!」

「おう!」

「お前は囮!」

「はぁ!?」

「お前しか適任いない!」

「ぐぅぅぅ……納得しそうになった俺が嫌だ!!」

 その時だった。黒狼が突進してきて、地面が爆発したみたいに土が舞う。


「じゃあまた後で!!」

 ヴァイスを残して全員が散開した。能力を発動したアイツの影からは剣士と狙撃手が飛び出す。

「剣士ちゃん、今日ご飯いっぱい食べたから十分は持つんじゃない〜? 狙撃ちゃんも、これ止めれたら放課後マシュマロ買ってあげるよ」

 自分の能力にそう話しかけていた。そうか……コミュニケーションを取ることでいつも以上の能力を引き出しているのか。


「アルトくん、私はどうすればいい?」

 隣を走っていたリリカさんは俺にこそっと聞いてきた。

「リリカさんには、重要な役割がある。ここからは、俺とリリカさんだけの作戦だ」

 敵を騙すなら、味方から。疑い深いアザゼル先生のような敵にこそよく効く。俺はリリカさんに考えを伝えた。


「凄いね……。アルトくんは絶対敵に回したくないかも。でも、それやるなら今の作戦は関係あるの?」

「ある。これは、悪役大集結のための下準備だから」

「どういうこと?」

 遠くでハクの月の光が放たれた。

「そろそろ来るな。山に捨てられる前、アイゼン先生は教師たちが襲撃するって言ってたよな?」

「うん……」

「ここまでアザゼル先生しか見かけてないのは不思議だ。恐らく……俺たちと同じようにアイゼン先生に襲撃されているもう一つのグループがある。ヴァイスの足止めはそれを確認するため、向こうでも戦っていたらアザゼル先生の加勢には来ない。ハクの光は俺たちの居場所を知らせるためだ」

 そんな話をしていれば、遠くの方でも雷のような光と轟音が響いた。


「ゼロだな」

「で、でも……二チームに分かれてるって確証はないんじゃないかな……?」

「いや、多分二つで合ってる。アザゼル先生の能力の出し方に違和感があった。あの人、能力を前に出すんじゃなくて左側に集中して出していた。左はどうやら行かせたくないらしい」

「そういうことね、アルトちゃん。アザゼルせんせーの左に進めば学校に戻れるわけか〜」

 自分の役割を終えたヴァイスがいつの間にか俺の隣に立っていた。

「……ここから、総力戦だ」


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