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敗北英雄―勇者を勝たせる仕事です―  作者: 来巳日咲
第一講『終焉学園入学編』

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仲間を守れる悪役へ③


 

 俺の言葉に全員が頷く。ヴァイスの剣士がアザゼル先生の能力を抑えつつ距離を取る。

「アルト! お前らも全員ここにいたか!」

「ガレス、お前なら分かってくれると思ってた!!」

 生き別れた兄弟の感動の再開ぐらい嬉しい。ハグしていい??


「アルトくんだ!」

「雷連発しすぎて過労なんだけど、お前の作戦だよな?」

 ゼロが怖すぎてフィアさんが天使に見えてきた……。

「これで全員揃ったぞ、アルト」

 隣に立つガレスはそう言って俺に指揮権を預けた。


「ここからは、先生の穴を突いて一人ずつでも向こう側に走り抜ける。体力に自信がない奴は能力で足止めしながらでいい」

「私たちから逃げられるとでも?」

 ガレスたちが合流したという事は、アイゼン先生もこちらに来るということ。そして、これまで戦い続けていたヴァイス、ハク、ゼロ、フィアさん、星喰さんはもう限界が近い。運を回収しながら状況を整える星喰さんにこそっと声をかけた。


「……今、俺たちの運は?」

「最低だよ」

「そうか。上出来だ、助かる」

「は?」

 運がない俺たちは散々だった。深彩(しんさい)さんの足元に大きな水溜りがあり、それに落ちて動けない。ヴァイスは使役していた影がハクのタイミングと被って消えてしまった。ゼロの雷は何故か反射してガレスに当たる。


「お前ら……そんなので俺たちを倒せるのか?」

 多分踏んだり蹴ったりすぎて、アザゼル先生も心配してる。アイゼン先生なんて攻撃する手を止めて笑ってるし、舐められてるわ。


「……先生たちこそ、油断してたらダメですよ。それに、俺たちはまだ全員揃ってない」

「何を言って……」

「アザゼル、私たちは忘れてしまっていたようだよ。すでに学校に着いてる二人を」

 アザゼル先生は双眼鏡で学校の方角を見た。

「……なるほどな」


 そう、俺たちはただの囮。この作戦の囮は俺たち十三人で、本命は囮候補のジークとリリカさん。この作戦の要だ。アザゼル先生がこちらを警戒している限り、注意は俺たちに割かれる。だからこそ、リリカさんの能力が刺さるんだ。


「偽りの純白」

 白い光がリリカさんとジークを包んで、全員の意識はそちらに向いた。敵意も危険性も感じなかった二人から先生たちは目を離せない。

「おーい、アルト! ちゃんと辿り着いただろ?」

 ジークの声に俺は微笑んだ。

「あぁ、流石だジーク」


「それでお前らの作戦は終了か? 神下(こうした)白雪(しろゆき)以外は失格となるが」

「先生、俺たちは悪役ですよ。仲間は見捨てないって教えてくれたじゃないですか」

「へぇ……アルトくんって、案外頭脳派なんだね。アイゼン先生びっくりだよ」

 そう、俺たちじゃまだ先生には勝てない。だから、どうやって騙して逃げるか、それだけを考えていた。


「アルトちゃん、こっちはいつでもオッケーよ」

「アザゼル先生」

「何だ」

「俺、ジークと約束したんですよ。ジークが学校に着いた時、俺たちは一歩も動いてはダメ。動けば強制的にジークの元に飛ばされる……って」



 数時間前、森の中で俺はジークだけを呼び止めていた。

「ジーク、お前は囮だ。追われていても後ろなんて気にせず学校まで走り抜け。もし先に学校へ着いたらちゃんと俺たちが全員集結するまで待ってろよ?」

「やっぱり俺囮かよぉ……」

「俺たちの様子が常に見えるように学校の屋上に行け。全員が揃ったら俺たちに声をかけろ。その後ジークとリリカさんを除く俺たちA組は絶対に動かない、いいな」

「何でそんなに顔近いんだよ、怖いって」

「お前の能力が最後の砦だ」

 俺の言葉にジークは笑った。

「約束する」


 この状況を見て、俺のやりたいことが伝わったのだろう。ジークがニヤリと笑って、俺を見た。上出来だ、本当。

 

「アルト、いつでもいいよ。もう準備は出来てる」

「全員、一歩でいい。動け」

 俺の言葉に、疲労が蓄積している彼らも動いた。これで、神罰者本人が約束を破棄する前に約束が破られる。空気が震えて、金色の光が屋上から俺たちの足元まで広がった。

「――神罰代行(ディバイン・フォール)

 ジークの瞳が金色に光った。

「あちゃー……これは一本取られたね、アザゼル」

 ジークの能力は交わした約束を破った場合、その契約内容を強制執行する能力。気が付けば俺たちは全員屋上に転移していた。


「おぉ……本当に全員来た!」

「ジークくん、お疲れ様」

白雪(しろゆき)もありがとな!」

 二人でハイタッチしていたところで、ガレスが俺に話しかけた。

「アルト、お前のこと見直した」

「いや、ただ悪知恵が働くだけだ。俺の能力は人によっては効果ない時もあるしさ、お前らが羨ましいよ」

「なーに謙遜しちゃってんのさ。アルトちゃんが居たから俺たちここに居るんだよ〜?」

「お前は俺たちをこき使うのが上手いからな。お前に過労で殺されそうだ」

 ヴァイスは肩を組んで褒めてくれたけど、その隣のゼロは鋭い目付きで褒めている?のか分からないテンションだ……。


「アルト! お前俺のこと囮とか言っといて、本当は俺のこと主人公にしたかったのかよー! 先に言ってくれたら、もっと格好良く登場したのにさ!」

「調子に乗るな」

 コイツに全部話すと多分失敗すると思った。マジで良かった、あの時の俺ナイス判断。

「でもさ、なんか今日めちゃくちゃ運が良かったんだよな。崖から落ちても木に引っ掛かるし、道は全部開いてるし、まっすぐ歩いてたら学校に着いたし……。はっ、もしかして……これも俺が主人公だから!?」

 いや、星喰さんの能力です。俺たちが散々だったのに、何か脳天気なの腹立つわ。


「星喰さん、俺たちの運戻して」

「はぁ? 全員の運今平均して小吉くらいだけど」

「ジークだけ大凶で」

「……私は知らないから」

 よし、ジーク転けろ。


 教室に戻ってきました、空気が美味しい!!

「ただいまー!!」

「帰ってきたぁぁぁ!!」

「生きてるー!」

 騒がしい三人組(フィアさん、ジーク、レン)がよぉはしゃいでますわ。俺は心の中ではしゃぐタイプだから、みんな気にしないで。


「みんな、思ったより成長したね」

「悪役としては百点だ」

 お褒めの言葉をいただきました。

「特にアルトくんはさ、魔王の素質があるよね。あの短時間で合流から転移まで……みんなが着いていきたくなるのも分かる気がするな〜」

 アイゼン先生がベタ褒めしてくれるんだが。

「え、そうですか……えへへぇ」

「キモい声出すな」

「ゼロてめぇ!!」

 仕切り直すようにアイゼン先生が手を叩いた。いや、ジーク多分拍手じゃない。

「仕切り直します」

 言っちゃったよ、アイゼン先生。


「こうやってみんなで協力して逃げましょう。学んだと思います、悪役は一人では世界を変えられないと。それをちゃんと君たちは覚えていてくれた。それだけで私たちは嬉しいんです」

「お前たちはお互いを信頼している。まだ出会って数日だが、全員信頼に値する最高の悪役だ。これからももっと上を目指せ」

 

 悪役育成機関、ここは世界から見れば馬鹿げているような場所なのだろうか。なんて、側から見た景色はどうでもいいくらいに、この場所が俺のこの先を形成してくれそうで。俺が悪役を目指す理由……それは、みんなを、この学校を守りたいというただそれだけのこと。生きるために生きてきた俺はこの先、最高の悪役としてこの人生を彩りたい。



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