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敗北英雄―勇者を勝たせる仕事です―  作者: 来巳日咲
第一講『終焉学園入学編』

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8/8

勇者が希望なら悪役は悪夢になれ


 

 みなさんおはようございます。こちらは寝不足のアルトです。翌朝、俺はヴァイスと二人でゼロを担いでいた。神輿みたいになってるけど、大丈夫そ?

 俺だって眠いんだぞ……という文句は一旦しまっておいた。まだ眠気の残る頭を抱えながら、俺たちは教室へ入る。

 

「……あ、どうぞ」

「まだやってたの!?」

「うるせぇ、アルト」

「あ、ごめん……って何で俺、お前に気使わなきゃいけねぇの!?」

「……どうぞ。席はどこでもいいって」

「botか、お前!!」

 また定位置にスタンバイしたハクを引きずって席に着かせた。あ、ゼロはヴァイスに担がせたよ?


「ユウト、お届け者だ」

「は? 何で俺?」

「ズッ友だろ」

「別にお前とは友達じゃないけど」

「俺じゃなくてハク!! ってえ、何か悲しい言葉聞こえたんだけど……」

「はぁ……おい、ハク。あんまりウロウロするな」

「どうして?」

「……コイツがうざいから」

「?」

 何で俺、何回も傷付かないといけないんだ?? あれ、間違ってたらごめんけど、これはハクとユウトの会話でしたよね?

「分かった。ユウトのことは好きだし、いいよ」

 傷心中に絆が深まったっぽい。こういうゲームありそう。まぁ、良かった良かった。


「あぁ……眠てぇよぉお」

「お前昨日一時までトランプしてただろ」

「バレたかー! 実はヴァイスと絵しりとりしてたんだよ」

「隠す気なかっただろ」

 いつもの席を見ると、ガレスとジークが話していた。俺の不眠の原因の一つが分かりました。昨日のやけに眩しい電気です。


「アルト、昨日眩しかったよな?」

「そりゃもう!!」

「めっちゃ怒ってんじゃん……。ごめんってば、アルト、ガレス」

 何でコイツの謝罪ってこんなに胡散臭いんだろう……。そんなやり取りをしていると、壇上へ一人の女性が現れた。


「おはよう諸君」

 その一言だけで空気が引き締まった。

「私は国立終焉学園学園長、クラウディア・ノクターンだ。今日は諸君に大切な連絡事項があってだな」

 

 隣に立っているアイゼン先生はホワイトボードを取り出し、大きく文字を書く。

 【五月 国立黎明学園交流戦】

黎明学園(れいめいがくえん)……? 聞いたこともない単語にみんな頭に?が浮かんでいる。

「そうだな、黎明学園とは未来の勇者達の学校だ。毎年恒例だが、五月上旬に交流戦を行っている。勿論これも国の方針でな」

「交流戦?」

「勇者と?」

 あちこちから声が上がる。俺も思わず目を見開いた。草むら生活を送っていた俺でも聞いたことのある単語、勇者。この国で最も有名で高貴で大切な職業。そんな英雄ヒーロー候補が集う学園……俺たち終焉学園とは真逆の存在だ。


「はい、静かに。諸君らは悪役だ。いずれ勇者とは戦うことになる」

「嫌な未来だな……」

「安心しろ。私もそう思う」

 教師が肯定するな。あとまた声出ちゃってましたか、失敬。隣で小さな笑いが生まれた。


「交流戦の内容は全四種。レクリエーションを含むと五種だがな。これは毎年変わるが……一対一の模擬戦はメインイベントだから、今年もあるだろうな」

「毎年変わるんだ……」

「運営も大変らしい」

「めっちゃ他人事だった」


 しかし、学園長の次の言葉で空気が変わった。

「ただし、今年は例年と少し事情が違う。黎明学園は近年屈指の当たり年だそうで、特待生一人を含めた五人の勇者がいる」

「それは凄いんですか?」

「そうだな……大分ヤバい。例年は勇者は一人か二人……それに、特待生は五十年に一度居たらいいくらいだ」

 あぁ……なんてことでしょう。俺たちの代に当たらないで欲しかったなぁ!? アイゼン先生が持っているホワイトボードには名前が並んでいて、それぞれの名前と能力が記されていた。


柊木(ひいらぎ)アリア】

能力:逆境進化(アダプテーション)。蓄積した疲労や負傷を力へと変換する。さらに、受けた攻撃や状態異常に適応し、毒や炎などへの耐性を獲得していく成長型能力。


叶先(かなさき)ルクス】

能力:深海牢獄(アビス)。深海空間を作り出し、対象を能力内へ閉じ込める。内部では海流や水圧を自在に操ることができる。


恋白(れんぱく)セリア】

能力:祝福(ブレッシング)。味方の身体能力や魔力を強化する支援型能力。人だけでなく武器や防具などの物質にも効果を付与できる。

 

式京(しきみや)アイリス】

能力:真実看破(トゥルーアイ)。幻術・変装・偽装工作など、相手が纏うあらゆる偽りを見破ることができる。

 

高良(たから)ユリウス】

能力:重力支配(グラビティ)。一定範囲内の重力を自在に操る能力。重圧による拘束や引き寄せ、吹き飛ばしなど攻防一体の戦闘を得意とする。


「おぉ……アザゼル先生にしては丁寧にまとめてくれてる」

「ジーク君?」

「何でもないです」

 コイツも結構心の声出るよな。それよりも、この一番上の名前だけなんか聞いたことあるな……。

「ちなみに、柊木アリア君が特待生です」

「あっはは、天才世代じゃん〜」

 相変わらず呑気ですね、ヴァイスさん……。 


「まぁ、そんなに落ち込むことはない。君たちはまだ悪役の卵だ。今から立派な悪役になっていけばいい」

 学園長は一度言葉を切り、教室全体を見渡した。その紅い瞳は一人ひとりを品定めするように細められる。

「悪役は勇者を引き立てる存在だ。だが、勇者に舐められる存在ではない。諸君の今抱えているモヤモヤも分かる。だからこそ、思いっきり負けて悪役というものを見せつけろ」

「何か燃えてきた……!」

「みんなで頑張ろうね!」

「あ、すいませんいいですか」

「アルト、水刺すこと言うなよ?」

 隣からの目線をスルーして、俺は引っかかったワードを繰り返した。


「思いっきり負けるって何ですか?」

「勇者側に後悔させろ。終焉学園の奴らと戦いたくないと思わせるくらい、ギリギリまで追い詰めて負けろ」

 何を言っているんだろう、この学園長。

「学園長せんせ、それは八百長ってこと〜?」

「八百長……かもしれないな。でも、悪役には悪役の勝ち方がある。そうだな……勇者あいつらが希望なら、悪役おまえらは悪夢になれ」

 まだ、俺には悪役がどんなもので、どんな悪役を目指すのかなんて目標もない。それでも、この居場所を守るためなら悪役に成りきってやろうと思った。


「ありがとうございました、学園長」

「後は頼んだぞ、シュトラウス」

「はい、勿論です」

 猫被んな。俺たちにはそんな感じじゃなかったでしょ、アイゼン先生。


「はい、という訳で……今日から交流戦特別訓練期間に入りまーす!」

「何それ、楽しそう!」

「アデル君、君が私に笑顔を向けてくれる日が来るなんて……!」

 今泣く要素あった? あ、そっか……アイゼン先生苦手って言われてたもんな。


「さて、まずは演習内容を説明します」

 ホワイトボードがひっくり返る。そういえば、この人って何で黒板使わないの??


 【交流戦対策訓練】

「今日から二週間、みなさんには対勇者演習を徹底的に叩き込みます」

「負けるのに強くなっていいの?」

「何言ってるんです? 負け方を必死に学ぶんですよ」

 貴方が何言ってるんですか?


「今日の午前中は基礎体力測定を行います」

「普通だな」

「午後は山に捨てます」

「普通じゃなかった!!」

 ジークが思わず立ち上がっている。というより、教室全員が反抗し始めた。


「今なんて……?」

「捨てるって言った……」

「ちゃんと拾ってくださいよ!?」

 ジークとシキは何でそんなに絶望してんの? あと、レン。お前はチョコ返せ。

 そんな中、アイゼン先生は相変わらず満面の笑みだった。


「大丈夫です、死なないように配慮します」

「そこが基準なんだ……変な人」

「せめて先生と呼んでくれますか、ゼロくん。あ、ちなみに山の中には教員もいます。みんなの大好きなアザゼルもいますよ」

「よっしゃ!」

「アルト君、そんなにあからさまに喜ばれると私が惨めになるんだけど……」

「あ、すいません……」

 あの、気まずい空気にしないでもらっていいかなぁ!?


「良かったな、アルト」

 うん、俺は嬉しいよガレス。

「アザゼルと私はみなさんを殺す勢いで狙います」

「良くなかった!!」

 俺のテンションを返してくれ。あぁ、俺たちの平穏な学園生活が終わってしまう。隣を見れば手が震えているジークがいた。いや、お前何したらそんなに怯えるわけ?


「楽しそうじゃん。ね、ゼロちゃん」

「どこが? 午前中だったら俺のこと担げよ、ヴァイス」

「午前中ですよ」

「……ゼロちゃん、俺捕まっちゃうけど」

「良かったな」

「良くないよ〜?」

 俺たちと同じ会話しないでくれる? 再放送早すぎて離脱しちゃう人出てくるから。


「でも、青春って感じだよね!」

「フィアちゃんはいつも青春の定義がバグってるね」

「あれ、今貶された?」

 目を逸らしたらそれは肯定と受け取られますよ、リリカさん……。


「ではみなさん、体操服に着替えて講堂に集まってくださいね。基礎体力測定があるので! それでは、地獄の特訓一日目開始しましょう」

「その呼び方やめろぉぉぉぉ!!」

 ジークを筆頭に、俺たち一年A組の悲鳴が朝の校舎に響き渡った。



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