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敗北英雄―勇者を勝たせる仕事です―  作者: 来巳日咲
第一講『終焉学園入学編』

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7/8

悪役とは派手に負けるために地味な努力をするもの


 本日最後の授業が始まった。

「ラスボスには守るべき法律がある」

 教科担当のアザゼル先生。待ってたよ、アザゼル先生!! ラスボス法学っていう授業は意味わかんないけど!


「悪役に法律なんてあるんですか?」

「ある。その中でも今日は三つ教える」

 どんな法律があるんだろう……。アザゼル先生の授業は真面目だから、聞き甲斐がある。さぞかしためになる時間なんだろうな!


「一、戦闘前に長話をすること」

 え? あれ、雲行きが怪しくなった。しかもあれ、法律なの!?

「二、勇者の変身時は待機しておくこと」

 えぇ!? あのよく見る、今攻撃出来るのに何で悪役は攻撃しないんだろう……というモヤモヤも!?

「三、勇者を崖から落としたら生存確認をすること」

「変な法律しかねぇな!?」

 ありがとう、ジーク。俺も今ツッコミそうで危なかった。それと、一旦真顔で授業するのやめてもらっていいですか、アザゼル先生。


「モラルを守らない悪役は嫌われてしまう。あと……」

 先生は遠い目をした。

「歴史上のラスボスの八割は法律を無視して、勝っている……」

「じゃあ守らなくてよくない?」

 みんなの疑問を代表してフィアさんは言った。


「それは違う。勝つだけなら簡単だ」

 アザゼル先生は即答して、チョークを黒板に打ち付ける。

「だが、お前たちは何を目指している?」

「世界征服」

「魔王!」

「格好いいラスボス」

「そうだ。勇者に勝つだけなら三流でもできる。勇者に負け、勇者を立たせ、さらに伝説として残る。これが一流のラスボスだ」

 アザゼル先生の授業を聞いていると、悪役も奥が深いんだなと感じる。自然と前のめりで聞いている自分が窓に写った。


「では一つ目の法律だ。なぜ戦闘前に長話をする?」

「自慢したいから〜?」

「半分正解」

「半分ってどういうこと、アザゼルせんせ」

「自分のことを話すという点で、目の付け所はいい。ここでは悪役を最低から少し悪いやつくらいまで引き上げる効果を出す」

 アザゼル先生は真面目な顔で言った。


「親に捨てられた、村を焼かれた、世界の理不尽を知った、愛する人を殺された……そういう事情があるから自分は悪役をしているという設定を伝える場だと思え」

「それは、弱い語りを全員に向けて出すというとこですか?」

「その通りだ、紫泉(しせん)。何も語らず戦ったらただの犯罪者だが、語ることで悲しき過去持ちになる」

「なるほど!」

 ジークがかなり感心している様子で頷く。


「だから長話は大事だ」

「先生」

 その言葉にすかさずハクが手を挙げる。

「話している間に勇者が攻撃してきたらどうしたらいい?」

「そんな勇者は人気が出ない」

 なんだその世界。

「そもそもそんな奴は勇者にはなれない」

 偏見凄くない??


「次、勇者の変身時は待機。これは有名だ。では、なぜ待つと思う?」

「礼儀ですか?」

「その通り」

 俺の回答に先生は満足そうに頷いた。

「じゃあ、勇者が変身中に攻撃するとどうなる?」

「はい、圧勝できます! あれ、じゃあ攻撃した方がよくないですか?」

 ジークの疑問に俺も同意見だった。しかし、先生は首を横に振る。


「いいか、勇者は変身シーン込みで勇者だ」

 え?

「変身前を倒しても盛り上がらない」

 ん?

「変身後を倒してこそ価値がある」

「先生それただのエンタメ重視では?」

「当然だ」

 真顔でぶった斬られた。

「これはさっきと同じだが、勇者の変身中に攻撃する悪役はゴミだ」

 言い過ぎじゃないですか、先生。


「最後、崖から落としたら生存確認」

 教室中が頷いた。これは分かる。絶対死亡しているかを確認するんだよな!

「お前らが勘違いしてそうだから先に言っておく。死亡していたらダメだ」

 え、ダメなの!?


「一旦瀕死状態にして勇者の覚醒を促すための演出だ。勇者が死んでいたら、その悪役はゴミだ」

 またゴミになった。

「この勇者は強くなって帰ってくる。そして俺たちがより一層悪役としての輝きを放つことができる」

 あー……そうだった、俺たちは悪役だけど人を殺しちゃいけないんだったわ。


「ちなみにもし死んでしまった場合は、記録帳に詳細を記入して提出だ」

「どこに??」

「政府に決まってるだろ」

 当たり前の顔で言ってますけど、知らないからさぁ!

「アザゼルせんせ、その死体はどうすんの〜?」

「普通に土に埋めるが」

 普通にってやめてくれる?? てか、証拠隠滅していいの、勇者の死体は。


「勇者の死体は持って帰らないんですか?」

 ガレスの質問に影が差す。

「勇者はいわば人類の希望だ。みな死なないという幻想を抱いている。だからこそ、勇者の死は必ず隠される。勇者は世界の未来を壊してはいけない生き物なんだよ」

 その言葉で、まだ会ったことのない勇者の重圧を感じた。勝手に期待されて、必ず応えることを強制される。

 

「……押し付けんなよ」

「アルト?」

「え……何だ?」

「いや、今怒ってるような感じがしたから」

 ジークは心配そうに俺を見ていた。自然と出た言葉を隠すように口元を繕った。

「何でもない」


「ここからは一つずつ実際にあった事例とともに見ていく」

 具体的な法律の話が始まって、気が付けば終業のチャイムが鳴った。え、もう? アザゼル先生の授業もそうだけど、特殊な授業が多くて時間が早く感じる。

 

「以上で本日の授業は終了だ。各自寮に戻って休め」

「なんかこの学園の授業、楽しいな……」

 アザゼル先生が黒板を消しているのを見ながらそう呟いた。

「アルトちゃん同感。馬鹿みたいなことを真剣に授業してんの、おもしろいよね〜」

「ヴァイスもそう思うか! って、お前誰背負ってんの?」

「ん? 今日はハクちゃんだよ〜。ゼロちゃんは珍しく自分で部屋に戻ったからさ」

 え、理由になってないんだが??


 俺とヴァイスの会話を背中越しに聞いていたアザゼル先生は、チョークを整えながら俺に声をかけた。

「紫泉、名残惜しそうに見てくれるのはありがたいが、ちゃんと休め」

「え」

「視線を凄い感じる」

 やだ、恥ずかしい!!

「乙女みたいな反応するじゃん、アルトちゃん」

 そりゃそうだろ、俺の憧れアザゼル先生だぞ。


「でもさ、アザゼルせんせ……悪役なのに俺たちこんな地味なとこにも気配らないといけないの〜?」

「確かに。俺たちがこんなに調整する必要あるんですか?」

 ちょっと不満気に言えば、チョークを触っていた手を止めてハンカチで拭いた。

「悪役というのはな……派手に負けるために、地味な努力をする生き物なんだよ」

 その言葉は俺の心に響いた。

「明日からは演習も入ってくる。さっさと部屋に戻れ」

 頭に先生の手が置かれた。その温もりは人肌を感じるほど優しかった。


「……はい、ありがとうございます」

「アザゼルせんせ、またね〜」

 礼をした俺とは対照的に、舐めた態度のヴァイスにも軽く手を上げて応えてくれたアザゼル先生。何気に一番優しいんじゃないか??


「よし、ヴァイス戻ろう」

「俺ハクちゃん送り届けなきゃだからさ」

「俺に良い方法があるぞ」

「え、なに……」

 警戒しているヴァイスの元に後ろで荷物をまとめ終わったユウトに声をかけた。


「ユウト、ハクが寝ました」

「俺母ちゃんじゃないんだけど」

「一〇二号室に連れて帰ってくれ」

「はぁ……言っとくけど俺、ハクの保護者じゃ……」

「ありがとう、ユウト!」

「聞けや、こらぁ!!」

 ハクを渡すと性格変わるタイプだった。



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