型のない悪役として自由に生きろ
フォークの使い方を教えてもらった昼休憩が終わって、午後からも個性的な座学が始まった。
【二つ名作成講座】
「よし、決めるぞ」
教室が爆発した。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
ごめん、教室というよりジークだったわ。
「神下、うるさい」
「はい、悪役名は本名と何が違うんですか!!」
「悪役名じゃない。二つ名だ」
「はい」
「何だ、紫泉」
「悪役名と二つ名は何が違うんですか?」
俺の質問に、アザゼル先生はチョークを置いた。
「悪役名は個人名。二つ名は評価だ」「評価?」「そう。お前らが何者で、何を象徴するのかを表す言葉」
黒板へ大きく文字が書かれる。
【本名】【二つ名】
「例えば俺なら夕玄アザゼル。これが本名」
先生は自分を指差した。
「二つ名は悪夢の具現者」
何それ格好良っ……てか、初耳なんですけど。
「へぇ……それって、名前じゃなくて周りから見た印象ってことだよね、アザゼルせんせ」
「その通りだ。勇者に恐れられるも良し。仲間に慕われるも良し。二つ名はソイツの生き様そのものだ」
俺の生き様……悪役として生きていくという自覚がまだ無い俺は周りから見ればどう写っているんだろう。
「では早速決めていく」
「待ってください先生!」
ジークが勢いよく手を挙げた。勢いよすぎて風が来た。涼しい……。
「何だ」
「周りからの評価って言ってましたけど、流石に俺たち自身にも決定権ありますよね!?」
「ない」
「独裁国家!?」
「安心しろ。ちゃんと参考にはする」
あれはしない顔だった。変なのにならなかったらそれでいいんだけど、怖いなぁ……。
「ちなみに先生の悪役名は無いんですか?」
「悪役名などいらない」
「いらないんだ」
「ある方がむしろダサい」
「言い切った!!」
先生は教壇へ腰掛ける。その姿格好良いので、俺も練習しようかな。そんなことを考えていたら、黒板に名前が並んでいた。
「簡単なクイズをしよう。アイゼンの二つ名はこの中のどれだと思う?」
【禁書蒐集家】
【終焉の魔王】
【堕天の裁定者】
【魅惑の妖魔】
おぉ……全部悪役っぽい。そして、格好いい。どれもあの人に合いそうではあるんだよなぁ……。正直アイゼン先生は優しいし、面倒見も良い。でも何を考えているのか分からないところもある。
「まぁ、容姿だけ見れば天使っぽいよな」
「ガレス、それは俺も思ってた」
銀色とか白とか似合う人は全部天使だと思ってる。これは紫泉アルトの偏見です。
「俺は【魅惑の妖魔】に一票〜」
ヴァイスが気軽に手を上げる。
「理由は?」
「顔」
「納得」
「納得するんだ」
俺は思わずツッコんだ。
「じゃあ俺は終焉の魔王!」
ジークも元気よく手を挙げる。
「理由は?」
「なんか強そうだから!」
「なるほど……単純だな」
「先生ぇ!?」
ジークが泣いていた。そんなことは気にせず先生は黒板をトントン叩いた。
「正解は」
全員が息を呑む。
「【魅惑の妖魔】だ」
「あれ、当たったわ〜」
「魅惑……」
そんな格好いい単語俺も欲しい。
「ちなみにこれは本人が付けた」
「嘘だろ!?」
「本人が一番否定しなさいよ!」
「何で受け入れてるんですか!?」
うちのツッコミ部隊(ガレス、星喰さん、シキ)から袋叩きにあってますけど、アイゼン先生。
「まぁ事実だから許してよ」
「何で居るんですか、アイゼン先生」
窓から顔出さないで。驚きすぎて椅子から転げ落ちてしまうから。当の本人は満面の笑みで……うん、確かにこれは二つ名に恥じないな。
「さて、本題だ」
アザゼル先生はチョークを手に取る。あ、いつの間にかアイゼン先生は居なくなってました。
「じゃあ最初は神下。能力は」
「よっしゃ来た!」
元気よく立ち上がるジーク。
「候補を挙げろ」
アザゼル先生の一言で教室内の視線はコイツに集まった。
「責任重大だな……」
ガレスが腕を組んでそう言うが、多分みんなふざけるぞ……。すると真っ先に手を挙げたのはヴァイスだった。
「はーい」
「夜城、言え」
「歩く騒音公害」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
即不採用。ついでにジークに頭叩かれてた。
「僕は良いと思うけどね。お前うるさいし」
ヴァイスの後ろでボソッとアデルが言った。
「お前もか!」
「アデルちゃん、いいね〜。やっぱ俺ら思考一緒じゃん」
「逆にコイツにこれ以外思いつかない」
「辛辣だな、お前ら!」
あ、アザゼル先生が頭を抱え出した。
「一旦候補に入れておいて、他はあるか?」
「はい」
「白雪」
「約束の番人とか?」
「おぉ……」
俺とジークが純粋な拍手を送った。他にも何人かが頷く。
「確かに、神下君って約束破るとすっごく怒るもんね!」
「あー」
「確かに」
「ハクのパン事件とか」
「うるさい。もうそれ忘れて」
多分その現場を目撃したであろうフィアさんから始まり、シキ、星喰さん、ユウトが遠い目をしている。容疑者のハクは顔をしかめて、少し不機嫌そうだ。
「何だそれ」
気になった俺は隣のジークに聞かずにはいられなかった。
「パンを勝手に食った」
「ジークが?」
「違う。俺のパンをハクが食った」
聞けば、同じパンを買ったのでジークはシールを貼り付けて置いたらしい。それをちゃんと確認してから食べろと言ったらしいのだが、自分の分を食べられたそうで。
「シール、剥がれてたかも」
「今更無理だよ!?」
「ジークは細かい。俺あれから三日説教された」
思ったより長かった。
「当然だろ!」
そこ別に胸張るとこじゃないと思うんですけど、ジークさん。その瞬間、アザゼル先生がチョークを走らせる。
【神を名乗る処刑人】
「何でだよ!?」
「それがお前の本質だからだ」
「え?」
「お前の能力は裏切りや破った誓いを罰する。約束を守ることじゃない、破った奴を裁くのがお前の本質だ」
教室が少し静かになる。多分みんな思ってることは同じだ。
「格好良くね?」
分かる、ヴァイス。ちゃんと悪役っぽいし、天才かな?
「まぁ? そう言うなら?」
「単純か」
「羨ましがるなって、ガレス!」
あぁ、ハイになってしまった。ガレス、こいつ放っとこ。というか俺もアザゼル先生に付けてほしい!
「先生、俺のも付けてください!」
「そうだな……じゃあ、次は紫泉行くか」
「え、コイツは大トリじゃなくていいんですか?」
「俺大トリの必要ないでしょ、ガレスさん?」
そんな当たり前だろみたいな目で見られても……。主人公かよ、俺は!
「じゃあ、お前らが持つ紫泉のイメージは何だ?」
「雑草!」
ジーク。
「一文無〜」
ヴァイス。
「汚泥」
ゼロ。
「草ベッド」
ガレス。
「おいコラ、てめぇら」
え、勘違いだったらごめんだけど、お前ら同室の仲だよな? 一〇三号室破壊してしまいそうなんだけど、大丈夫そ?
「アルトちゃん、何で怒ってんの?」
「お前らのは二つ名じゃなくて悪口!」
先生、こんな印象しかない生徒にはどうやって二つ名を付けるんですか……。騒がしくなる教室で、やっとアザゼル先生は言葉を発した。
「お前らの紫泉に対する印象は分かった。ただ、ソイツの本質はそこじゃない。もっと深くを見ろ。関係構築学で学んだことを活かせ」
「主人公」
「リーダー」
「中心」
「え……?」
急に評価が反転した。俺のどこを見てガレスとリリカとゼロはそう言ったのか分からないが、アザゼル先生は頷いていた。
「そうだな、紫泉は恐らくリーダーの素質がある。導くというよりも隣を一緒に歩いてくれるリーダーという意味だが」
より一層俺の頭の上に疑問が浮かんだ。そして、アザゼル先生の字で黒板に文字が刻まれる。
【罪を喰らう終幕者】
「これは伸ばせるスキルじゃない。生まれ持ったお前の素質だ。自然と人が集まって、お前は中心になる。それは悪役にとって最高の素質だ」
「終幕者……」
「お前の能力は終わらせる側だ。人の後悔も、罪も、過去もな」
俺にそんなスキルが本当にあるのだろうか。みんなに頼ってばかりで、別に秀でた才能も能力もないのに。
「雑草より百倍マシでしょ」
「それは、比較対象がおかしいんだよ!!」
ゼロの言葉に思わずツッコんでしまった。
その後も俺たちのほぼ悪口からアザゼル先生がカッコいい二つ名を作ってくれるという、天才的な橋渡しが出来ていた。
「白雪の印象は?」
「腹黒聖女」
「隠れ大食い」
「胡散臭い」
これは上からレン、フィアさん、アデルです。ちゃんと覚えといてね、この悪口言った人。
「は?」
「怖っ」
裏出てますよ、リリカさん……。
「本人の前で言うな」
ガレスが呆れてリリカさんを宥めてくれている、良いパパだ……!
【純白の偽聖女】
「白雪、お前の二つ名はこれだ」
「私の能力名も入ってますし、神秘的でいいですね。満足です!」
結構ちょろいんですね、あなた。
「星喰はどうだ。能力は……幸運を奪う運命捕食か」
「口悪い」
「不気味」
「協調性ない」
これは上からレン、フィアさん、アデルです。再放送来ました、お前ら友達失いたいの??
「……アンタら三人に言われたくないんだけど」
確かに!!
【星喰いの魔女】
「その三つは魔女に共通していると俺は思っている」
「アザゼル先生の独断と偏見だった!?」
「魔女……いい感じ」
なんか納得してるのでよしとしましょう。
「次、獅堂はどうだ」
「苦労人」
「保護者」
「お父さん」
ガレスが傷つかないように、俺、リリカさん、ヴァイスは速攻で声を上げた。ちょっと待って、お父さん??
「ガレス、父親扱いされてるぞ!」
「誰のせいだ」
笑っているジークに睨みを効かせた。うん、コイツの尻拭い大変だよね、ガレス。
「じゃあ百獣の王とか?」
ハクがぽつりと言った。全員がそちらを見る。
「確かに」
「似合う」
珍しくハクの意見に満場一致だった。そして先生が少し修正して黒板に名前を書く。
【百獣の暴君】
「暴君なのか……」
「能力がな。あのままだと獣の王になってたぞ」
「納得しました、ありがとうございます」
「次、夜城だ」
アザゼル先生が名前を呼ぶと、ヴァイスは椅子をくるりと回転させながらヘラヘラと笑っている。
「ついに俺のターンか〜」
「軽薄」
「信用ならない」
「おっけ〜。とりあえずアルトちゃんとジークちゃんは後で俺んとこね」
笑いながら喋んないでくれ、怖いから。
【影国の王】
「コイツは人をよく見ている。空気を読み、感情を読む。そして、誰よりも先に異変に気付く。お前の能力は影の王国……だが本質は能力じゃない。お前は自分が前に出るより、影から全体を動かす方が向いている」
「おぉ……」
教室から感嘆の声が漏れた。
「アザゼルせんせ、俺のこと褒めすぎ〜」
「座れ」
「はーい」
「次、月夜」
「扉の人」
全員の意見が一致した。やっぱりそうよね、あの第一印象が衝撃的すぎて忘れられないよね!!
「じゃあ、それでいいよ」
決まりそうだったので、アザゼル先生はため息をつきながら黒板に書いた。
【月蝕の魔王】
「コイツは自分から人を遠ざけている」
先生の言葉にハクが少しだけ眉を動かした。
「他人を嫌っている訳じゃない。自分が傷付かないために距離を取っているだけだ。能力も同じ。光を奪う、感覚を奪う、世界を夜に変える。孤高でありそれは王として君臨する姿を想像させる」
思ったより、アザゼル先生は俺たちのことをしっかりと見てくれているようだった。だからみんな、先生の言葉を受け入れる。
【終焉を告げる雷鳴】【毒霧の庭師】【機械仕掛けの支配人】【鏡界の管理者】など黒板には次々と二つ名が並んでいく。
「格好良い……」
騒がしい教室で俺だけは全員分を必死にノートへ書き写していた。
「紫泉」
「はい?」
「何してる」
「いや、将来使うかもしれないので」
「何にだ」
「……自己紹介とか?」
教室が静まった。そして、数秒後ノートは奪い取られた。
「やめろ」
「やめてください」
「やめなさい」
「えぇ……」
「初対面で『罪を喰らう終幕者の紫泉アルトだ』とか言われたら帰る」
ゼロの言葉に全員が頷く。
「そんなに!?」
「そんなにだ」
ガレスにまで真顔で言われてしまった。
そんなやり取りをしていると、終業のチャイムが鳴った。
「まぁ安心しろ。二つ名なんてものは変わる」
アザゼル先生が話し出して教室が少し静かになる。
「変わるんですか?」
リリカさんが首を傾げた。
「あぁ、実績が増えれば変わる。生き方が変われば変わる。周囲からの見られ方が変われば変わる」
先生は黒板いっぱいに並んだ二つ名を眺めた。
「今の二つ名は、今のお前たちの証明書みたいなものだ。悪役に型はない。自分のなりたいように生きろ」
黒板に書かれた【罪を喰らう終幕者】という文字を見つめる。こうして、俺たちの最初の二つ名は決まったのだった。




