悪役は一人では世界を変えられない②
先生が居なくなった教室はこんなにも動物園になるのだろうか。
「アルト、購買ってやつがあるらしいぜ! 行くぞ!」
「ジークよ、聞きたいんだが、俺は金が今ない状態でパンを買えるのか?」
「……ガレス、お金を払わないのは窃盗になります?」
「当たり前だろ」
「ごめん、アルト。お前は居残りだ」
ジークさん、お情けの十円玉置いていくのやめてもらえる?
「アルトちゃん、大丈夫よ。ここ、国が運営してるって言ってたじゃん? 朝昼夜の飯は全部タダらしいよ」
「本当か、ヴァイス!?」
「あはは……近いんだけど、アルトちゃん」
「うるせぇ、早くしろ」
「ゼロ、ちょっと落ち着け?」
ガレスの静止も聞かず足早に一人で歩いて行ったゼロは一瞬で戻ってきた。
「お前ら遅ぇから先行ってきたぞ。牛肉ごろごろのカリカリチーズカレーパン、無事買えたからまぁ良いけど」
はっや!! 瞬間移動しましたかね、今。あと、そのパン美味しそう……。
「これ限定一個だからもうねぇし、あとアルト。そんな顔で見ても絶対あげねぇからな」
「ケチ!!」
「遅ぇのが悪いんだろ、アホ」
「じゃ、俺たちも購買行こ〜。ゼロちゃんは?」
「俺は待ってる」
「は〜い」
助けてください、みなさん。何ですか、これは……。一個と言わず全部欲しいです!!
「アルト、一個だぞ?」
ガレスさん、心読まないで。
「あ、アルトくん」
「白雪さん」
「アルトくんは何選んだの?」
「いや……迷ってる」
そう言えば屈託のない顔で笑った。
「アルトくんって見かけによらず大食いだよね!」
ガリガリって言いたいんですか、白雪さん!!
「過度なダイエットをしてたから、その反動でな」
草むしりダイエットしてたもんで、すいません。
「私のメロンパンもいる?」
「え、いいのか……! いや、食べてください」
優しいことを言わないでくれ、俺の本音が溢れたじゃないか。これは失敬。
「リリカちゃん、私はこれにした〜!」
「フィアちゃん早いね。私もメロンパンに決めたよ。ところで、そのケーキは……」
「あ、クセで買っちゃった……。獅堂くんは、あれ今日は居ないの?」
フィアさんの言葉で周りを見渡せばヴァイスもジークもガレスも居なかった。あれ!? 俺、もしかして置いて行かれた……?
「フィアちゃん、それアルトくんにあげたら?」
「え!!」
「アルト君、素直すぎるって」
ごめん、フィアさん。嬉しくてつい大きい声が出てしまいました。
「そんなに欲しいなら全然あげるよ! アルト君、ちなみにこのケーキはフォークで食べてね」
あっ……すっごいいじられてるわ。フォークの使い方分かんないし、またヴァイスに教えてもらお。
「ありがとう、フィアさん」
「え、二人いつの間にそんなに仲良くなったの?」
俺が名前を呼んだことに驚いている白雪さん。フィアさんは俺に肩を組んでツーショットで写真を撮った。
「アルト君の秘密でちょっとね!」
女の子すぎるんですけど。写真とか初めて見ました、あぁやって使うんだぁ……。
「アルトくん、私もリリカでいいよ」
「あ、分かった。リリカさん」
そう言えば笑ってくれた。二人は庭で食べるらしく、教室とは反対方向へ歩いて行った。
みんな律儀に待ってくれていたらしい。いや正確には、ゼロはヴァイスに止められながら、だが。俺の席の周りに見慣れた顔が集まっていた。
「遅ぇよ、アホ」
ゼロがカレーパンを齧りながら言う。
「お前が早すぎるんだよ。そんで食べるの早いな」
「は?」
俺いま変なことは言ってないよね!? 至福の一時は邪魔しないようにしよ……。
「アルトー! 見ろ!」
ジークが勢いよく袋を机に広げた。お前、買いすぎだろ。
「焼きそばパン! 唐揚げパン! コロッケパン!」
「買いすぎじゃないか?」
「成長期だからな!」
「お前もう十分成長してるだろ」
ガレスのツッコミに拍手。騒がしいな、と思いつつ俺もヴァイスとガレスの間に腰を下ろす。机の上にはフィアさんからもらったケーキと、さっき選んだパン。
ケーキ付属されているプラスチックのフォークとやらを持って、左隣のヴァイスに声をかける。
「ヴァイス、フォーク?の使い方教えてくれ」
「ん……アルトちゃん、ちょっと待ってね〜」
いや、そんなカツサンド急いで食べなくてもいいよ……。コイツ良い奴だよなぁ……。
「お待たせ、アルトちゃん。これはさ、箸より簡単よ! こうやって握って……こう、やってごらん」
「こう、か……?」
「上手いじゃん、ケーキも美味しそうに食べるね〜」
頬杖をつきながらこちらを見て微笑むヴァイスは、多分いい父親になる。お礼にケーキを一口あげようか。
「ヴァイス、一口やる」
「ヴァイスくん感動で涙出そう」
コイツもゼロのお世話で大変なんだろうな……。
なんだか、不思議な感じだ。初めての学校で昼休憩を友達と過ごすという経験。隣では誰かが笑っていて、前では誰かが喧嘩みたいな言い合いをしていて、窓際では女子たちが写真を撮っている。昔の俺なら絶対に縁がなかった。
「アルト?」
「ん?」
「何ぼーっとしてるんだ?」
ガレスが首を傾げる。
「いや……人が多いなって」
「当たり前だろ。あ、カレーパン終わった」
「そうなんだけど……」
「それに、これからずっとこうなんだから。さっさと慣れろよ」
「ゼロ……!」
お前はツンデレだもんな! 俺がしんみりしたらすぐに返してくれる、そんなゼロが俺は好きだ。
俺にも少しずつ、ここに居る悪役を目指す奴らと一緒に居たいという感情が芽生えた。




