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敗北英雄―勇者を勝たせる仕事です―  作者: 来巳日咲
第一講『終焉学園入学編』

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3/8

自分を貫く悪役へ

 

 

 食事を終えて、浴場へ。全員が風呂から出た頃には、もう二十二時だった。


「はぁ〜、柔らけぇ」

 夜城やしろがベッドへ飛び込む。二段ベットの上だから危ないぞ、それ。

「夜城、お前落ちてきたら殺すぞ」

「ゼロちゃん、大丈夫大丈夫〜。てか、名前で呼んでいいよ、男同士だしさ」

「ヴァイス、落ちてきたら容赦なく刺すからな」

 物騒だけど何だかんだ仲良いな、この二人。


「俺たち全員名前で呼び合うか! 仲間って感じがして俺、憧れてたんだけど!」

「いいね〜、ノリ良い奴は好きだよ、オレ」

「お前も呼ぶんだぞ、アルト!」

「あぁ、分かった。勇者擬き」

「よし、お前は斬る」

 コイツ見た目が勇者すぎて、一人だけ混じりきれてないんだよ……。


「まぁいいや。そういや気になってることあるんだけどさ……みんな何でここ来たんだ?」

「気付いたら」

「俺も似たようなもんだ」

「俺は施設」

「俺も施設だな〜、親の顔も知らねぇし?」

 俺、ガレス、ゼロ、ヴァイスが順番に答えた。軽い口調だけど、全員顔を見合わせている。恐らく考えていることは同じだろう。


 この部屋にいる全員が、自分の家族を知らない。捨てられた、居場所がなかった……そんな奴らばかり。

「まぁ……俺たちが死んでも悲しむ奴は少ないし、悪役にはピッタリなんじゃね?」

「ヴァイス、嘘でもそんな悲しいこと言うな」

「ガレスちゃん、そんな睨まないでよ〜」

「俺は……お前らが死んだら悲しいよ」

 あぁ……ごめん、またこんなこと言ってみんなを困らせて……

 

「泣かせんじゃないよ、アルト!」

「ジーク、汚ねぇ。鼻水垂らすんじゃねぇよ」

「ゼロちゃん、雰囲気読もうな〜?」

 四人とも笑っていた。悪役育成学校なのに、今日初めて出会った人たちなのに……この居場所を失いたくないと、そう思った。少なくとも俺にとっては、あの草むらより悪役学校の方がよっぽど救いだ。


 ◇◇◇


 翌朝、部屋から鳴り響く爆音で飛び起きた。

「何だ!?」

「あぁ? うるせぇな……俺のアラームだ」

「ゼロちゃん、そんな爆音のアラーム鳴らしたんなら起きてくんない?」

 初情報、ゼロは朝が弱いらしい。


 教室では昨日ぶりに会う人たちがすでに揃っていた。そういや、同室の四人以外名前知らないな……。チャイムが鳴ったと同時にアイゼン先生ともう一人、知らない先生が教壇の前に立った。


「皆さん、おはようございます。一限の授業を始める前に、皆さんに紹介したい人がいるので少し時間頂きますね」

 そう言って不機嫌そうなもう一人の男性の背中を押した。表情の対比で風邪引いちゃいそう。

 

「こちら君たちの担任、夕玄ゆうげんアザゼル先生です」

 担任お前じゃねぇのかよ!! え、初日担任顔で俺たちに話してたよね? 今どの立場で話してるの、この人……。

「アイゼンせんせ〜、じゃあアンタは副担とかなの?」

「ヴァイス君、甘いですね。私は三年の担任です」

「帰れや」

 何だコイツ……おっと、仮にも先生にそんなこと言ってはダメだ。


「さて、私は三年の方に行こうかな。アザゼル、頑張ってね」

「さっさと行け。よし、全員居るな。授業を始める」

 絶対アイゼン先生より厳しいタイプだ……。夕玄先生は黒板に淡々と文字を書いていく。


 ――【悪役学概論】


「……悪役学?」

 隣のジークが呟いた。うん、俺も今同じことを思ってた。勇者学ならまだ分かる。でも悪役学って何だ。悪いことの勉強でもするのか?

 

 そんな思考を遮断させるかのように、夕玄先生は教卓に腰を預けた。

「お前らの大半は勘違いしている。悪役とは、悪人のことではない」

 その言葉で教室が静かになる。


「では質問だ。勇者とは何だ?」

 考えたこともない質問に全員の手が止まった。

「……霧雨きりさめ

「世界を救う人?」

「半分正解だ」

「次、深彩しんさい

「正義の味方」

「それも半分」


 先生は黒板に二文字を書いた。

 ――役割


「例えば物語がある。その物語では、魔王が村を襲い、勇者が現れる。そして、最後には勇者が魔王を倒す。さて……この物語で一番必要な存在は誰だ?」

 黒板に簡単な図を書きながら、俺たちの方を見た。

「勇者だろ」

「違う」

 ジークの言葉に被せる勢いで、夕玄先生は即座に否定する。


「勇者には代わりがいる。強い奴、賢い奴、運が良い奴でもいい」

 先生は倒れた魔王に丸をつけた。

「だが、悪役がいなければ勇者は生まれない。敵がいるから英雄は英雄になる」

 夕玄先生の目が鋭くなる。

「お前らは勘違いするな。悪役とは、敗北するための存在ではない」


 知らないうちに未知の授業に引き込まれている。先生の次の言葉を全員が待っていた。

「悪役には悪役の勝利条件がある」

「勝利条件?」

「そうだ、紫泉」

 名前を覚えられていたらしい。


「勇者の勝利条件は世界を、人々を救うこと。じゃあ悪役はなんだと思う。星喰ほしくい

「世界を壊す」

「近いが違う。悪役の勝利条件は……世界を変えることだ」

 その瞬間、何人かが目を見開いた。

『歴史上の革命家』『反乱軍』『独裁者』『侵略者』『英雄と呼ばれなかった者達』黒板に次々と文字が並ぶ。


「彼らは世間から見て善人だったか?」

「違う」

「だが世界は変わった。彼らは世界を壊すんじゃなく、自分を主張するため世界を変えようとした。つまり、悪役とは変革者だ」

 教室が完全に静まり返った。夕玄先生が言いたいことが少し分かった。ここは悪役という悪い人間になる学校じゃない。


「どんな悪役になりたいかは、これから探していけばいい。だが、一つだけ覚えておけ。悪役には、理由が必要だ。お前たちを悪役足らしめるそれ相応の信念が」

 カツン、とチョークが黒板を叩く。

 

「金かもしれない。復讐かもしれない。誰かを守りたいのかもしれない。飢えたくないだけかもしれない」

 その言葉に、思わず胸が少し痛んだ。俺がここに居る理由、それはただ生きたいという一心。死にたくない、それだけで生きてきた。


「理由のない悪役は弱い。何故か分かるか?」

「途中で迷うから?」

「鳴神、正解だ」


「勇者は正義を掲げれば戦える。世界は正義の味方だからな。だが、悪役は違う。世界中から否定されても、自分を貫かなければならない。だから悪役は、勇者よりも自分を理解していなければならない」

 自分を理解する……そんなこと考えたこともなかった。今日を生きるので精一杯だったから。


「では、質問を変える」

 先生が腕を組む。

「お前たちは何のために生きている」

 そんなもの……分からない。見かねた夕玄先生は教壇から降りた。


「なら今から考えろ。三分やる」

「短っ!?」

 ジークが叫んだ。

「人生よりは長い」

「何その名言っぽい暴論!?」

「哲学だ」

 哲学なのか……? 時計を見てカウントを進めた夕玄先生に本気だったんだ……と思いながらも、これまで生きてきた意味を考える。

 何のために生きている。何のために……何のためだろうか。家族はいない。夢もない。将来なんて想像したことはない。昨日まで明日すらなくて、俺は……


「……飯」

「えっ、どうした急に」

 隣のジークが勢いよく振り向く。声が漏れていたらしい。いや、恥ずかしい……。

「いいじゃん、アルト美味そうに飯食うし!」

 お前、光属性すぎるって……。


紫泉しせん

「は、はい」

 先生に名前を呼ばれて思わず立ち上がってしまった。やばい、怒られるかもしれない。いや、ふざけてるわけじゃないんだけどさ……!


「それでいい」

「……え?」

「生きる理由に大小はない。世界平和でも、家族でも、食事でもいい。大事なのは……本物であることだ。誰かの真似をするな。格好つけるな。自分の欲望を恥じるな」


 先生はバインダーを閉じながら、教室全員へ視線を向けた。

「お前たちは悪役候補生だ」

 その声は静かだった。だけど誰よりも力強かった。

「世界を変えたいなら、まず自分を知れ」

 ちょうど終業のチャイムが鳴った。


「これで一限目の授業を終わる」

「え、これで終わり!?」

「終わりだ」

「早くね〜? 夕玄せんせ」

「アザゼルで構わない、夜城」

「だから、オレよりフレンドリーなのやめて……」

「悪役学概論ってもっとこう……悪そうなこと教えるんじゃねぇの!?」

 おい勇者擬き、机を揺らすな。俺のノートが凄い勢いで落ちたんだが?

「落ち着け、あと俺のノート拾え」

「悪役といえば、毒作ったりは!」

 無視すんな。ちょっとうるさいからコイツ蹴り飛ばしとくわ。


「……いつかやるんじゃないか。次の授業も座学だ。このまま静かに待機してろ」

「次の授業はなんですか?」

「関係構築学。じゃあな」

 はっや!! 俺たちのこと嫌いなの、ってくらい扉閉めるの早かったんだけど。


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