58頁目 宙に浮く幼女と岩人形の核
前回のあらすじ。
幼女が登場したと思ったら精霊で、かと思えば娘だと言ってきた件。
次回の投稿は明後日の予定です。
51話の前書きに同行者の件について述べましたが、はい、同行者です。
魔剣が擬人化したらそれは擬人化ではなく風の精霊みたいな存在で、なのに魔剣と同一の存在で、おまけにフレンシア似の幼女(美人+幼女=美幼女?)。
もうね、どうせぶっ込むならトコトンやろうとした結果がコレです。後悔はしていません。
しかし、この物語、幼女遭遇率多くないですか? いや、決して作者がロリコンだとかそういうことではないですよ。断じて。はい。
あ、宅急便が来ましたので、これで失礼しますね。
雪山で遭難し、強力な岩人形と戦って気絶。その日の夜に目を覚ますと魔剣ノトスが幼女姿の精霊となって目の前に現れた。うん、全く状況が分からない。
夜が明け、私達二人は窪みを出る。すると、目の前には昨日の戦闘の痕跡が色濃く残されていた。
「これ、私が?」
「はいですわ! お母様の魔力とわたくしの魔力が融合して一つとなりましたの!」
「そう、すごいわね」
昨日は戦闘直後に気を失ってしまい、目が覚めたのが夜であったので気付かなかったが、戦闘を行った区域は辺り一面荒れ果て、積もった雪は吹き飛ばされたか溶かされたかで、地面が剥き出しとなっている。その地面にはゴツゴツとした岩や石がゴロゴロと転がっているが、そのどれもが、大小様々な無数の切り傷が刻まれていた。
現在魔剣ノトスは、いつも通り銀楼竜の鞘に収められて左腰に掛けられているのは変わらないが、幼女ノトスは変わらず私の周りをウロウロとして、戦闘の痕跡を興味深そうに見つめていた。
しかも、歩いてはおらず、浮かんでいた。
「何で飛べるの?」
「分かりませんわ!」
自信満々に答えられた。
まぁ、精霊だからとか、風を操る剣だからとか、色々仮説は立てられるが、どれも立証することは難しいと思う。ただでさえも魔剣の数その物が希少だというのに、更に持ち主の魔力を得たことで擬人化とか、伝承でも聞いたことがない。
歩を進め、昨日倒したであろう岩人形の残骸の前に立つ。
周囲が岩だらけな上、これまでにない程にバラバラなので、どこからどこまでがあの物体の身体の部分なのか判別が難しいが、これから探すのは核となっていたと思われる部分。こういう存在には必ずあるはずだと、これまでの冒険者生活で得た直感に従い、核となる部分を探す。
「どんな色、形、大きさをしているのか分からないから、思ったよりも時間掛かりそうね。それに、普通の石と同じような素材を核として使われていたとしたら、絶望的だし」
「一応、わたくしも魔力探知で捜索出来ますので、お手伝いしますわ! ですが、これだけ魔力痕跡が散らばっていますと、やはりこちらもすぐに見つけられるかは分かりませんわ」
やはり一筋縄という訳にはいかないか。
そうやって二人して一つ一つの石を、ひっくり返しては鑑定をするをただひたすら繰り返す。
黙々と作業をするのも退屈なので、せっかく話し相手が出来たのだから声を掛ける。これも今後一緒に行動するに於いて、必要なことだ。
「ねぇノトス」
「はいお母様!」
「あなた、名前どうする?」
「? わたくしはノトスですわよ?」
「そうなんだけどね、これから一緒にいるということは、当然人のいる場所にも訪れるということだから。そうなると、あなたの銘、この場合、真名かな? それを呼ばれることは危険だと思うの」
「わたくし自衛くらい出来ますわよ」
「強いの?」
「もちろんですわ! 何て言ったって、お母様の剣ですわよ!」
「それじゃあ、後で軽く訓練してみようか」
「はいですわ!」
幼女と戦闘訓練をすることになったが、一応元々剣なので大丈夫だろう。
「話を戻すけど、強いからと下手に知らない人から真名を呼ばれるのは危険だと思うのよ。あなたの存在は貴重。もしかしたらこの世界で唯一かもしれない。そんな存在を、珍しく思わない人がいないはずがない。それを少しでも回避する為に、偽名を名乗ってもらいたいのだけれど……良いかな?」
「……」
ノトスは作業の手を止めて、考えている。私も彼女の答えを聞くことを優先して、しっかり向き合う。
「今すぐ決める必要はないわ。でも、心の片隅にでも留めておいてね」
「いいえ、その提案、お受け致しますわ」
「良いの?」
「はいですわ! わたくしの今の名は、作られた時に既にあったもの。その由来などは分かりませんが、お母様にとって大事な名前というのであれば、断る理由はありませんわ。それに、お母様直々に名前を付けて下さるって、本当の親子のようではありませんか!」
「じゃあ、考えてみるね」
「よろしくお願いしますわ!」
それから私達は再び作業に戻り、石をひたすらひっくり返していた。しかし脳内では、彼女の名前をどうしようかとグルグルと考えを巡らせている。
実は一つ、パッと思い付いた名前があった。しかし、それだと何も考えていないように思えたので、何か他に案がないかと考えていたのだ。だが、結局は最初の案に戻ってしまう。彼女を表すのに、これ以上の名前はないだろう。
「ノトス、決めたわ」
「喜んで名乗らせていただきますわ!」
「早っ、えぇと、まだ何も言っていないのだけど?」
「お母様がしっかりと考えていたことは、わたくしにも伝わっていますわ。それで悩んで決められたのでしたら、わたくしに拒否するという考えはございませんわ」
「そ、そう……それじゃあ改めて、あなたには『アネモネ』の名を授けるわ」
「はいですわ! 喜んでお受け致しますわ!」
ノトスの名前の由来は前世の物語、ギリシア神話に登場する晩夏に吹く南風を司る神様である。
南風の他にも、北、西、東それぞれの方角にそれぞれ神様がおり、それらを総称してアネモイと呼ばれていた。そして、それが語源となっている花の名前としてアネモネがある。
もちろんこの世界にもアネモネの花はあるが、ギリシア神話がない以上、語源は不明である。
当然、花言葉もこの世界にはないので、この名前に付けられた想いは誰も知ることはないと思う。
花言葉は「無邪気」「可能性」「清純無垢」。そして、これは全くの偶然であろうが、彼女が着ている白のワンピースからも勝手ながら連想させてもらった。白のアネモネの花言葉は「真実」「真心」「期待」。またアネモネには毒があり、触れる者を傷付けるという点でも似ていると言えよう。
ようはおみくじのようなものだ。後付けでもこじつけでも、共通点を見つけてあげればそこに意味が出る。
ちなみに、アネモネは晩春の季語であるので、晩夏の風であるノトスとはズレてしまうがご愛嬌。
「それじゃあ、これからはアネモネと呼ぶからよろしくね。二人の時とかならまたノトスと呼ぶけど、しばらくは名前に慣れる必要があるからアネモネで行くわね?」
「はいですわ!」
こうして、娘の名前が決まった。
それからも作業は続き、そろそろ時間帯としては昼を回るだろうと思われた矢先に事態は動いた。
「お母様、これではありませんか?」
ノトスが持ってきたのは、幼女が両手で十分持てる程度の大きさの小石であった。
「これは気付かないわね」
その石は、真っ二つに割れているようで、実際の大きさはもう少し大きいのだろうと思われる。
色は藍色か紺色か、どちらにせよ青系統だろう。
宝石の、例えば蒼玉の原石から美しい宝石を削り出す際に、色の付いた部分と透明な部分の丁度良いバランスを見極めて加工すると聞いたことがある。蒼の部分だけを取り出すと、光を通さないのでほとんど黒色のような色となってしまい、逆に透明な部分を多く切り取ると、色の薄い石となってしまう。その比率のバランスを調整し、正確に加工するのが職人の目利きと腕の見せ所である。
つまり、今手の中にある石は、そんな感じの蒼玉から色の濃い部分だけを取り出したかのような暗い色であるので、曖昧な表現となってしまった。
「これが核なのだとしたら、多分魔石の部類。魔石であるなら魔力を注げば、また稼働するはず……岩人形、復活しないよね?」
「恐らく大丈夫かと思われますわ。岩や石は完全に本体と分離、更に心臓部もこうして割れてしまっていますので、制御機能は失われていると見て良いはずですわ」
「分かった。一応、念の為に警戒をお願い」
「はいですわ!」
そう声を掛けてから目を閉じ、集中して静かに魔力を送り込む。
危険性なども考慮しながらなので、本当に少しずつ、ちょっとでも違和感があれば中止出来る程度に留めて作業する。普通ならそういった実験はしないに限るだろうが、これが核となった魔石かどうかを確かめる必要があり、また他に手段が思い付かなかったのでこうすることとなった。
結果で言えば、これは魔石であった。
「……ん」
魔石を持った手がじんわりと温かくなるのを感じてそっと目を開けると、先程まで光を通さない暗い石だったものが、内側から光を放って蒼色に静かに輝いている。太陽のような眩しさではない。どちらかと言えば、月のような柔らかい光である。
「違う」
月でもない。でも月に近い……そう、夜の海の波間に時々チラチラと反射する月の光のような、そんな小さな輝き。
「綺麗ですわ」
「そうだね」
アネモネの感嘆に同意する。
そのまま魔力を注入することを継続しながら、周囲の様子を探る。
「特に石とかが動く気配もないわね?」
「そうですわね……お母様? わたくしにもそれ貸して下さいませんか? わたくしもやってみたいですわ」
「うん、良いよ。気を付けてね」
「はいですわ!」
そういって、彼女の小さな手に載せると、嬉々として小躍りし出す。
可愛い。
ただ、私以外に人がいないので問題ないのだが、あまり宙に浮いたままはしゃぐとワンピースの裾が捲れて白い下着が露わになっているので、彼女に合わせた短パンか何かを用意する必要があるだろう。
というか、ちゃんと下、履いててくれて良かった。というのが第一の感想である。これで下がスッポンポンだと、どうしようかと思った。
そんなことを考えていたからか、アネモネから注意が逸れてしまったことで咄嗟に反応出来なかった。
「お母様! すごいですわ! 見て下さいな!」
「え? あ、うん、どうした……の?」
宙に浮く幼女が、砂塵を巻き上げてそこから剣や盾を形成して遊んでいた。
【名前】
ゴーレム(仮称)
【種族】
物体種(仮称)
【別名】
岩人形(仮称)
【生息地】
不明(山岳地帯?)
【大きさ】
一〇ファルト以上
他に存在するのかは不明
【生態・特徴】
生態は不明。そもそも何を餌とし、何を目的として行動しているのかも不明
岩人形と仮称した通り、人型をしており二足歩行である
物体種と予想される為、雌雄の存在はないと思われる
全身を岩で構築した物体で、何らかの意思、あるいは指示によって行動、攻撃しているのではと予想する
それが、縄張りから追い出す為か、何かから守る為、あるいは何かを隠す為のものなのかは、現時点では不明
戦闘方法は、近距離では肉弾戦、遠距離では土魔法と思われる魔法を用いる
動きそのものは決して速くはないが、反応速度が速いので、間に合うと思った動作も対処されてしまうことがある
頭部らしき部位はあるが、破壊しても停止しない。死角があるのかも不明
壊れても周囲に岩や石があると自己修復を行うことが出来る
弱点は岩の身体を形成する核となる魔石である
作者が討伐した個体は、胸部に埋め込まれていたが、他に存在するとしたら同じ部位にあるかは保証しない
魔石を砕くことで、再生能力は失われ、少なくとも再び起き上がって襲ってくることはなかった
魔石そのものが途轍もない魔力を保有しており、石に魔力を注ぐなど使役することで、限定的だがその魔石に込められた種類の魔法を発動することが出来ると思われる
これが自然に生まれた怪物である可能性は捨てきれないが、魔石の純度は自然に生成されたにしては内部の魔力均等が取れている他、その表面には加工跡らしきものがみられることから、作者はこの物体が人工物なのではないかと想像する
しかし、仮に人工物だとしたら、誰が何の為になどの疑問が尽きないので、上記の不明点も含めて今後の調査に進展があることを望む
【素材】
核となっている魔石が素材になると思われる




