59頁目 幼い精霊と腕試し
前回のあらすじ。
幼女の名前を考えた。それと痕跡探し。
次回の投稿は明後日の予定です。
名前、まぁ偽名ですが決まりました。
しかし、当初の設定では名前を付けるつもりはありませんでしたので、完全にノリです。
ですが、その割には中々にピッタリの名前ではないかと思います。個人的見解ですが。
花言葉は他にも色々あり、更に色によって細分化されている花もありますので、自身の好きな花言葉からお気に入りの花を見つけるというのも面白いかもしれませんね。
岩人形と思われる物体を討伐して痕跡の探索、回収を行っていたところ、核となっていたであろう魔石を発見した。
それに魔力を注ぐと、まだ使えそうだったので、それを貸して欲しいと魔剣の精霊であるアネモネに頼まれた私は、注意して遊ぶようにと釘を刺して渡した。するとどういう訳か……
「わたくしも土魔法使えましたわー!」
どうしてこうなったのだろう?
いや、何となく理解は出来る。土魔法の集合体である岩人形を形成していた魔石である。それに岩人形自体も土魔法のような魔法を使用してきたことから、魔力を注入して稼働させれば再び魔法が使えるというのは、まぁその、理解出来ないこともない。
というか、土も石も岩も砂も、全部細かくすれば土なのだから土魔法で良いかな。
「えぇと、何してるの?」
「魔力を沢山入れたら何か魔法発動しないかと思いましたら、本当に出来ましたわ!」
「まぁ、うん、仮説では出来るって思ってたけど、それを何の検証も調査もなしにいきなり実証するというのは、本当は危険なんだよ?」
「ごめんなさいですわ」
「次からは気を付けてね。で、それ危険はないの? いきなりあなたや私を襲うことは?」
「それはありませんわ! この魔力は今わたくしの制御下にありますの。ですから、この魔石を通してわたくしの魔力で発動している状態ですわ」
変換器か何かだろうか。
いや、変換器は前世にしか存在しないし、その用途も電圧などの電気に関するものの大きさを調整するのに用いるのであって、性質そのものを変換する訳ではないので、この言葉の意味としては正しくはないのだが、文字にするとこの上ない程にピッタリであると思う。
直径約三ナンファルト。つまり三センチメートル程度の宝石にしか見えないが、随分と高性能なんだなとぼんやりと思ったところで、直径三センチってすごく大きくない? ということに気付いた。
確かに、魔石灯の中にある魔石は、精々が一ナンファ。小さいと数ナニファ程度の直径しかない。
数ミリ程度の大きさの石の魔力で、ランタンと同じ程度の明るさを放つことが出来るのだから、魔石というのはすごいものだ。身近過ぎて見落としていた。
アネモネの様子はというと、砂から生み出した剣は四本程、盾も二枚に増えて彼女の周囲を漂っていた。飲み込みが早いようで……
時折、空中に浮いたままの剣を振ったりするなどの素振り? をしながら自身の動きを確かめているみたいだったが、しばらくそれを繰り返していると思えば突然止まって「分かりましたわ!」と何かを掴んだような、納得した様子で頷いてこちらを見た。
「お母様! 戦闘訓練をしますわよ!」
「あぁ、はい」
約束の戦闘訓練をすることに決まった。
私の武器は魔剣ノトスと魔法のみ。剣はまだ寸止め出来るが、弓矢は放った矢は途中では止まれないので弓矢はなし。狙撃銃も同じ理由で却下だ。
対するアネモネの武器は、あの魔石のみ。一応風魔法も使えるから、風と土の二つの魔法の併用である。
ということは元教え子の犬型獣人の冒険者、エメルトと同じような感じだろうか。いや、それよりも土を空中に維持したまま形作り、それを武器として振るうだけの技量を既に持ち合わせている点で、アネモネの方が上かもしれない。風魔法に関しては言わずもがな。
休憩を挟んで、訓練を開始した。
決着は四半刻もせずに付いた。
「……疲れた」
「流石はお母様ですわ!」
結果から言えば、戦闘訓練は私の勝利で終わった。いや、正確には試合に勝って勝負に負けたと言えば良いだろうか。
相手の喉元に剣を突き付けて「参りましたわ」と言葉を引き出したものの、終始有利であったという感覚はなかった。
理由は簡単だ。この剣はアネモネ自身である以上、剣の制御を彼女が行った場合を鑑みると、いつ右手に持つ相棒がこちらに牙を向くか気が気でない。
「本当に強かったわ……」
「だから強いと言いましたの」
「そうだったね」
アネモネは自身の風魔法による不可視の刃と、魔石を使用しての土魔法による地形変化や武器の形成を織り交ぜ、またその移動は台風の風速をおそらく超えるであろう速度を発揮するなど、変幻自在に戦っていた。
一方私も、剣と雷魔法を駆使して変則的に動いていたが、相手は私と半年以上常に一緒に行動してきた相棒だ。こちらの動きは悉く読まれ、対処されてしまうという、まさに手も足も出ない状況。
ここからどのように突破したかと言えば、何のこともない。あの岩人形との戦闘で、自分はあまり覚えていないが、私は雷魔法と風魔法の融合魔法、疾風迅雷を完全にものにしたらしい。
その風速を瞬間的に超える加速力と破壊力によって、アネモネの反応速度を上回った突きを放ち、喉元に突き付けたことで勝負が決した次第である。
ちなみに、完全にものにしたとは言ったが、当然限界はある。
魔法酔いこそはなくなったが、魔力枯渇による戦闘力低下を防止すべく、発動時間、発動回数に制限を設けたのだ。
「大体六秒を三回か四回くらいかな」
「秒?」
「えぇと、二拍くらいかな」
「拍?」
「……気にしないで」
「はいですわ!」
時間が刻で表される世界に分や秒の感覚はないだろうが、拍は普通に医療機関などでは心拍数などを測定することがあるので、拍による時間の計測自体はないこともない。ただし人による、同じ人でも環境などによっては脈拍にばらつきがあるなどする為、基準にすることはほとんどない。
あくまで自分自身の体感に頼ることになるが、私の脈は平均で多分一分程度で約二〇回である。よって、一拍で三秒という計算になる。
普通の人間族の成人の脈拍は、七〇~八〇であることを考えると、私の脈は三分の一にも満たない。最早ゾウと同じである。まぁ亜人であって人間族ではないので、姿形が似ているからと中身まで同じとは限らない。よって、こういった細かいところに違いが出てくるのは不思議なことではない。
「とりあえず、これからもよろしくね」
「はいですわ! 一生離れませんの!」
「まぁ、うん、そうだね。そう宣言しちゃったからね。責任持つよ」
処女なのに娘が出来たことに、複雑な思いがない訳ではないが、とりあえずこれからの旅は会話する相手がいるということに、少し楽しみを抱く私であった。
「それじゃあ支度して、出発しようか」
「はいですわ!」
「……もっと自分の要望を言って良いんだよ?」
「わたくしは、お母様と一緒にいられるだけで幸せですの。それに、わたくしは剣。剣は振るってこその剣。飾り物ではありませんわよ」
「そう、分かったわ」
今はそれで良いだろうが、せっかくこうして人としての姿と言葉を与えられたのだ。今後はもっと人らしいことを経験させてあげたい。
これが親心、母心だろうか?
「一先ずは、このまま山頂を目指すよ。あの岩人形がどこから来たのかは分からないけど、恐らく上から来てるから、何か痕跡がないか調べに行こう」
もうかれこれ一ヶ月半遭難しているのだ。上へ続く道を見失ったからと彷徨っていたら、いつの間にかこれだけの日数が過ぎていた。
雪で全ての痕跡が隠されてしまう上、突然吹雪に遭うのだから前後不覚となって余計に方角が分かりづらくなるのだ。
荷物を背負い直し、先へ進もうとしたところでアネモネがジッと私のことを見上げ……いや、もっと先を見ているようだ。
「……どうかしたの?」
「……」
「アネモネ?」
「お母様は感じませんか?」
「? ごめんね。私には分からないわ」
「何か、変な感じですの。これまでは一切反応がなかったですのに、この岩人形が現れてから突然感じるようになりましたわ」
「魔力反応か何か?」
「それは分かりませんわ。何か見えそうで見えない。何だか不思議な感覚ですわ」
「そう」
私が鈍いのか、それともこの子が鋭いのか、あるいは両方か。
「上の方?」
「はいですわ。岩人形が出て来てからの感覚ですので、岩人形への警戒心から来るものだと思っていましたのですけど」
「岩人形を倒しても違和感は消えない?」
「この魔石を手にしてから……ですわ。多分。えぇと、きっと魔力を入れてから何となく感じるようになったと思いますわ」
「ふむ」
何かの結界で探知、もしくは認識が出来ない状態であったところにアレが出て来たことで、綻びが生まれたということだろうか。
そうなると、益々人工物の可能性が強まってくる。この先に一体何が待ち構えているのか。一層警戒して進む必要がありそうだ。
ウェル山脈で遭難して早一ヶ月半。古代文明の手掛かりと思われる痕跡はいくつか見つけられたものの、相変わらず発見には至っていない。これだけ探してもないということは、既になくなってしまっているか、あるいは隠されているか。もう少し粘ってみようと思う。
フレンシアの手記より抜粋。




