57頁目 魔剣の擬人化と案件疑惑
前回のあらすじ。
ゴーレムと戦ったが意識を失ってしまい……あれ? 声?
次回の投稿は明後日の予定です。
もうね。色々と盛り込みました。はい。
「うーん……?」
あれ? 私はどうしていたのだろう?
ゆっくりと覚醒する意識に、先程の戦いの記憶が蘇ってくる。
「はっ」
思わず飛び起きる。
「はぁ、はぁ、あ、あれ?」
自身の状態を確認しようと思ったら、辺りが暗闇に包まれていることに気付いた。若干ぼんやりとしていた頭が一気に冴える。
「え? よ、夜? じゃなくて、私、生きて……あれ? でも岩人形は……?」
「落ち着いて下さいませ。ご安心下さい。アレは、お母様の手によって倒されましたわ」
混乱の渦の中にいた私に、そっと知らない声が掛けられた。しかし聞き覚えのある声。確か、意識を失う直前に聞いた声のような……というか、お母様?
声のした方を見ると、私の右側に、ちょこんと座った二歳か三歳くらいの幼女がいた。
誰? と問う前に、ある光景に目を奪われた。
「そ、それ……」
「これですか? はい、ご存知の通り、ノトスでございますわ」
幼女は、本人の身体よりも長いその得物を抱きしめていた。にも関わらず、ノトスが彼女を攻撃する様子は感じられない。
「はぁ……ふぅ……」
呼吸を整え、状況をまとめる。
まず周囲を見れば、ここは私が……多分昨日、時間経過の感覚が曖昧なので、昨日ということにしておく。そう、その時に一晩を明かした窪みであった。手元には背負い袋の他に、狙撃銃や弓矢も置かれている。荷物は無事のようだ。
そして、周囲が暗いはずなのに、こうして色々と認識出来ている理由。魔石灯に灯りが点って、足下に置かれていた。
次いで自身の身体の状態を確認する。
痛みはない。骨折したと思われる場所も、特に何ともなっていないようだ。その他も、疑似身体機能向上魔法の三段階目を解放したことで負荷を掛けたはずなのだが、その痕も見られない。
夢だった……?
「いいえ、夢ではありませんわよ」
疑問に答えたのは、やはりこの正体不明の幼女であった。
見た目は人間族のようだが、耳が若干尖っている。
エルフ族と人間の中間のような見た目だ。ちなみにハーフエルフだからといって耳の長さが半分になる訳ではなく、長さ自体は普通のエルフと同じである。つまり、見た目で純粋なエルフかハーフかを見分けることは難しい。
身長からして人間族に当てはめると二歳か三歳くらいなのだが、身体付きが幼子っぽくなく、一〇歳くらいの子をそのままサイズを縮めたらこんな感じになるのではないかと思われる感じだった。
髪は地面に着くのではないかと思われるくらいのロングストレート。色は碧色のような翠色のような。そして、丸い瞳の色もそれと同じ……
「翡翠色……」
そう翡翠のような色合いである。
クスクス笑う彼女は「はいですわ」と答えた。子供のような所作であるが、雰囲気が普通の子供から逸脱しているというか、何となく人っぽくないような。
「あなたは誰?」
ようやくの質問だ。
長い時間、無視されていた形になるにも関わらず、一切不機嫌な様子を見せることもなく、私の言動を楽しそうに見つめていた。
「わたくしは、ノトスですわ」
「……はい?」
どういうこと?
驚き固まる私を見ても子供っぽい笑顔のまま、彼女は抜き身の魔剣ノトスをこちらに差し出してきた。
思わず受け取ったが、手元のノトスからはいつもの意思というものが感じられない。むしろ、目の前の幼女からすっかり馴染みとなった風の悪戯っ子の気配を感じていた。
「本当にノトス?」
「はいですわ!」
彼女が身に付けている物は、半袖の白いワンピースのみ。靴も手袋も羽織る物もないようだ。
「えぇと、寒くないの?」
「寒さは感じませんわ! むしろ、ずっとポカポカしていますの!」
元気に答えるその姿は、まさに子供のようであるが、そのちょっと背伸びしたような口調はともかく、身にまとう雰囲気からただ者ではないことは明かである。
「精霊ってこと?」
「さぁ? 多分そうなんじゃないですの?」
「多分?」
「わたくしもよく分かりませんの。気付いたらこのような姿になっておりまして、岩人形を倒して倒れてしまったお母様をここまで運んで介抱していましたの」
「それは、その、ありがとう」
「はいですわ!」
明るく元気の良い子である。
色々気になることが多いが、一先ず解決すべき案件はというと……
「その、お母様って誰?」
「お母様はお母様ですわ。わたくしを生み出して下さった、あなた様以外いらっしゃいませんわ」
「私が?」
「はいですわ! お母様の魔力をずっと受け取り続けて、ようやく実体化することが出来るようになりましたの!」
答えを一つ得たら、疑問が増えた。しかし、彼女のことを知る為には一つ一つ根気強く解決していくしかない。
「えぇと、つまり? 魔剣ノトスが私の魔力を吸い続けていたことで、精霊? の姿のあなたになったと。そして、あなたはノトスそのもので、相棒と?」
「はいですわ!」
「剣だった頃の記憶はあるの?」
「もちろんですわ。お母様との生活は、その全てが忘れがたき大切な思い出ですわ。ただ、ちょっと退屈していた時は何度もありましたわ」
「あー魔力制御の為に全然使っていなかったからね……」
「ですが、それももう解決したと思って良いですわ」
その力強い発言に、私は首を傾げるしかない。確かに、薄らとした記憶の中で、気絶する直前まで魔法酔いなどの症状は現れていなかったと思う。そのことを告げると、ただでさえニコニコとした表情が、更に開花したかのように眩しい笑顔になっていた。
「はいですわ! お母様は気絶されてしまったので、詳しく覚えていらっしゃらないようですが、確かに許容量を遙かに超える魔力を一気に放出しても、無事でしたわよ」
「うん、それは一応思い出してきた……かな? でも、気絶していたんだよね?」
「疲労はもちろんですが、身体のあちこちを傷めていましたので、そちらに魔力を集中して回復する為に眠りに着いたのだと思いますわ」
「なるほど」
見た目に反して返される言葉はどれも、少なくとも私を納得させるだけの材料を持ち合わせていたことを考えるに、意外と理論的な子なのだろう。見た目に反して。
「というか何でその姿なの?」
「分かりませんわ。ですが、推測は出来ますわ」
「私の魔力?」
「はいですわ!」
よくよく見れば私の幼少期に似ていなくもないかもしれない。残念ながら私が幼かった頃は、鏡なんて物はなく、水に反射した姿で確認した程度なので、あまり詳しく覚えていないのだ。それに、髪の質感はそっくりだろうが色は全く違う。目の色も私が翠色に対して彼女は翡翠色をしている。近い色ではあるが、見る角度や明るさによって色の違いがハッキリと分かるだろう。そして雰囲気。これも大きく違うだろうと思われる。というか、私生まれてこの方、いや前世でもこのような言葉遣いはしていなかったと思う。
覚えていないから断言は出来ないが、もししていたとしたら前世の私は痛すぎることになってしまう。
まだ理解が追い付いていない部分がいくつもあるが、とりあえず彼女はノトス本人……本剣? で、それが私の魔力によって実体化して精霊? のような存在になったと。しかし、その格好は何とかならないだろうか。
私も人のこと言えないが、雪山でワンピース一枚。それも裸足と必要最低限どころか何一つない状態だ。本人が大丈夫と言っても、外から見ると私が虐待しているように見えなくもないので、早急に用意しなければならない。
以前の幼女誘拐疑惑に続いて幼女雪山で虐待疑惑とか、どちらも無実ではあるのだが、とんでもなく危ない人になってしまう。それは是非とも避けなければ。
とりあえず私は上に着ていた鉄火竜のジャケット脱いで、ノトスに渡す。
「その服装はちょっとどうかと思うから、とりあえずこれ羽織っておいてね。あなたには大きいから動きづらいだろうけど我慢してね」
「わたくし寒くありませんわよ?」
「見た目の問題。他人から見たら私、あなたを虐めているようにしか見えないから」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなの。靴の予備はないから、また後で動物を狩るなりして用意するわ。皮の加工から始めないといけないから時間掛かるけど、まだしばらくここで遭難するつもりだから良いよね?」
「もちろんですわ。わたくしはお母様の剣。お母様がしたいことでしたらわたくしの身体、どのようなことにもお使い下さいませ!」
「うん、そういうことは他の人がいる前では言わないようにね」
「?」
無自覚爆弾発言ロリとか、時間が分からない時限爆弾を抱えているような危うさだ。というか、ロリというよりペド? 益々危ないではないか。
しかし爆弾ならば捨てれば良いのだが、私はこの子を捨てることは出来ない。相棒であり、剣の頃のこの子と死ぬまで一緒にいる誓いを立ててしまっている。これを反故にする訳にいかない。
それに、彼女は私を母と呼んだ。ならば、親としての責任を全うしようではないか。
「……母というより姉では駄目かな?」
これまでの関係を鑑みるに、親と子の繋がりというより、姉と妹の関係の方が近い気がする。そのことを考慮しての提案だったのだが……
「え? お母様はお母様ですわよ?」
「あ、はい」
アッサリと断られてしまった。
「それじゃあ、ノトス、これからもよろしくね」
「はいですわ! お母様のことは、この身の全てを使ってお守り致しますわ!」
まるで騎士のような娘を得た。
それからは、夜が更けるまで、これまでの出来事を話し合った。剣の頃から感情を読み取ることは出来ていたが、こうして言葉を交わすことが出来るというのは、とても楽しいものである。
しかし、彼女が興味を示すのは決まって戦いの話。武器なのだから仕方ないのかもしれないが、その容姿から「血が花びらのように舞い上がって綺麗でしたわ」何て発言が飛び出してきた時は、どうしようかと思った。
これから、時間を掛けてジックリとその辺りも直していこうと思う。
これはちょっと記録に残す訳にはいかない。
想定外過ぎる出来事が……
フレンシアの手記より抜粋




