番外編 初めての贈り物 ①
こちらは『聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!』の番外編となります。
レイファスのお話です。 本編の余韻とともに、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ここまで『聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!』をお読みくださり、ありがとうございます。 また、ブックマークやリアクションなど、皆さまからの反応も、とても嬉しく思っております(^^)
「あれ……、団長?あんなに急いでどこへ行くんだ?警備は夕方からだろ……」
王太子付き近衛騎士団の一人、ジルフィード・アルドル・マンチェスは、同僚とともに城門が見える見張り台にいたのだが、近衛騎士団長で上司であるレイファス・アエラス・ランドルフが単騎、白い愛馬で城門をくぐり駆け抜けて行くのを見つけて、驚いた声をあげた。
「あっ!もしかして、もう奴が現れたのか!?」
ハッとして、ジルフィードは目を剥いて、勢いよく振り返る。
「慌てるな、ジルフィード」
落ち着いた声で慌てる同僚を制したのは、黒に近い紺色の髪と、静かに輝くコバルトブルーの瞳が印象的なユリウス・リアン・グラディアスだ。二人は同僚であり、学生時代からの古い友人だ。
「奴の存在はまだ極秘だ」
「あ、悪ぃ」
ジルフィードはいつもの如く、屈託なく笑って明るい栗色の頭を掻く。大きく丸い栗色の瞳が人懐っこい印象を与えながら、健康そうにキラキラと輝いている。
んったく、こいつは本当に反省しているのか?
ユリウスは内心溜息をついた。
この男は寄宿学校時代から今も変わらん…。
溜息をつきながらも、どこか嬉しくもあり、内心ホッとする。数少ない心の許せる存在だ。
「ちょっと街で買い物をして屋敷へ届けに戻るそうだ」
「はあ?買い物!?…って、団長が珍しいな」
「ああ」
「女の浮いた話も一切ない、あの団長が買い物ねえ……て、誰の?」
「知るわけないだろ」
ジルフィードは近衛騎士団長が消えた城門を見つめながら、買い物ねぇ……ともう一度ため息をつく。ユリウスは同僚が不思議がるのもわかる。あの顔の良さなのに、未だかつて恋人が出来たという色めいた話はない。なのに、今日に限って、こんな日に抜け出して、馬飛ばして買い物とは!
今夜は久しぶりに舞踏会が開かれるうえに、さらに奴が姿を現すかも知れないという、このクソ面倒くさい日にだ!
……きっと、よっぽどなのだろう。
「マリアンヌ様のお使いかな」
「さあ……」
「団長は今もマリアンヌ様に片思いをしてるのだろうか]
「どうだろうな」
「だとしたら、団長が王太子に恋しているって噂は、やっぱ嘘ってことになるよな。そしたら、団長がそっち側の人でははないってことになるんじゃないのか?あぁ~、嘆くやつが増えるんだろうなぁ。……あっ、でも両方いけるのか!?なあ、どう思う?」
だから、面白そうにキラキラした瞳で、こっちを見るな。
「知らん。俺に聞くな」
ユリウスはチラリと同僚を一瞥すると、すでに小さくなった近衛騎士団長の姿をぼんやりと眺めた。
レイファス・アエラス・ランドルフ。
彼は、自分とは歳も変わらぬ優秀な上司だが、それだけではない。出生に明かされてはいない謎が多い。特にわがグラディアス家にとって、兄たちにとって、脅威となるやも知れない存在。
ランドルフ家の中では異質な瞳の色。自分とどこか似ていると言われる所以。自分が生まれる前に行方不明になったという叔母の存在。それらが、どういう意味を持っているのか……
家は優秀な兄たちが継ぐ。三男である自分は求められていないのだろう。しかし、幼い頃より優しく可愛がってくれた愛する兄たちのために、少しでも役に立ちたい。自分なりの方法で、家を、兄たちを守りたいと思うのは、自分の一人よがりだと笑われるだろうか。こんな自分でも、家のために何か価値があると思いたい。だから、自分はレイファスのいる近衛騎士団に入団を希望したのだ。
独自で入手した情報では、最近、屋敷に滞在している遠縁の姫と、一緒に出掛ける姿をよく見掛けるということらしい。城にも、ともに出勤して同じ馬車で帰っていくが、先日は忍んで街にも行ったそうだし。今日の買い物とは、その娘に関係あるのか?
「けどさぁ、あれはどう見ても、女性へのお買い物って雰囲気じゃないよな?あれはどう見ても、これから戦場へ行くぜー!!って顔だよな」
「……そうだな」
「うわあ~。気になるなぁ!」
両手で頭を抱え、大きな声で騒ぐ同僚の頭をコツンと小突く。
「ほら、そろそろ交代の時間だ。夜までに腹ごしらえに行くぞ」
「お!そうだなっ。腹が減っては、っていうやつだな!」
ジルフィードは無邪気な笑顔を向けた。
「よしっ!行くぞー!」
元気よく拳を突き上げると、そのままユリウスの肩に腕を回し、歩き出した。
ユリウスはよろけて引っ張られながら「ああ」と目を伏せて言うと、小さく笑った。
レイは、愛馬を走らせながら、昨夜のアリアンヌとの会話を思い出していた。
コンコン……
ミツキが執務室を出て行ったあと、ドアを叩くものがいた。姿を現したのは、マリアンヌだった。
いまもまだ、眼の前にはアレクからミツキへ贈られた明日の舞踏会用の空色のドレスが置かれていた。
「困ったわね、レイ」
「べつに」
困ったと言いながら、マリアンヌはどこか面白そうだ。レイは執務机の端に腰掛け、不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「あなたも何か贈り物をしては?」
屈託なく明るく言うマリアンヌに対して、レイは眉間に皺を寄せて、不機嫌な表情で腕を組む。
「ドレスも、丁寧に揃いの靴まであるのに?首飾りもマリィに借りるものが決まっているそうだし」
「そうねえ……」
彼女はレイの不機嫌など気にせず、首を傾げ考えている。
やがて、ぱっと明るい表情を見せた。
「耳飾りはどうかしら?」
「耳飾り?」
「ミツキはピアスの穴を開けてるわよね。耳飾りは顔の横にあって存在感あるし、女性の彩りに必要よ。それにアクセサリーってね、その贈ってくれた人がずっと側にいて、自分を見守っていてくれているような、そんな不思議な力を与えてくれるものなのよ。愛する人がくれたものって、格別なんだからっ」
うふふ……と笑ったマリアンヌは、頬をうっすらピンクに染めて、自分で言ったことにキャピキャピと嬉しそうに笑っていた。
愛する人がくれたものって……。
マリアンヌは亡き夫に重ねているのだろう。ミツキにとって、俺はそうじゃない。話しが飛躍しすぎている。
格別……
少しでも、そう思ってもらえるのだろうか。
レイファスは黙って、もう一度、空色のドレスを見た。




