第57話 後日譚
「あら、美月ちゃん!いま、帰り?」
「あ、おばちゃん!今日はバイトが早めに終わったの」
「そう!おつかれさまっ」
店のショーケースの向こうから、明るい声で声を掛けてくれたのは、“肉のおおの”のおばちゃん。
同級生の龍之介くんのお母さんでもあるおばちゃんとは、幼い頃から顔なじみだ。
商店街のアーケードは、すっかりクリスマスに模様替えされている。
流れるBGMもクリスマスソングだ。
十二月はクリスマスのあと、すぐに歳末の売出しやら福引やら続くので、商店街も賑やかになる。
私がレイに出会ったのは、まだ初夏で七夕イベントがやってたのになぁ……
そう言えば……
あのとき思い出せなかった小学ニ年生のとき短冊に書いた願い事。
こっちの世界へ戻ってきたあと、なんて書いたのか思い出した。
『ステキな白馬の王子様に出会えますように』だった……
私が出会ったのは、“年下の白馬の騎士”と“口の悪い黒馬の王子様”だったけど。
みんな、どうしてるかな……元気にしてるかな。
短冊を飾った大きな笹のかわりに、今は大きなクリスマスツリーと空気の入ったサンタクロースのバルーン人形が立っている。
今夜の夕食、久しぶりにコロッケって、いいな……
「おばちゃん、コロッケもらおうかな。今日は四つ!」
「あら、お友達がくるの?」
一人暮らしの私には、いつもより多めだから。
「これからふくろうの古書店に寄るから、おじいちゃんと一緒に食べようかなと思って」
「あら、それは古書店の店主も嬉しいわね」
おばちゃんがコロッケの入った袋を手渡してくれる。
「はい、コロッケ四つ。美月ちゃん、最近明るくなったわね」
「え、そうかな」
「ええ、そうよ!子供の頃から可愛いけど、一段と素敵になったわよ」
「もお、おばちゃんったら。でも、メガネやめてコンタクトにしたからかな」
こっちの世界へ戻ってきてから、私はコンタクトに変えて、体力づくりにジムにも通い始めた。それに、騎士団長と王子様に重いって言われてたしなぁ~……意外と根に持ってるかも、私。ふふふ……
ありがとう、とおばちゃんに言って、私は“ふくろう古書店”へと向かった。
冬の夕暮れは早い。薄暗くなった外は寒くて、みんな心做しか足早に帰っていく。
“ふくろう古書店”は、店のレトロな外観によく似合う、ほんのりと眩しすぎない柔らかな照明が付いていた。
カランカラン……と音を立てて、店の中へ入る。
「おじいちゃん、こんばんはぁ」
店の中には、ほかにお客さんはいなかった。
今夜はおじいちゃんとコロッケを食べよう。
店主を待つ間、私は近くの棚を見て回る。クリスマスが近いから、なんだか恋愛ものでも読みたい気分かも。
スーッと背表紙を視線で辿ると、あれ、このタイトル。
私がランドルフ家でアリシアとキース姉弟が貸してくれて読んでいた本と同じだ。
ていうか、貸して貰っていた本、そのものだ。
どうして、ここに!?
上の方にある本を取ろうと、つま先立ちして手を伸ばす。なんとか届くけど、微妙に取り出せない。
もう少し⋯⋯、なんだけど。
そのとき、私の伸ばした手に、別の手が重なる。
長くて綺麗な指。
……え!?これって⋯⋯
「この本ですか?」
耳元で響く甘い低音ボイス。
振り向くと、悪戯っぽく嬉しそうにキラキラと輝く綺麗な蒼色の瞳が、すぐそこにあった。
私達の物語は、まだこれからも続くのかも知れない。
そう思えることが嬉しくて、私は「ハイ」と微笑んで本を受け取った。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。
本編は、ここで一区切りとなります。
……ですが、物語はもう少し続きます。
この後、番外編を三話、更新予定です。 本編では描ききれなかったお話を、楽しんでいただけたら嬉しいです。
最後になりましたが、いつも反応くださり、ありがとうございます。 皆さまからの反応が、大変励みになっております!




