第 55話 なんでもお願いきいてくれるのですか?
私が目を開けると、そこは見慣れない天蓋付きベッドの中だった。
ここは……
「ミツキ!!目を覚ましたのか!?」
声の方へ視線を移すと、アレク様の真剣な顔があって、私の額には彼の手が乗せられていた。
お城……?
「……ア、レ……、さ……」
喉がひりついて、うまく声が出なかった。
「無理をするな。三日間、眠っていたんだ」
そんなに?
確か、北の大魔法使いと闘って……
ぼんやりとした記憶を辿り、アレク様もひどい怪我をしていたことを思い出した。
「怪我は……」
「俺は外傷だけだったからな、俺も目が覚めたのは二日前だったが、傷も治癒魔法で塞がったし、今はもう大丈夫だ。ただお前は魔力もひどく消耗していたし、あいつの攻撃をまともに食らっていたから、目が覚めるまでは不安だった」
「……そう…、ですか……」
額に乗せた手を滑らし、そのまま頭を撫で髪に触れる。
アレク様……?
そんな触れ方されると……、ちょっと照れます。
「俺を乗せてレイが戻る途中で、助けに来た別隊に会い、俺を任せてアイツはすぐにお前の元へ戻ったんだ。けれど、アイツがお前を見たときには、お前は意識がなく、呼吸も止まっていた」
……え?
「すぐに自分の魔力を分け与え、なんとか延命をしながら、城まで連れ戻ったんだ」
そうだったんだ……
「レイが戻るのが少しでも遅れていたら、と思うと……。お前を、危険な目に合わせて、本当にすまなかった」
アレク様が辛そうな表情のまま、許しを請うように目を伏せた。
「ミツキ、私からも心からお詫びと御礼を」
アレク様の後ろから顔を見せたのは、腕にぐるぐると包帯を巻いて、首から吊るしているルーセルだった。
「わが国の王太子を守ってくれて、本当にありがとう。キミには、感謝しかない」
そう言って、ルーセルは深く頭を下げた。
そんなことない。私は、当然のことをしただけだよ。みんなが国のこと、一生懸命いつも考えてるから、みんなのことが好きだから、勝手に身体が動いてただけだから。
少しでも、みんなの役に立てたなら、嬉しいよ。
私は首を軽く横に振ると、自然と笑みが溢れた。ルーセルの腕も痛々しい。
「ルーセル……怪我、を……?」
「ああ。ボクは城で北の大魔法使いとやり合ってね。アレクを追う足止めをされたんだ。ベシエール家は攻撃魔法は得意ではなくてね。あ、この手は折れちゃったんだけど、身内に治癒魔法の得意な者もいるのだけど、いい気味だ、しばらくそれでいろって、治してくれないんだ。まあ、放っておいても骨はくっつくんだけどね。でも、まあ、キミが目を覚ましてくれたから、もう治してくれると思うよ」
私とどう関係があるのかわからないけど、ルーセルさんは変わらず、にこやかに話してくれた。
アレク様もルーセルも怪我はしてるけれど、変わらない様子で元気そうだし良かった。
ただ、彼の姿が見えないけれど、彼は……
「あの……」
「あぁ、レイ?もうすぐ飛んで来ると思うよ。キミが目を覚ましたこと、知らせるよう言ったから。レイは、キミを置いてきてしまったこと、ひどく後悔していてね。自分の力不足だと言って、ちっとも食べようとも寝ようともしないし、ちょっと休んでもらってるんだ。よく眠れる薬を飲んでもらって」
あ……それって。ルーセル、また眠り薬を盛ったんですね?
私があのとき残ったのは、レイのせいではないのに……
そのとき、バァンッ……って部屋のドアがすごい勢いで開かれた。
「ミツキ!?」
レイだ。つかつかと勢いよくベットへ歩み寄る。
寝ていたっていうから、ボタンをいくつか外された白いシャツの前は開けて、銀の髪は乱れて目に掛かっている。確かに目の下にくまができて、顔色も悪く憔悴して見えた。
それなのに、紺青色の瞳には真剣な光が浮かび、微かに揺らめいて、とても綺麗だった。
「レ、イ……」
こんなときでも、かっこよくて色っぽい……と思ってしまう私をごめんなさい。
彼はベッドの傍らまで歩み寄ると、その場に崩れるように膝をついた。布団の上で両手を固く組み、その長い指に額を押しつけるようにして俯くと、深く息を吐いた。
「……、よか……っ、た……」
彼の声は掠れて、震えていた。
泣いているの?
「ほん……とう、に……よかっ、た……」
震える声で繰り返す。
ルーセルのさっき教えてくれた以上に、レイはこんなにも心配して苦しんでいたんだ。
「レイ、ごめんね……心配かけて……」
布団に突っ伏している彼の頭を優しくぽんぽんと撫でる。
愛おしい……と、思ってしまう。
しばらくして、アレク様が満面の笑みで言った。
「ミツキ。何かお前に礼がしたい。何か欲しいものはないか?なんでもいいぞ」
「え、別にいいですよ」
「そんなことはないだろう。そうだ。先日のドレスに似合う首かざ……」
「首飾りはいらないです」
アレク様に被り気味に早々お断りする。
「早いな……」
だってドレスのときでも、色々と大変だったんだもん。レイが……
けれど、本当に欲しいものがないのだ。
「何かないのか?欲しいものや願い事でも何でもいいんだぞ?」
「なんでも……。うーん、特には…………あっ!」
「なんだ!」
一つ叶えてほしい願い事を思いついた。
「なんでもいいんですか!?」
「ああ。俺に叶えられることなら」
「アレク様にしかお願いできないことです」
「?」
—30分後—
「おい……これで、いいのか?」
一度退出したアレク様が不満げな顔で、部屋に戻って来た。
でもそんなことはお構いなく、彼の姿を見た瞬間、私はただもう、感嘆の声しか出なかった。
「ふわぁ~~~!」
何でも訊いてくれるっていう、私からのお願い。
“アレク様に近衛騎士団の白い隊服を着て、ぜひ騎士様の格好をしてほしい!”
ああーーーっ!今、私の目の前に、推しの騎士様がいる!!
「なぁ、おい……」
「ああ、何も言わないで下さい。できれば白い騎士様のままで、黙って微笑んでいただけると感無量でございます」
「………………」
「眼福、眼福」
思わず手を合わせて拝む。
騎士様に触れるなんてことは出来ません。ただ、こうして見ているだけで幸せです。
するとアレク様が突然、ふわりと柔らかい表情を見せると、小首を傾げてフワッと微笑んだ。
「これでいいのかな?姫」
きゃあぁぁぁぁ~っ!
ありがとうございます!!!尊死……
一人で感情が大変なことになっているそんな私を、ルーセルは珍しい生き物を見るかのように興味津々で、レイと騎士様の格好をしたアレク様がドン引きしていたようだけれど、私は気にしないことにした。




