第52話 対決③ 地味で腐女子ですけど、逃げたくはありません
私は北の大魔法使いからの攻撃に、急いで備える。
お願いっ!白銀の姫っ、私達を守って!!
私は強く願うと、白金に輝くシールドを私達の前に出現させた。
北の大魔法使いが、まるで虫か埃でも払うかのように、さっと軽く手を振っただけなのに、すごい速さで攻撃の光が飛んでくる。
ドンッ、――と衝撃を受ける。
なんとか、耐えた。
けれど、ミレイユの時とは明らかに違う。重たい。
これが北の大魔法使い⋯⋯
今のは彼にとって、きっと赤子を相手にする程度のものなんだろう⋯⋯
相変わらず気だるげで、平然としている。
「ほお~、成る程。では、これはどうかな?」
「なっ、」
彼が軽く右手を上げる。フードの下に見える口元をにやりと歪め、嗤っているのだと分かった。
私達をいたぶることを楽しんでいるんだ、と憤りを感じたとき、二回目の攻撃魔法が放たれた。
私は両手を前に突き出し、全身全霊でシールドに集中して彼の魔法を受ける。
白金のシールドがビリビリと震えている。
「くっ……」
息が出来ない。凄い圧力だ。
とうとう盾であるシールドの端が欠け、あっと思った瞬間、シールドが消えた。
私は身体に彼の攻撃を受けてしまい、後ろに吹っ飛ぶと強い衝撃とともに地面に叩きつけられた。
ゴロゴロと転がり、アレク様のそばで止まった。
「ミツキ!!」
アレク様の掠れた声がすぐそばで聞こえた。
目を開けると、アレク様が悲痛な顔をして私を見ていた。
「もうやめろ……今はアイツに降伏するんだ。アイツは、お前を殺す気はない。お前は、もうこれ以上、逆らうな……」
「⋯⋯アレク、様⋯⋯」
どうして、そんな辛そうな顔を?王子様には、そんな顔似合わないですよ?
そう言いたいのに、口が動かない。
ああ……、アレク様は、きっと身体の傷が痛いのですね……
ぼんやりと、そんなことを思う。
「俺達では、今のアイツに、勝てない。いいか、お前は……、もうすぐ向こうの世界へ、帰る頃合いだ。仲間に、なると、言え」
そっか。私が彼の元へいっても、私の元いた現実の世界へ帰るという方法で、私は逃げることができる。
……確かに。アレク様の言うとおりだ。
今の私達では、北の大魔法使いに勝てない。
「……わか、りました……」
私は、痛みで軋む身体を両手で支え、なんとか起こす。
大丈夫。まだ立てる。
私はぐらりと立ち上がった。
……そうか。身を守るばかりでは、いつまでも勝てない。
一歩踏み出さないと、何も始まらないなら、踏み出すしかない。……だったら。
一か八かやってみるしかない。無謀だって言われても。
私は右手をあげて、白銀の弓を出現させた。
アレク様が、はっきりと息を呑むがわかった。
「おいっ……ミツ、キ……、なに考えて……っ」
慌てて身体を起こそうとする。
「ほう、俺に矢を向けると」
イヴェールも意外そうに口の片端を上げる
「アレク様。私は、聖女様ではありません。力は大して無いし、ただの地味な腐女子ですけど、やっぱり、逃げたくはありません」
アレク様に目を向ける。彼の空色の瞳と目が合う。
「……すみません」
「お前は、……ほんとにバカだ」
彼はなぜか泣きそうな顔をしている。
「……はい。そう、思います」
「……でも、最高の女だ」
なんか餞の言葉に聞こえますけど?
内心苦笑しながら、私は弓に矢をかける。
ギリギリとイヴェールに向かって、狙いを定めた。
イヴェールは大したことではない、とでも言うように、まだ防御もせず、嗤って立っている。
攻撃はこの一度しか出来ない。二度目はない。
私は深く息を吐き、全ての力を込めて矢を放った。
矢は白銀の大きな光の塊となり、今までで一番鋭い速さで飛んだ。
そして、ようやく出した彼のシールドにぶつかる激しい音と、真っ白な光がイヴェールを包み込んだ。
あたりは白くまばゆい光に包まれて、何も見えなくなる。
どう!?ダメージを与えられた!?
ハァ、ハァ……
自分の荒い息遣いが耳に響く。
イヴェールは!?
まばゆい光が消えて、イヴェールは攻撃前と同じ場所に涼しい顔をして立っていた。
私には絶望が残った。
彼はゆっくりと黒いフードを脱いだ。
黒い髪にグレーの瞳。ミレイユが言っていたように、確かにものすごく綺麗な顔をしている。
まあ、今はもうどうでもいいか……
その白い頬に、スッと赤い筋が入っていた。
「この私の頬に傷をつけたことは褒めてやろう。なかなかに面白かったぞ」
もう私には、力が残っていない。
けれど、あとは残った力を全部使ってでも、ここをなんとか守ることしか方法が思いつかない。
「娘、仲間になるなら生かしてやろう」
「お断りします」
「ミツ、キ……もう、いい、逃げ、ろ……」
彼は、わざとらしく溜息をついた。
「残念だ。では、せめてじっくりと死を味わせてやろう」
イヴェールは笑みを浮かべると、手を上げた。
私は来るであろう攻撃に備えて、盾のシールドを出現させる。
彼がさっと手を振ると、光の矢がこちらへいくつも飛んでくる。凄い衝撃だ。重たい。
やがて張ったシールドにも、ピキピキと音を立てて、ひびが入り始めた。
そんな、まだお願いっ!!
もう少し、耐えて!!
そのとき、ひび割れた白金のシールドを守るように、大きな緑色のシールドが重なった。
え?て驚いた瞬間、すぐに力強く肩を抱き寄せられた。
「悪い、遅くなった」
耳元で、聞きたかった声が聞こえた。
「レイ!!」
夢なのかと横を見上げると、私のすぐ隣にレイが立っていた。




