第49話 ドラゴンを追って!
私を背に乗せた黒馬はスピードを緩めることもなく、ドラゴンを追って市街地を抜けたあと、今は月夜に照らされた野を駆けていた。
手綱をつなぐ金具に、王家の紋章が刻印されているから、アレク様の愛馬なんだと思う。
自分の主人を思って、助けようと、この黒馬も必死なんだ。
ドッドッドッドッ……
荒々しく力強い音と衝撃を全身に感じながら、とにかく落ちないように、私は必死でしがみついていた。
明るい月夜のお蔭で、ドラゴンの姿を見失うことはない。
ただ、あまりスピードを出して飛んでいないように感じられた。まるで、敢えてそうしているかのように。
だとしたら、いったい何が目的なの?
時間稼ぎ?それとも、この先に何か罠があるのだろうか……
罠?
何が待っているかわからない。怖いとは思った。
でも……。
何かあるとしても、私には追いかけるしか、選択肢はない。
馬で駆けながら、私は必死で考える。
レイとルーセルは?
彼らは、アレク様がドラゴンに連れ去られたことを知っているのだろうか……
レイはもしかして、外の見回りもしてるって言ってたから、騎士の仕事で城に居なかったのかも知れない。
私が城を飛び出して来たときは必死で、周りを見てる余裕がなかった。私の他にドラゴンに気づいてる人が居たのだろうか。
ドラゴンは、今も真っ直ぐどこかを目指して飛んでいる。
先程からその先に見えていた大きな森の黒い影が近づいていた。このまま行けば、森の中に入ってしまう。
――あれは、ヒスイの森だ。
森の中に入ってしまったら、空を見ながらの追跡が難しくなる。馬のスピードも落ちてしまう。どうしよう……
迂回するルートとかあるのかな。
そして、ヒスイの森を抜けた先に、いったい何があるのかも、私にはわからない。
ドラゴンはゆっくりと真っ直ぐ飛び続けて、私の不安どおりヒスイの森の上に来た。
どうしよう……
森の入り口まで来たとき、黒馬が嘶くと、そこでピタリと止まってしまった。
ええっ?どうしようっ!?
「ね、ねぇ、止まらないで?」
黒馬は首を振りながら、前脚で土を蹴り、ブルルンと鼻を鳴らしている。
まるでそこに壁があるように、一歩も進もうとしない。
それどころか、私に降りろと言うように、私を振り落とそうとする。
「わぁ~っ、落ちるよ!待って、降りるから!!」
私は転げ落ちるように、馬の背から滑り降り、地面に尻もちをついた。
「痛たたた……」
慣れない乗馬に私の足もガクガクで、情けないけど立ってられない。
そのとき、ヒスイの森の木立の中から、大きな真っ白い鹿がすっと立って、こちらを見つめていることに気がついた。
「あなたは……、ヒスイの森の精霊!?」
レイとこの森へ来た日、ヒスイの泉のほとりで出会った。泉に落ちたボールを取ってあげた男の子のお母さん。
私をじっと見つめる瞳は新緑の色で、まるで吸い込まれそうだ。私の頭の中に話しかけてくる。
「こちらへ」
低く凛とした声音で、そう聞こえた気がした。
「急ぎなさい」
強く有無を言わせない声。
「はい!」
私は返事をして黒馬を振り返ると、自分のドレスの腰に通していた薄い桜色のリボンを外した。そして、手早く手綱にぎゅっと結びつける。これだけでは、私からだと分からないかも知れない……
私はレイから貰ったピアスを片耳から外し、リボンの布に刺して留めた。
こうすればレイかルーセルなら、すぐに私からだと気づいてくれるはず。
黒馬の首に触れ、濡れたように強く輝く、黒い瞳を真っ直ぐに見る。
「お願い。あなたは城に戻って、近衛騎士団長のレイファス・アエラス・ランドルフにこれを見せてくれる?必ずアレクシス様を助けましょう!」
黒馬は高くいななき踵を返すと、来た道を再び駆けて行った。
賢い馬だもの、きっとレイに伝えてくれるはず。もし、レイが居なくても、ルーセルがピアスを見たら、私だと気づいてくれると思う。
大丈夫!きっとレイが助けに来てくれる!
私はヒスイの森の精霊を振り返って言った。
「お待たせしました!お願いします!」
ヒスイの森の精霊らしく、威厳のある佇まいだ。
「北のドラゴンが目指す場所はわかっている」
「ほんとですか!?」
「ああ。そこまでお前を連れて行ってやる」
「ありがとうございます!」
私は勢いよく頭を下げた。
「礼は要らない。子を助けた借りを返すだけだ」
ヒスイの森の精霊が力を貸してくれたらこの先も心強い。
「私の背に乗れ」
そう言うと、ヒスイの森の精霊は私が乗りやすいように屈んでくれた。森の精霊というだけあって、鹿と言えども大きく、その背の高さは、馬くらいはあった。
私は急いで「失礼します」とその背に跨る。
「私の首にしがみつき、頭を下げていろ。出ないと首が飛ぶぞ」
は?
「はい」
よく意味がわからないけど、言われたとおりにする。
その直後、言葉の意味がよくわかった。
私が首に抱きつくやいなや、ヒスイの森の精霊はすごい勢いで木々の間を跳ぶように、一気に駆け抜け出した。
確かにこれは、木々の枝に頭ぶつけたら、衝撃で頭がどっかにふっ飛んでいくでしょうね……
……想像したら、ホラーだ。
森を抜けるまで、私の首が飛んでいきませんように!!(泣)




