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第40話 ヒスイの森③ いろいろ大変です

レイファス・アエラス・ランドルフ。

彼が、水の中に飛び込んできた。

私が力なく伸ばした指先の、向こうにある光を大きく遮るように。


レイ……!


彼の姿が光を背に逆光と水の泡で、まるで細かい光の粒を全身に纏っているように見えた。


レイが助けに来てくれた。泣きたいくらいすごく嬉しい。

なのに、彼に近づきたいのに、私の手足はもうあまり思い通りに動いてくれなかった。


ごめんね、レイ……もう息が、出来ない……


気を失いそうになる私の指先を、レイは絡め取るようにして掴むと、私の身体を力強く引き寄せた。そして私の両頬を手で挟むと、顔を近づけ私の口にそのまま自分の唇を押し付けた。口の中いっぱいに空気が流れ込んできて、苦しかった呼吸がラクになる。

彼は私の身体を片腕に抱えると、あっという間に水面へと浮上していった。


私はほとりの草の上に押し上げられ、ケホケホと咳き込んでいた。

レイはまだ水に浸かったままだ。


「ミツキ!大丈夫か!?」

慌てた様子で、水辺に腕を掛けた状態で叫ぶ。

私は四つん這いのまま声は出ないけど、うんうんと何度か頷いた。

ありがとうって、言いたいけど水を大量に飲んでしまっていて、気持ち悪くて声が出せない。


レイは水辺の淵に両手をついて、ざばっと水音を立てて岸に上がった。

前髪からポタポタと水が滴り落ちるのを鬱陶しそうに掻き上げる。そして、まだケホケホと四つん這いのまま俯いているミツキの傍に跪いた。


「気づくのが遅くなって悪かった」


ううん、そんなことない!って言いたくて、首を横に振りながら彼のほうへ顔をあげる。


「っ!!!」


瞬間、私は息を飲んだ。思わず彼の姿に釘付けになる


なぜなら……


水に濡れた彼の白いシャツは気だるげに開(はだ)けて、ピタリと彼の形のいい胸筋に張り付いている。そして、シャツの薄い布は透けて、その下の素肌を一層艶(なま)めかしく見せていた。

一気に顔に熱が集まっていくのを感じつつ、くらりと倒れそうになる。


「ミツキ!?」


「ダダ…、ダイ、ジョウ……ブゥ~~、」


心配気に彼が私の顔を覗き込んでくる。


わわわ!

きょ、距離が近い、近い。


ち、近づかないでぇ~~~


水に濡れた顔面ハイスペックなイケメンの胸筋の破壊力の凄(すご)さを実感した。


これは、オタクな腐女子を殺すには大変有効な武器になります、ハイ。


なので、お、お願いだから、早く服を着てぇ!!!

……って、服は着てるか。

と、とにかく、なんとかしてぇぇぇ~~~!


私は再び俯いて真っ赤になった頬を隠しながら、あの……、とレイを指差した。

「ん?……ああ」

レイは自分の胸元に目をやり気づいてくれた。

……と思ったら、一気にズボッとシャツを脱ぎ捨てた。


はああ~~~!?脱いでどうするっ!?オイィィィ~~


ねえ、服は着てろ!?早く、お願いっ。着なさい!?


私の脳内では、キャラが崩壊した私が叫びながらグルグル走り回っていた。

……大パニックだ。


そんな私の焦りを気にもせず、レイは私に背を向けて、びしょびしょになったシャツをジョボジョボボボ……と水音を立てて絞っている。


ちらりと彼の背中を盗み見ると、彼の綺麗な顔からは想像しなかった騎士らしく鍛えられた筋肉が逞しくて、私は思わず目を反らした。私の心拍数はさらに上がっていると思う。なんだか見てはいけないものを、見てしまったような、そんな気がした。


綺麗な顔して逞しいなんて、そんなギャップ萌え。

レイが、悪いんだからね。


私が草とにらめっこしながら、必死に心を落ち着かせていると

「あの、ミツキ……その、言いにくいんだけど」

と、今度はレイが珍しく言い淀む。


何だろう?と私が彼のほうを見ると、レイが片手で自分の顔を覆って隠しつつ、私から視線を背けながら、もう片方の手で私の胸元を指さしている。


「っ!!!」


ハッとして自分の姿を改めて見下ろす。

悲しいことに、私のぐっしょり濡れたクリーム色のブラウスも、私の大きくない胸の形にピタリと貼り付き、見事に下着がスケスケになっていた。


きゃあぁぁぁぁぁ~~~!!!


慌てて胸元を両腕で隠す。


「大丈夫!見てないからっ!」


え!?指さして教えてくれたってことは、たぶん見てますよね!?


だって、レイの耳も真っ赤だよ!?


説得力ないですー!!


そのあと、魔法で乾かせばいいんだってことを思い出したレイが、私達二人の服をササッと乾かしてくれた。

「普段あまり魔法を使わないようにしてるから、ごめん、忘れてた」

「……………………」


彼と一緒に過ごすようになってわかってきたけど、レイってさ。ときどき天然なところあるよね。


「さてと、」


すっかり全身乾いたレイは銀の髪をサラリと無造作に掻き上げると、水辺のすぐそばに仁王立ちになった。そして、低い声で問う。


「この仕業はどいつだ?話を聞かせてもらおうか……」

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