16 暁月流・伏流弧月
完璧な死角、完璧なタイミングで放たれた一閃。
勝負は決した——そう確信して踏み込んだ頭領の息が、喉の奥で詰まった。
背後からの奇襲。
不意を突かれたはずの蓮の視線が、あらかじめ突きがそこへ来ることが分かっていたかのように、一直線に自身を見抜いていたからだ。
視線が、真っ直ぐに交差する。
(——見えている……!?)
右からの気配が浅はかな誘いであることなど、百も承知だった。
右へ踏み出した最初の一歩は、誘導に引っかかった振りをしながら間合いを微かにズラし、同時に死角からの突きを最小限の体さばきで殺すための、計算し尽くされた仕込みに過ぎなかった。
鋭利な槍先が、肉体を抉り抜くと思われたその極限の刹那。
外側に開いていた木刀の柄頭を抱きかかえるように、滑らかな弧を描きながら鐺を大きく回した。
上から被せ擦るようにして、迫り来る槍身へ鞘を滑り込ませる。
キンっ、と硬質で甲高い衝撃音が空間に響き渡った。
上から抑え込まれた槍の柄は、蓮の体と鞘の狭間に寸分の狂いもなく挟み込まれ、威力を殺される。
放たれた必殺の突きを支点ごと固定され、押し込む力を逆に利用された頭領は、前傾姿勢のまま体勢を激しく崩した。
逃げ場のない、致命的な死に体。
「なっ……!?」
驚愕に目を見開く頭領の目の前で、蓮は瞬発的に回転を始める。
死線の中で研ぎ澄まされた集中力が、全身の反応速度を更に高めていた。
すかさず左足を力強く一歩前へ踏み込み、体軸を右へ強く捻り上げる。挟み込んだ槍ごと、頭領を流れるように引き回し、蓮の立っていた所よりも前方に引き摺り出した。
体勢を完全に失い、無防備に晒された頭領の肉体。
間髪いれず、弾き飛ばした運動エネルギーをそのまま右回転のスピードへと乗せる。
死に体となった頭領の背後へ、水流のように一瞬で回り込んだ。
纏わせた黒い霧が激しく渦を巻き、暗闇の中に禍々しい円弧の軌跡を描き出す。
己の内に潜む忌まわしき力を、刃の先へとすべて流し込みながらの抜き打ちを定める。
——【伏流弧月】。
回転の遠心力と鋭利な殺意を乗せた刃筋が、回避も防御も叶わない頭領の背中へ、容赦なく斬り込んだ。




