15 対退魔師頭領
呼吸が荒く乱れる。
視界の端を通り過ぎる影を追うことすら叶わない。
認識阻害の結界内では、視覚も聴覚もまるで頼りにならなかった。空間の歪みから突如として繰り出される刃が、一寸の狂いもなく身を突かんと襲いかかってくる。
頬を裂き、肩を滑り、浅く太ももを刻む。
薄皮一枚をすり抜けていく死線。じわじわと身体を蝕む出血と痛みが、思考の精度を鈍らせようと襲いかかる。
(……見えてから動いたのでは間に合わない。何か反撃の糸口を考えなければ……)
木刀を握る手に血が滲む。
敵は姿を消しているのではない。認識阻害を亜空間結界に重ね、空間そのものに気配を溶かし、打つ直前の「起こり」すら消し去って肉薄してきているのだ。
ならば——動いた瞬間を叩くのでは遅い。
刃が放たれるより先、相手が「斬る」と意志を固めたその極小の兆し、その刹那に合わせる。
これをやってのけるしかない。
(奴を感じろ……必ず攻撃に来る瞬間に糸口がある……)
意識を全身の皮膚感覚、更には空間へと極限まで集中させた蓮の目から、スッと光が消える。
同時に、手にした木刀が黒い霧を纏い始める。
殺気が膨れ上がる一瞬の波を捉えようと、研ぎ澄まされた神経を周囲へ張り巡らせた。
「——ほう。見切りの境地に手をかけようという訳か」
何処からともなく、頭領の冷徹な声が響く。
「だが、まだ未熟だ」
直後、蓮の右斜め前方、間合いの外から来る害意を認める気配。
(右——!)
捉えた殺気に対し、反射的に木刀の柄に右手を乗せ、右側へ一歩踏み出し先手をかける。
——だが、それこそが頭領の思惑であった。
刀を携える者、とりわけ抜刀や構えの構造上、右手で柄を握る剣士は左側からの急襲に対して腕の可動域が制限され、同時に抜刀の際にも初手が遅れやすい。
右からの攻撃に意識を誘導され、一度体勢を右へ傾ければ、左側の死角からの反撃にはコンマ数秒の致命的な遅れが生じる。
頭領はその刀の理を完全に見抜いていた。
右からの殺気は、護符によって生み出された虚妄のクナイだった。
右側へ意識と軸足を向けさせたその刹那、認識阻害の真の深層——完全な死角である左後方から、冷徹な殺気を伴った槍先が突如として現れた。
(やはり、まだ子供か……)
頭領が背後からの急襲にて、勝負を終わらせようと渾身の突きを放ちながら接近する。
「無影突!!」




