14 衝突
「……お前たちの不始末に俺たちは巻き込まれたということか……」
絞り出した声は、悲しみと怒りに震えていた。
「……あんた達があの時、失敗さえしなければ……!」
溢れ出す感情を抑えきれず、蓮は厳山の胸倉を掴み上げた。
父さんと母さんが死んだあの日。もし東雲一族がしくじっていなければ、二人は今も生きていたのではないか。
「……私の失策だ。申し訳ない……」
厳山は一切の弁明をせず、ただ静かにその責めを受け止めた。痛切な罪悪感を瞳に宿しながら、蓮の目をまっすぐに見返す。
「5年前の事件は我々の責任でもある。市民にはマガツの脅威どころか、穢れすら感知できない。奴がそのまま解き放たれていれば、この地は瘴気に塗れただろう……我々も市民を守ろうとしたのだ……」
「だったら何故俺の両親は死んだんだよ!同じ市民だろうが!お前達が守ろうとしたのは自分たちの体裁だけじゃないのかよ!」
蓮は感情に任せて言葉を続ける。
「お前たちの失敗で家族が殺され、世間には通り魔殺人と周知された。自分たちの失敗が世間に露呈しない様に工作してるだけだろうが!今更になって、息子の俺にそんな話を聞かせて何を企んでやがる!」
厳山は動じず、静かに答える。
「マガツの存在が皆に知られた時、この地、いや、この世は地獄と化す事になる。事実を濁してまで君を救うために必要な嘘だったのだ。君には真実を知る権利があるし、我々も協力していきたいと思っている。その時が来たと判断したからこそ、今日君に聞いて欲しかったのだよ」
「ふざけるな!」
蓮は視線を床に落としたまま厳山を掴んでいた手を振り払った。
「なにが協力したいだ。お前たちの責任逃れに俺を利用したいだけかよ!結界だかなんだか知らんが、その儀式すら失敗する様な奴らのことを信用できると思うのか!」
蓮は振り返り、出口へと足を進めつつ言い放つ。
「誰がお前らなんかと組むか! お前たちの力なんて借りない……俺は…俺一人で奴らを叩き潰す!」
固く拳を握りしめ、吐き捨てるように豪語する蓮。
そのやり取りを、壁際で静かに腕を組んで聞いていた頭領が、フッと鼻で笑った。
「確かに腕は立つようだがな……暁の坊主よ、一人で何ができるつもりだ?」
頭領の声には、明らかな挑発の色が混じっていた。 蓮の苛立ちを煽るように、壁際に立てかけられていた修練用の鞘付き木刀を掴むと、容赦なく蓮に向かって投げ渡した。
「そこまで言うならお前の実力を見せてみろ」
不意に飛ばされた木刀を、蓮はとっさに片手で受け止める。
「頭領、何を……! ?やめてください!」
異様な空気を察した葵が慌てて割って入り、二人を仲裁しようと前に出た。
厳山も重々しい面持ちで見守る中、頭領は葵の制止に耳を貸すこともなく、懐から何枚もの護符を取り出した。
「——複合結界」
頭領が短く唱えると同時に、護符を頭上へ投げるや、部屋全体へ瞬く間に弾けて広がる。
次の瞬間、部屋の景色が歪み、外の音や気配から完全に遮断された認識阻害の結界が部屋の中に展開された。
「父様……!」
二人を止めるよう頼もうとする葵の声すらも結界の異空間へ遠のいていく。葵と厳山が息をのんで見守る中、言葉を交わす隙すら与えず、急激に緊張感が爆発した。
結界を認識した瞬間、頭領の姿が結界の中でふっと消えた。
「なっ……!?」
気配すら完璧に断ち切る退魔師の真骨頂。ましてや頭領、退魔師の主戦力でもある。
蓮が木刀を構え、警戒を強めた時には、すでに頭領は背後に肉薄していた。
シューッ! と空気を切り裂く鋭い音が響く。
「くっ!」
とっさに身を捻った蓮の耳元を、投擲されたクナイのような暗器がかすめ飛ぶ。
姿勢を崩した蓮の死角を狙い、今度は短十文字槍の冷たい刃先が、姿なき空間から突如として突き出された。
間一髪、峰で受け流しながら後方へ距離を取り避けることができた。
「ほう、避けたか。やはり腕は立つ様だが、さていつまで持つかな?」
居場所を悟らせぬ神出鬼没の襲撃。
結界の中、頭領の一方的な攻勢に対し、蓮は避けるに徹するしかなかった。




