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【完結】翡翠色の光と銀の風〜失われた架け橋〜  作者: 碧風瑠華


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第六話 善意をまとった悪


「よいお日和でございますな、殿下」


 ノックもなく、いきなり入ってきた男に王太子ジュリアンは、大きく一つ息を吐いた。



 最近、宰相補佐官になったギルガンディアは、ジュリアンが一人でいる時に話しかけてくる。

 今日も、執務室に一人になった瞬間にやって来た。

 護衛騎士すら『人払い』と称して追い払った。


 重要な話をするわけでもなく、世間話なのに。


 勝手にお茶を淹れ、置いてあったお菓子を食べ始める。

 誰かの許可など何もないのに。


「ギルガンディア殿。菓子なら後で届けさせよう。用件は何だ?」


 ジュリアンは、またため息をついた。

 用などなく、ただジュリアンの周囲の者への御託を言いに来たのだろう、さっさと帰ってくれと祈った。


 案の定、目的のわからない他者の貶めが始まった。

 そして、エルミージュの出来が悪いと言い始めた。


 ジュリアンは、腹立たしい思いを噛み殺していた。


「いやいや、ルクレ補佐殿は何もしておりません。すべて殿下のお力によるものですな」


 お菓子を次々と食べながら、貶めは止まらない。


「単独で任務にあたれぬ女など必要ありませんぞ。金を引き寄せる者こそ価値が高い……そうでしょう、殿下」


「いや、ルクレ補佐はすべて単独でも出来るんだが……」


 ジュリアンがギルガンディアの言葉を否定するのは何度目だろう。

 事あるごとにギルガンディアはエルミージュを貶める。


「おや、ルクレ補佐殿がされているのですか? 殿下は何もされておられないのですか?」


「いや、そんなことはない。協力してやっているだけだ」


「やはり、ルクレ補佐殿は何もしておられないではないですか」


 うんうんと頷き、したり顔で続けた。


「それなのに出来るなどと評されるとは、甚だおかしゅうございますな。私めには評価など到底出来ませぬ。殿下のお傍から離すのが賢明にございましょうな」


 ギルガンディアは、何を言っても聞く耳など持ちはしない。


「私の補佐官は私が決める。手出しするな」


「恐れながら、殿下の為に申し上げます。何も出来ぬ彼女より、もっと才ある者をお傍にお据えになる方が賢明にございますな」


 ギルガンディアは、大仰に自分だけが味方だと言わんばかりにジュリアンの手を取って言った。

 気持ちの悪さをジュリアンは堪えた。


「あのように見目麗しき女には、何の才もございませぬよ。国王のお気に入りと聞くのも、不可解にございますな」


 首を傾げながら言うギルガンディアは、少し滑稽だった。


「致し方ございませぬな。私めがあの者を傍に置きましょうか……」


 最後にとんでもない爆弾発言を残し、高笑いしながら王太子執務室から出ていった。


 本気か? 冗談なのか? さっぱりわからない。一体何しに来たんだとジュリアンは苛立った。

 どうにも、性格が合わない。


 あの、嫌味ったらしい物言いが、特に性に合わない。


 国を出奔する前のアルベールは、ギルガンディアに常に苛立っていたなと、ジュリアンは窓から庭園を眺め思い浮かべていた。


 第二王子マティアスも、前宰相令息アルベールもギルガンディアを毛嫌いしていた。


 エルミージュに至っては、ギルガンディアの存在自体把握していないのかと思うほど、意に介していなかった。


 最近取り立てられた者程度にしか見ていないと思われた。


 エルミージュを排さなければ、自分への風当りが強くなる。

 王太子としての質も疑われる。

 おかしすぎると、ジュリアンは苛立っていた。


 何故有能な者を有能だと評価してはいけないのか?

 自分をよく見せるために他者を貶しているギルガンディアのやり方には納得出来ない。


 誰があんな奴を宰相補佐官に任命したんだ、と憤っていた。



 執拗に繰り返し行われるギルガンディアの他者貶め行為。

 最初の頃はギルガンディアに反発し、跳ね飛ばしていたジュリアンだった。


 そのうち、エルミージュに対してはバランスを崩していった。



 ある日、ジュリアンは「君はもっと単独で動け」と、エルミージュに言い放った。


「危機管理の観点から承服できませんわ」


 エルミージュは、少し驚いた顔をしたが続けて言った。


「殿下、宰相補佐様にそっくりですわ」


 その言葉を聞いたジュリアンは固まった。


「ウソ……ほんと? えっ?」


 ジュリアンは狼狽えたが、


「ごめん……気を付ける。言ってね」


 と、素直に落ち込んでいた。



 その後も、ギルガンディアの複製か?と感じる言動は多発した。

 ジュリアンだけが気付いていなかった。


 ギルガンディアは、己が一番できると思っている。

 だからこそ、脅威になる者を無意識に排除しようとする。

 自分は偉いんだ、敬えという思いが全てだった。


 ジュリアンは素直すぎた。

 そこを、悪意ある何も見ないギルガンディアに言葉巧みに刷り込まれてしまった。





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