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【完結】翡翠色の光と銀の風〜失われた架け橋〜  作者: 碧風瑠華


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第三話 春を待たず、光を探す


 もう少しで春が来るが、肌寒い冷気がまだ支配している頃。

 エルミージュは王太子補佐となり、一年が経過していた。


 その頃エルミージュは、第二王子マティアスがベルテア王国へ留学するという話を耳にした。

 モヤモヤとした不安を抱えている時、久しぶりに王宮の回廊でマティアスと出会った。

 半年前、彼は王太子ジュリアンの側近から外された。


「マティアス殿下……本当に留学なさるのですか?」


 マティアスと親しいエルミージュだから許されることだが、思わず呼び止めてしまった。


 マティアスは一瞬笑った。

 けれど、その笑顔はすぐに消えた。


 彼は明るさを装い、軽薄な王子として振る舞っていたが、エルミージュの問いかけにその仮面をはずした。


「エルミージュだから話すけどさ……正直、やりがいがないんだ。それが本音だよ」


 苦々しい顔をして呟いた。


 回廊で出会った二人は、王宮庭園へと移動した。


 マティアスが周囲に魔法の防音結界を張り、声が外に漏れないようにした。

 そして二人だけの会話を始めた。


「兄上には、もう僕が必要ないんだ」


「そんなことありませんわ。思い違いですわ」


「ずっと、兄上を支えると思っていた。なのに王太子補佐から外されて、外交部門に回されたんだぞ!」


 マティアスは唇を噛み締めながら、胸中を吐露した。


「外交でも頑張ったさ……でも、虚しいんだ。やりがいを感じられないんだよ」


「ミージュの存在も、どれだけ支えだったか、離れてやっとわかったよ」


 庭の一点を見つめて、震える声でエルミージュに告げた。


「いつでも、お話を聞きますわ」


 エルミージュは伝えたが、マティアスには首を振られた。


 半年前、王太子の補佐として活躍していた彼は、王太子と突然引き離された。

 それぞれ別の職務を遂行することになった。

 それも必要なことなのだが、そこに彼はやりがいを見いだせなかった。


 

 異動先での王族としての扱いは、居心地が悪かった。

 皆、距離を空け、遠巻きにしか接してこなかった。

 以前のようにマティアスが軽口を叩けず、彼に媚びへつらう者ばかりだった。


「殿下はそこに座っていてくだされば、よろしいですよ」


 何もさせようとしない者すらいる。


(なんのために、ここに来たんだ? 俺は)

(用意された席に座ったまま、ただ時間だけを過ごせというのか?)


 虚しさが募っていった。



 すぐ呼び戻してくれるだろうと思っていたのに、呼び戻されない。


(兄上は、もう僕が必要ないのか? 必要なはずなのに……)



 マティアスは様々なことに真摯に取り組み続けたが、状況は変わらなかった。

 光を見いだせなくなった彼は、よそに目を向けてみようと思った。


 それからは、他国について必死に学んでいった。

 そして、もっと広い世界が見たいという気持ちに変化していった。


 それが、この国を出て留学するという決断に繋がった。


 マティアスの異動に関しては、ジュリアンも寝耳に水だった。

 必要なんだ、引き離さないでくれと、国王に訴えても聞き入れてもらえなかった。

 そのことを、マティアスは知らなかった。


 ジュリアンを支えるには、ジュリアン以上の能力が必要だ。

 それを培うための異動。

 頭では分かっても、彼らは心がついていかなかった。


 彼らの傍で、どんなことであれ話を聞いていたエルミージュの存在を国王は失念していた。

 異動先にも、彼女のような人物がいれば、マティアスの心も沈まなかったことに。



 明るく快活なマティアスは王太子の弟であり、親友であり、悪友。


 共に政務をしていた時は、二人してよく執務室を抜け出した。

 抜け出しては、城近くを通った行商人から食べ物を買って戻ってくる。

 毒見もなく、暖かい食べ物を頬張る二人に、エルミージュはいつも驚かされていた。


 焼き芋なるものを買ってきた時には、


「エルミージュも食べる?」


 と誘われたが、怖くて首を振った。


 次に何をするかわからない少年たち。

 そんな彼らの明るさは、執務室全体に波及した。

 城内で、王太子執務室は人気の部署となっていた。


 この二人がいる限り、エルデリア王国の次代は明るいと誰もが思っていた。


 マティアスが居なくなる。

 その事実がエルミージュの中に先の見えない不安を生んでいた。


 なんとか止められないのかという思い。

 自分も留学したいという思い。

 様々な気持ちが交錯し、マティアスを見つけた時に思わず問いかけたのだった。


 言葉を失ってしまったエルミージュに、


「で、心機一転って感じだよ。もっと大きな器の男になって戻ってくるね」


 マティアスは明るい空気に切り替え、エルミージュに誓うように言った。


 防音結界を解き、回廊へ戻って行くマティアスは、すれ違った令嬢へ手を振り愛嬌を惜しみなく振りまいて、去っていった。


 エルミージュは、その後姿に、なぜわかってやらないんだ、という思いをぶつけた。


「王太子殿下は誰よりも、貴方と共に居たいのですよ。貴方は王太子殿下の片翼なのに……」



 その後、予定通り第二王子マティアスはベルテア王国へ出立した。


 エルミージュの手を両手で包み込むように握りしめ、


「兄上のこと頼むね……」


 と言いエルミージュを抱きしめ耳元で小さく零した。


「寂しいよエルミージュ」


 マティアスは、エルミージュから活力を貰うかのように、少しの間エルミージュを抱きしめていた。



 マティアスの留学は一年間の予定だったが、彼は戻ってこなかった。








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