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【完結】翡翠色の光と銀の風〜失われた架け橋〜  作者: 碧風瑠華


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第二話 女神の前では、素顔の少年たち


 第一王子ジュリアン・エル・クロワが王太子として、少しずつ政務に関わり始めた頃のことだった。


「女神だ! 女神がやっと現れた!」


 エルミージュが王太子の執務室に現れるや否や、アルベールが書類を握りしめ駆け寄った。


「ミージュ……助けてくれ! 君は我々にとって得難き女神なんだ!」


 彼は書類をヒラヒラさせながら、エルミージュの足元に縋る勢いで迫る。


 エルミージュに辿り着く寸前で、ジュリアンがアルベールの襟首を掴み、元の席へ戻した。


「お前、調子乗りすぎだろ」


 呆れ顔のジュリアンにお構いなしで、アルベールは声を弾ませる。


「本当だよ、助けてもらったんだから。すごいんだってば」


 どうやら解読できない古い言語の資料に頭を抱えていたらしい。


「まぁ、まずは、ここに座ってお茶でもどうだい? ミージュもアルベールなんて放っておいてさ」


 格闘する二人を笑いながら眺めていたマティアスが、優雅にエルミージュにお茶を勧めてきた。


「マティアス〜。裏切者め〜」


 アルベールは文句を言い、ちゃっかり誰よりも早くお茶の席についた。


 その様子にマティアスは、また笑い転げだした。


 

 抜け目のないアルベールだが、令嬢たちの間では、冷静沈着で近寄りがたい『孤高の君』と呼ばれている。


 しかし、エルミージュには、これが冷静沈着とは思えなかった。

 エルミージュは国王に呼ばれ、少し席を外していただけだったのに。


 この三人が騒がしくしている混沌とした空間に呆れながらも、なぜか和んでしまうエルミージュだった。


 「よしっ! 国王を籠絡してこいミージュ! 君ならできる!」


 マティアスが突然エルミージュに言ってきた。


 会話を聞いていなかったエルミージュは、話の流れが分からず、目を白黒させていた時、


「これかけといて」


 と、ジュリアンから服を投げられ、思わずエルミージュは頭から被ってしまった。



「あっ……いやっ」


 思わず漏れたその声に、三人は一瞬、動きを止めた。


 三人は顔を見合わせ、服を取り除こうとしているエルミージュを、ぼーっと見つめた。


 はっと気を取り直したマティアスが、少し照れながら言った。


「や、やればできるじゃないか! その声で『陛下〜』って言うんだ! そして書類を減らしてもらうんだ!」


(どんな声なのよ! できるわけないじゃない)


 政務を減らすために、エルミージュを生贄にしようとした三人は、しばらくエルミージュから口をきいてもらえず、ご機嫌取りをするはめになった。



 第二王子マティアス・エル・クロワ。

 宰相令息アルベール・ヴェル・ロナン。

 彼らはジュリアンの側近であり、三人はいつも一緒に行動していた。


 彼らは、エルミージュの前では自然体で素顔をよく見せていた。


 国王が正式にエルミージュを王太子補佐に命じた時、彼らは歓喜した。

 社交界デビュー前の令嬢に命じるには、かなりの特例だった。


 国王は、エルミージュの能力を高く評価していた。

 できれば王家に囲い込みたかった。


 その思惑もあり、王子たちの遊び相手の一人としてアルベールと共に幼少期から王子たちの傍に置いていた。

 他の令息や、おかしな令嬢が彼女に近づくことのないようにするためでもあった。


 国内の令息はエルミージュに近づくことはなかった。

 が、国王は他国までは目を光らせていなかった。


 エルミージュの祖父セリュール侯爵と国王は仲が良かった。

 国王とエルミージュの父が学友であり、セリュール侯爵家に入り浸っていたことで、息子同然なのだ。



◇ ◇ ◇ ◇



 エルミージュが五歳の時、王子たちと引き合わされた。


 花々が咲き乱れる王宮庭園の柔らかい日差しの下。

 祖父に手を引かれたエルミージュは王宮庭園で、国王や王子たちとのお茶会に訪れていた。


 第一王子ジュリアンと、第二王子マティアス。

 七歳と五歳の王子二人は走り回り、じっとしていなかった。


 子供は王子二人とエルミージュだけしかいない。

 緊張して大人しく座っていたエルミージュに、国王は尋ねた。


「エルミージュは、ジュリアンとマティアスのこと、好きかな?」


「はい、好きです」


 王子たちとは、今日初めて会ったばかりだ。

 エルミージュは素直に思ったままを口にした。

 相手の思惑や意図など、何も気付いていない答えだった。


「では、お嫁さんになるのは、ジュリアンかマティアスのどちらにするかね?」


「お嫁さん? なるの?」


 流石に返答に困ったエルミージュは、祖父を見上げた。


 祖父セリュール侯爵は無言で国王を睨んだ。

 国王は侯爵に、ふんわりと微笑み返した。


「ジュリアンでもマティアスでも、エルミージュが好きな方と一緒になって欲しいと思ったんだよ」


 悪びれることなく言い、なおも、


「義娘になってくれないかな?」


と、懇願していた。


 お茶会が終わるまで、エルミージュの困惑は続くのだった。


 初対面の王子たちは悪戯好きで、カエルを持ってきて、エルミージュを驚かせた。

 エルミージュのお茶に角砂糖を五つ入れて飲めなくしたり、やりたい放題だった。


 エルミージュも、やられっぱなしではない。

 王子のお茶にも角砂糖を三ついれてみた。

 王子たちは甘党だったらしく『美味しい』と言われ、不発に終わった。


 お互い淡い恋心など抱くことはなかった。

 成長しても彼らの関係は、家族に近い信頼と絆でしかなかった。


 国王が望む恋物語など彼らには無縁だった。


 仲睦まじい関係は、形を変えても生涯続くと誰もが疑いもしていなかった。

 形を変えるどころか、その信頼までもが、崩れるなど、誰もが予想すらしていなかった。






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