第十四話 残された波紋
エルミージュと王太子の通信が突然切れた。同時に外から突然轟音が聞こえた。
切れる寸前、通信機からも聞こえた気がした、とジュリアンは思った。
執務室の窓から外を見ると、一条の光が出現していた。
(あれは何だ?)
ジュリアンは眉間にシワを寄せ、頭をよぎった予測を否定した。
あの光の柱は翡翠色に銀色の粒子が混ざっている。
あれはエルミージュの魔力の色と同じだ。
「殿下! ルクレ補佐官が……」
ボロボロの姿になっている、エルミージュに付けていた影からの報告だった。
影は魔力暴走の瞬間を目にすると同時に転移魔法でその場から逃れた。
距離をとった場所から見た惨状は、もう手出しができなかった。
影の者の強さをエルミージュは上回っていた。
ジュリアンは、もう一度光の柱を見つめた。
エルミージュの魔力色に、本来ない赤と黒が混ざっていた。
(嘘だろ……)
ジュリアンが、もっとも認めたくなかった現実。
が、同時にエルミージュも自分を必要としているのでは?という思いも心をよぎっていく。
苛立ち紛れに放った言葉。
それがエルミージュを追い詰めたと感じた。
そして、それほどまでに自分の事を思ってくれているのかと愉悦も湧き上がった。
同時に胸が締め付けられるような冷えるような痛みが走った。
ジュリアンは耐えきれず、その場に膝から崩れ落ちた。
ルクレ領へ、エルミージュの元へ転移しようとしたジュリアンは護衛たちに取り押さえられた。
影の報告ではエルミージュの姿は光とともに消えたと上がっている。
もはや手遅れだとジュリアンをなだめた。残念です、と……
ルクレ家から王家に出された報告書では、エルミージュは生死不明。
消息不明。とされていた。
状況的に絶望的だろうと国王からジュリアンは言われた。
——エルミージュ、俺を一人にするのか?
——君まで、俺の元から居なくなるのか?
◇ ◇ ◇
その日、帰国したばかりのエルデリア国王エドリックは、城内に入ろうとしていた。
その時、背後で聞こえた轟音に振り返った。
一瞬、襲撃かと思ったが、一目見て魔力の光だとわかった。
全貴族の情報を頭に入れている国王には、瞬時に理解出来た。
誰の魔力で、何が起きたのかを。
本来の魔力色に赤と黒が混ざっていた。
わからなかったのは、どうしてそれが起きたのかということだった。
そのまま城には入らず、セリュール侯爵邸へ自ら赴いた。
侯爵家も突然の事態で混乱していた。
徐々に事態が明らかになってきた時、ルクレ伯爵家からセリュール侯爵家に一報が入ってきた。
エドリックが予想した通りの事態だった。
(何がしたかったんだ? ジュリアン)
エドリックには息子であるジュリアンの考えが理解できなかった。
ルクレ領には、王家より人を派遣し、事態の収拾と情報統制を図った。
それでも、エルデリア王国新聞や各国の号外としてばら撒かれる事になった。
空に昇った光の柱は、遠い国からも見えてしまっていた。
『ルクレ領にて荘厳な光の柱出現! 神の子降臨か?』
『巻き込まれた伯爵令嬢生死不明!?』
という見出しが踊り、エルデリアの人々は浮き足立っていた。
新聞記事は誤報だったが、上手く真実を隠してくれた。
それゆえ、王家は放置し黙認した。
その後も調子に乗って誤報をまことしやかに報じ続けてくれた。
エルミージュは光と共に消えたという。
ジュリアンを、どうしたものかとエドリックが思案していたある夜。
国王の私室に白銀の光が突如現れた。
この世の者とは思えない、人を魅了せずにはおかない風貌の男性が立っていた。
「貴方様は?」
「我は風を統べる者だ」
冷やかな凍てつく瞳で憮然として告げられた。
「我が愛し子は、我のもとにて静養させておる。回復期間は不明だがな」
エルミージュのことだと、エドリックはすぐに理解した。
風の精霊王は全てを見ていた。エルミージュはもとよりすべての者を見護っていた。
隠し事は何も出来ない。
何が起きたのかを、つぶさにエドリックは知らされた。
「どうする? 今のまま何も変わらねば、回復しても人の子の世界に戻しても同じ事を繰り返すだろう」
エドリックは、ジュリアンを、どうするのか考えなければならない、導かなければならない。
それ次第で、この国の未来が分かれる。
そして、この国を蝕み始めた獅子身中の虫を始末せねばならなかった。
育てる意味もあり息子たちの自由にさせていた事を、エドリックは懺悔せざるをえなかった。
自身も愚かすぎたことを……




