第十三話 光の柱
その瞬間、眩い閃光が一条の光となり、ルクレ領の空を突き破った。
翡翠色に銀色の粒子が、星屑のように混ざる魔力の風と光が、ルクレ領の上空に輝いた。
ただ……いつもの光と違い、禍々しい赤と黒の粒子が混ざっていた。
ビリビリと肌に衝撃が走る。
一瞬の出来事だったが、あまりに強烈で、多くの人々が目撃した。
離れた王都でも、王城の中からでも、その光は確認できた。
魔力にはそれぞれ固有の色がある。
これはエルミージュ固有の魔力色だ。
知っている者には、誰の光なのか、即座に理解できた。
エルミージュは、すでに限界を超えていた。
精神力だけで自分を保っている状態だった。
しかし、王太子ジュリアンとの壊れた信頼の前では、もはや保つ事は難しかった。
リオネルも快方に向かい、安定してきていた。
そんな時、通信画面越しに告げられたジュリアンの言葉が引き金となった。
それまでの全ての信頼を、幼い頃から親しんだ仲を壊すには十分な言葉だった。
エルミージュの職務遂行能力について、誰よりもわかる位置にいるジュリアン。
それなのに、誰の妄言に踊らされているのかという、今までの暴言の数々。
もはや言葉は、対話は成立しない。
誰に洗脳されているのか……歪んだ見方しかできない王太子ジュリアンが情けなかった。
(そもそも居なくても良いと言ったのは殿下だ!)
(縁の下の力持ちなど必要ない。派手に闘う者こそ必要であり、後方支援など何の価値もないと)
エルミージュを取り巻く風は、心と呼応するように勢いを増していく。
王太子ジュリアンは、ある時から人格が変わってしまった。
元に戻る時もあるが、おかしい部分が多かった。
エルミージュに酷いことをしても、記憶にないという。
何を信じれば良いのか分からず、誰にも相談できないエルミージュは、ただ苦しかった。
積もり積もった想いが、リオネルの命を天秤にかけられた時……完全に決壊した。
魔力を使い続け、消耗しすぎていた彼女の力は、もはや制御不能となり、一瞬にして光の柱となり、空へ駆け登った。
人々が目にした翡翠色の光の柱の正体に気付いていない者は、ただ綺麗な光だねと呑気だった。
エルミージュが暴走を起こした時、リオネルは衝動的に姉に駆け寄った。
キラキラと銀色が煌めく翡翠色の風と光が、部屋の中では荒れ狂う。
刃物のようになった激しい風がリオネルの頬を切り裂く。
それでも彼は、躊躇いなくエルミージュに近づき抱きついた。
しかし、抱きついても暴走は止まらない。
エルミージュはリオネルだと気付かない。
誰もが二人とも駄目かと思った、その時……
すべての音が一瞬消えた。
そして新たな白銀の光が突如現れ、暴走する魔力を優雅に包み込んだ。
白銀の光は、長身の男性の姿に形を変え、エルミージュの額にそっと指で触れた。
その瞬間、光の柱も、荒れ狂う風も消えた。
白銀の光から現れた男性は、異変に駆けつけたセルジオに何かを告げ、エルミージュだけを連れ去った。
◇ ◇ ◇ ◇
エルミージュが消え、人々は茫然と座り込んでいた。
リオネルは、セルジオの腕の中で我に返った。
「父上! 姉さまは? 姉さまは無事ですか?」
矢継ぎ早にセルジオを問い詰め、周囲を見回して姉の姿を探す。
「何が起きたのです? あの白銀の光は何ですか? 姉さまはどこですか!」
リオネルも白銀の光は見ていた。
セルジオはリオネルの問いに応える気はなかった。
「リオネル、今は休め。眠るんだ」
「嫌です! 姉さまのところへ行きます」
「リオネル!」
セルジオは魔力を込め、リオネルの瞼を手で覆った。
リオネルはその場に崩れ落ち、セルジオに抱きとめられ、深い眠りに沈んだ。
「エルミージュ……」
リオネルを抱き上げながら、セルジオの口から静かに、愛しい娘の名が零れ落ちた。
もっと早く、王家からエルミージュを引き離すべきだった。
ここまで信頼が崩れていたことに気づいてやれなかった……
安否不明の娘。
だが一縷の望みを、まだ捨ててはいなかった。
「この娘はわたしが預かる。心配するな、死なせはせぬ」
と、白銀の光の男性は言った。そして自分は風の精霊王だと名乗っていた。




