21 敬愛と秩序、仁王とリスの対話
OCG部の顧問、美琴先生とは
「美琴先生……普段からこんな感じなんですか?」
勇希は、少しだけ困ったように雫へ尋ねる。
雫は、淡々と答えた。
「ええ。慣れるしかないわ。」
「ひどい!?」
美琴先生が驚いた顔をする。
「私はこう見えて、ちゃんとした顧問よ!?」
「どこがですか?」
勇希が思わず突っ込むと、先生は得意げに胸を張った。
「私はね、昔、全国大会ベスト16まで行ったことがあるのよ!」
部屋の空気が、少しだけ変わる。
「……え?」
勇希が思わず聞き返した。
「そうよ! 全国ベスト16! すごくない!?」
「え、マジですか!?」
天才肌のデュエリストでもなければ、簡単にたどり着ける場所ではない。
たしかに、顧問をやっている以上、遊戯王に詳しいのは当然だろうが――
このリス、本当にすごいやつだったのか……!?
勇希は、完全に予想外の情報に戸惑っていた。
雫の淡々とした評価
「先生、またそれ言ってるんですか。」
雫が呆れたようにため息をついた。
「えー? だって事実じゃない?」
「たしかに全国ベスト16はすごいですけど、先生、最近まともにデュエルしてないじゃないですか。」
「そ、それは……!」
美琴先生は目を泳がせた。
「まあ、今は指導者としてがんばる時期っていうか……ね?」
「単に大会に出る暇がないだけでしょう。」
「そ、それもあるけど!」
勇希は、そんな二人のやり取りを見ながら、少しずつ美琴先生の人物像を理解し始めた。
顧問の役割、そして新たな指導
「とにかく!」
美琴先生は、話をまとめるように手を打った。
「君が本気でデュエルをしたいなら、私がしっかり指導するからね!」
「え……本気で指導?」
「もちろん! だって、せっかく才能があるんだから、それを伸ばさないともったいないわ!」
リスの目が、まるで獲物を見つけた猛禽のように輝いている。
(……リスって、こんなに鋭い目をするものだったか?)
勇希は、思わず息を呑んだ。
「あの、美琴先生。」
雫が、淡々と口を挟んだ。
「とりあえず、みんな待ってるので、部室へ戻りましょう。」
「……あっ。」
美琴先生、動きを止める。
「そうだった!」
机の上の書類をぐしゃぐしゃっとまとめると、勢いよく立ち上がる。
「よし、部室へレッツゴー!!」
彼女は颯爽と廊下へ飛び出していった。
まるで、木から木へと飛び移るリスのように。
「……慌ただしい先生ですね。」
勇希は、思わずため息をついた。
「慣れるしかないわ。」
雫の返答は、先ほどとまったく同じだった。
部室の扉が静かに開かれた。
そこに立っていたのは、杯派怒見廼高校OCG部の部長、肩仏角田朗。
彼の姿が目に入った瞬間、部室の空気がわずかに引き締まる。
それは決して威圧感ではなく、ただ彼がそこにいるだけで場が整うような、不思議な重みのある存在感だった。
「美琴先生、遅いですね。」
彼は穏やかに言った。
声は低く、落ち着いている。
「ん?」
美琴先生は、リスのように軽やかに動き、勇希たちの前にひょいと姿を現した。
「遅い? いやいや、部長くん、それは違うわよ! 私はね、教師なの! 超多忙なの! このOCG部のために全力を尽くしているのよ!? それなのに遅いとはどういうことかしら!?」
「先生が多忙なのは、存じ上げております。」
肩仏部長は、静かに頷いた。
「先生には、いつもOCG部のためにご尽力いただき、感謝しております。」
「……お?」
美琴先生が、少しだけ目を丸くする。
「先生が顧問を引き受けてくださらなければ、この部はここまで活動を続けられなかったかもしれません。部員一同、先生の指導をとてもありがたく思っております。」
彼は、深々と一礼した。
部室に、一瞬の静寂が訪れる。
「……ふ、ふーん。」
美琴先生は、少し頬をかきながら言った。
「まぁ、そう言われると悪い気はしないわね。」
「しかしながら。」
肩仏部長は、穏やかな口調のまま続ける。
「部活動には規律が必要です。時間を守ることも、部を運営する上で大切なことではないでしょうか?」
「……うぐ。」
リス、苦悩する。
部員たち、肩仏の誠実さを感じる
「……なんだ、この完璧な切り返しは。」
勇希は、小声で呟いた。
「肩仏部長って、先生のことすごくリスペクトしてるのに、全然遠慮しないですね。」
「うん、それが肩仏イズムよ。」
天保が、腕を組んで頷く。
「部長はルールに厳しいけど、それはただの堅物だからじゃない。OCG部をより良くするために、誰よりも真剣に考えてるからなんだよ。」
「……でも、美琴先生って、こう……自由な人ですよね?」
「だから、こうなるのよ。」
鈴が苦笑いしながら言った。
リスの最終奥義、開き直り
「……ううう、わかったわよ、わかった!」
美琴先生が、ついに両手を挙げた。
「次から気をつける! だから、今回は多めに見て!!」
「ありがとうございます。次回はどうか、よろしくお願いいたします。」
肩仏部長は、深く頷いた。
「……な、なんか負けた気がするんだけど。」
美琴先生は、リスのように頬を膨らませた。
「部長、ほんとに先生のこと好きですよね。」
天保が、ぼそっと呟いた。
「当然です。先生は我々にとって、大切な指導者ですから。」
肩仏部長は、それが当たり前のことのように言った。
勇希は、その言葉に少しだけ感銘を受けた。
……俺、本当にすごい部に入っちまったかもしれない。




