13 憧れと頼れる女先輩登場
騒がしい朝のやり取りに終止符を打ったのは、教室のドアを開けて入ってきた一人の教師だった。
「よーし、モーニングミーティング始めるぞー。」
教室に入ってきたのは、間壁間男先生。くたびれたジャケットにカフェラテを片手に持ち、眠たそうな顔で教室を見回した。
その瞬間、教室のざわめきはピタリと止まり、全員が一斉に席に戻った。
「さて、本日のお知らせだ。」
間壁先生は淡々とした口調で連絡事項を読み上げながら、紙コップのカフェラテを一口すする。その姿はいつもの飄々としたもので、クラス全体に「学校が始まったな」と感じさせる独特の雰囲気を醸し出していた。
モーニングミーティングが終わり、クラスメイトたちはそれぞれの授業や活動に向けて動き始めた。勇希も自分の席を立つと、今日の予定を頭の中で整理しながら廊下に出た。
OCG部の活動は放課後、運営委員会の準備は昼休み……その間に授業もちゃんと受けなきゃな。
二足のわらじ生活が今日から本格的に始まる。勇希は少し緊張しながらも、胸の奥でわくわくする気持ちを感じていた。
教室の外で待つ鈴と天保
廊下に出ると、すぐに鈴と天保が待っていた。
「勇希、今日はいよいよOCG部の活動初日だね。頑張ってね!」
鈴が明るい声でそう言うと、天保が横から茶化すように口を挟んだ。
「いやいや、そっちだけじゃないだろ。運営委員会もやるんだぜ、勇希君。昼休みに書類運びとかやらされるんじゃないか?」
「そんな言い方しなくてもいいでしょ。」
鈴が少しむっとした顔で天保を睨むと、天保は肩をすくめて笑った。
「いや、別に悪く言ってるわけじゃないさ。ただ、勇希みたいな不器用なやつが本当に全部やれるのかって思っただけだよ。」
「やれるよ。」
勇希は静かに、しかし力強くそう言った。その言葉に、鈴が少しだけ驚いた顔をし、天保は「おお?」と面白そうに目を細めた。
「ま、せいぜい頑張るこったな。俺は俺で楽しく見守ってやるよ。」
天保がそう言いながら去っていくと、鈴が勇希に向き直った。
「本当に無理はしないでね。何か困ったことがあったら、私に言ってよ。」
「ありがとう、鈴。大丈夫だよ。」
その優しい言葉に、勇希は少しだけ顔を赤らめながら答えた。
昼休み、勇希は教務課前に立っていた。そこには、既に待ち構えている笑華の姿があった。
「ユウ君!遅いよ~。」
「いや、チャイム鳴ってすぐ来たけど。」
「いいからいいから、こっち!」
「ねえユウ君、これからよろしくね!ユウ君が入ってくれて、委員会も盛り上がるよ!」
笑華の言葉に、勇希は少しだけ照れながら「よろしくお願いします」と頭を下げた。
放課後、勇希はOCG部の部室に足を運んだ。そこには既に鈴や天保、そして他の部員たちが集まっており、デュエルの準備が始まっていた。
「お、勇希、来たか!」
天保が声をかける。部室の中には、肩仏部長の姿もあった。鋭い目つきでデッキをシャッフルしている彼の様子に、勇希は少しだけ緊張しながら席に着いた。
いよいよ始まるんだな、俺の新しい挑戦が。
勇希はデッキケースを手に取り、自分の「緑血族の覚醒者」が輝くデッキを見つめた。
肩仏部長の大声
「集合!」
その一言で、部室にいた全員の動きがピタリと止まる。デッキを手にしていた部員たちが一斉に顔を上げ、中央に集まってきた。
「今日から新しい部員が入ることになった。」
肩仏部長は鋭い目で部員たちを見渡すと、大きな声で続けた。
「紹介する。武東勇希君だ!」
突然名前を呼ばれ、勇希はビクリと肩を跳ね上げた。そして、おずおずと前に出ると、部室中の視線が一斉に自分に向けられるのを感じた。
やばい、みんなの目がこっちを見てる……。
緊張で喉が渇くのを感じながら、勇希は一歩前に出て、深呼吸をした。そして、少し震える声で挨拶を始めた。
「えっと……今日からOCG部に入ることになりました、武東勇希です。まだまだ初心者ですが、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」
その言葉に、部室の中から拍手が起こった。一部の部員が「よろしくなー!」と声をかける中、勇希は少しだけ肩の力を抜くことができた。
「おいおい、初心者なんて言うなよ。昨日のデュエルで俺といい勝負してたじゃねえか。」
天保がニヤリと笑いながら口を挟むと、勇希は慌てて首を振った。
「いや、全然勝負になってなかったし……。」
「そうだよ、天保!勇希はこれから頑張るんだから、茶化すのやめてよね!」
鈴が少しむっとしながらそう言うと、天保は「はいはい」と手を挙げて笑った。
肩仏部長の締め
そのやり取りをじっと見ていた肩仏部長が、一歩前に出る。そして、部員たちに向かって力強い声で言った。
「武東君が入ったことで、我がOCG部の戦力はさらに厚くなった。これからは、全員で切磋琢磨し、全国大会での優勝を目指す!」
その言葉に、部員たちは一斉に「おおーっ!」と気合いの入った返事をした。
肩仏部長の大きな声が部室に響き渡る。
「とりあえず、勇希君の指導係は雫君だ!雫君、よろしく頼む!」
部員たちの間から、スラリと立ち上がった一人の女性――石田雫。凛とした雰囲気を漂わせるその姿に、部員たちは自然と道を開けるようにして彼女を見送る。
黒髪のポニーテールに端正な顔立ち。落ち着いた瞳には冷静さと知性が宿っており、その佇まいは勇希に「近寄りがたい」と思わせるほどの威厳があった。
「分かりました、部長。」
雫先輩は肩仏部長に一礼すると、勇希のほうへ向き直った。そして、スラリと背筋を伸ばしながら静かに言葉を紡ぐ。
「武東君、今日から私が君の指導係になる2年の石田雫です。分からないことがあれば、何でも聞いてください。」
その凛とした声に、勇希は思わず姿勢を正した。
勇希の緊張
「あ、はい!よろしくお願いします!」
勇希は思わず大きな声で返事をしてしまった。その声に部室が一瞬静まり返り、天保が後ろで小声で「おいおい、緊張しすぎだろ」とクスクス笑うのが聞こえる。
うわっ、やっちゃった!
勇希は心の中で頭を抱えながらも、雫先輩の冷静な目を見つめる。彼女は少しだけ口元を緩めた。
「いい心がけだわ。まずは基本的なことから教えるから、ついてきて。」
雫先輩は部室の一角にあるテーブルへ勇希を誘導し、席に着いた。目の前にはデュエルフィールドが広がり、カードやスリーブ、トークンが整然と並べられている。
「OCG部では、部員同士の対戦はもちろんだけど、試合を想定した練習も大事よ。そのためには、まずデッキの構築と動き方をしっかり理解する必要があるわね。」
雫先輩はそう言いながら、自分のデッキを取り出した。カードがキラリと光り、その配置の美しさに勇希は思わず息を呑む。
「すごい……。」
「見とれている場合じゃないわ。まずは君のデッキを見せて。」
その一言に、勇希は慌てて自分のデッキケースを取り出す。そして、「緑血族の覚醒者」が中心となったデッキをそっとテーブルに置いた。
雫先輩の指摘
「なるほど、緑血族デッキね。」
雫先輩はカードを丁寧に並べながら、一枚一枚に目を通していく。その真剣な視線に、勇希は少し緊張しながらも期待を抱いた。
「いいデッキね。」




