五月の風は緑色か
カメレオンマン EP4「五月の風は緑色か」
「レオン君は、ゴールデンウィークはどっか行くの?」
桐子が尋ねた。
「ちょっと、ヨーロッパにね」
「ええっ、ヨーロッパ!いいなぁ〜」
パタン、 本を閉じるレオン。
「そうかい?」
「憧れるよ〜ヨーロッパ。パリとか行ってみたいなぁ」
夢見心地の桐子。
「旅行じゃないけどね」
「旅行じゃない?」
ヒューーン、ドカーン
迫撃砲の弾が宙を飛ぶ。
白煙が舞い、激しい爆音が響きわたる。
ガラガラガラ、ガラ
瓦礫の粒が雨のように降ってきた。遅れて、にぶい地響きが伝わって来る。
剥き出しになった鉄骨、コンクリート、壊れたカフェの看板が、かろうじて、ここが街だった形跡を残していた。
ジャリッ、
カメレオンマン、ゆっくりとその中を歩いて行く。
カタッ、足元に何かある。
瓦礫を退けると、埃まみれのテディベアがあった。そっと拾い上げる。
「うっ、」
テディベアは半分焼け焦げ、腕と脚がなかった。
それを抱きかかえ、遠くを見つめるカメレオンマン。
その向こうには、赤い炎が見える……
カシャカシャ、カシャ、
崩壊した建物の上に男が立っていた。
防弾チョッキにヘルメット、胸にはPRESSと書いてある。
戦場カメラマンだ。
カシャ、カシャ、
誰もいない無人の街に、シャッター音だけが響きわたる。
「まったく、酷いありさまだ」
カメラマン、瓦礫を乗り越え道のない道を進んでいく。
しばらく歩くと、目の前に大きな穴が空いている建物を見つけた。
ヒラッ、
その建物の窓に、白いカーテンがなびいていた。
「誰かいるのか?」
カメラマン、急いでその建物の中に入ってみる。
ギギー、
歪んだドアを開けると、
リビングは完全に崩壊していた。テーブルやイスは燃え尽き、壁の家族写真は、ガラスが割れていた。
カメラマン、奥のカーテンの部屋へ入ってみる。
カチャ、
中は子供部屋らしく、可愛らしい机やベッドがあった。アニメのポスターも貼ってある。
「血っ?」
ベッドには、大量の血が黒くなっていた。
「ここの子供は、どうなったのだろう……」
「……ちなみに、ここで壁画を描く必要はあるのでしょうか?」AIメルの声。
「何だい、いきなり」
壊れた壁に絵を描いているカメレオンマン。
「まったく効率的ではありませんね」
「爆弾で、破壊される確率70パーセント」
「いいんだよ、それでも」
筆を進めるカメレオンマン。
「パリからの帰り道、ロンドンに寄る必要もあったのでしょうか?」
「うるさいなぁ」
筆の手を止める。
「必要だったんだよ」力説のポーズ。
「そうでしょうか?あんな事のために迂回するのは、経費と時間の無駄遣いとしか思えません」
「また、勝手に計算している〜そういう所がメルの悪いクセだ」
「そうですか?」
サッサッ、筆を進めるカメレオンマン。
「早く撤退しましょう。ここは戦場です、爆撃を受ける確率……」
キュンキュンキュン、
ドカーーン
今度は、ドローンの爆発が起きた。
バラバラバラ、バラ、
破片が飛び散り、カメレオンマンの頭上に落ちてくる。
「もう、時間切れか」
ゴオオオオォォォ、
爆撃機が頭上を飛んで行く。
「あと、少し」
ドォーーーン、大砲の音。
「ラスト、一筆」
ササッ、「よし、完成!」
サイン、カメレオンマン。
「まったく、人間というものは理解出来ませんね」
ぼやくメル…
ガガガガガ、ガーーー
ドドドドド、ドーーー
轟音と共に進撃する戦車。
建物や道路、あらゆる物を破壊しながら突き進む戦車たち。車体にはZのマークがある。
地図が変わる、
戦車が通った後は、まるで何もなかったように平になっていた。
ドォーーーン、
大砲の音、
地面が揺れる。
ダダダダダ、ダーーー
突然、自動小銃の音が響いた。
「出て来い!」
兵士が、近くの壁に向かって銃を構えていた。
「そこに隠れているのは、解っているんだ!」
再び、警告する兵士。
壁の向こう、
手が上がる、白いハンカチが見える。
カメラを抱えて出て来るカメラマン。
「PRESS、ジャパニーズPRESS」
さっきのカメラマンだった。
「こっちへ来い」
兵士はカメラマンの腕を掴み、強引に跪かせた。
「これも、よこせ!」
カメラマンのカメラを奪おうとする兵士。
「それだけは、」
抵抗するカメラマン。
「早くよこせ!」
ガシッ、
殴られ、銃を額に押し付けられるカメラマン。
「わかったよ」
仕方なくカメラを差し出す。
「ちっ、せっかくの苦労が台無しだぜ」
兵士、カメラを持ち戦車に戻ろうとする。
「さて、コイツは捕虜にするかな、殺すかな?」
もう一人の兵士が薄笑いをする。
「俺の悪運もここまでか…」
項垂れるカメラマン。
「何だ、これは!!」
突然、別の兵士の一人が叫んだ。
そこには、
子供たちの絵が描いてあった。笑顔、躍動、手と手を繋いで遊んでいる子供たち。青と黄色、そして白と青と赤の旗が緑色に変わっている。
「………」
銃を下げ、その絵を見上げる兵士たち。
静音。
皆、ヘルメットを取り手を合わせる。
「友達…」
「チャンスだ、」
カメラマン、兵士からカメラを取り返し、その様子を夢中でシャッターを切る。
カシャカシャ、カシャ、
「まだまだ、俺の悪運も残っているぜ」
カシャカシャ、カシャ……
シューン、シューン
飛び跳ねて、瓦礫の街を去って行くカメレオンマン。
「何故、青と黄色の旗だけで描かないんですか?」メルの声。
「反戦メッセージとしては、効果的ではありません」
「しかも、青と黄色と白と青と赤を混ぜたら、黒ではないですか?」
「いいんだよ、メル」
「人の心は皆んな、緑色だからさ……」
「五月の風は緑色か」ーーーつづく。




