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おもいで精霊と何者でもない私  作者: 天乃 朔
第5章

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516 知らぬ処で……

「佐倉さん、私語は慎んでいただきたいわ」

「なぁに、あたしはぁ、聖女様なんだからー、少しは口の利き方に気をつけてよね」

「まあ、随分マナーのなっていない聖女様ですこと。聖女なら聖女らしく、すこしは品位を持ってはいかが?」


 今日も教室ではいつもの光景が繰り広げられている。これが日常というのも問題あるような気もするけど……、とにかく、何かと騒々しい杏子に委員長然とした董子が突っかかっていく。でもまあ、杏子が聖女に任命されることが決まったからか、董子の口調も幾分柔らかくなっているような気が……しないでも無い。

 あれから董子は別段変わったところはみせない。私と顔を合わせても『秘密を見たわね!』と迫ってくることもなく、もしかしてあの日出会ったことすら覚えていないのではないかとすら思えるくらいだ。


「…………」


 いや、私、如月明日葉の存在自体を忘れているってことはないよね?


「はは、まさかね」


 机の上には、ぽこぽこと転がる歪な綿埃―――もとい、猫耳精霊たち。私の側を気まぐれに入れ替わり立ち替わり、いつのまにか馴染みの三体に固定されていた。仮に“ひぃ”、“ふぅ”、“みぃ”とでも名付けようか。“ひぃ”はいつもチョロチョロして落ち着きが無い感じ。“ふぅ”は良くコロコロと転がって遊んでいる。“みぃ”は動かずジッとしていることが多くて、もしかしたら眠っているのかもしれない。

 そういえば、董子の肩についていた黒い綿埃も何だか精霊と似ていた気がする。あっちは、色も違うし、触れたらピカーっと光って消えたけどね。もしかして精霊も光を発して消滅、なんてことあるのだろうか?

 私は指先で精霊をツンツンと突く。

 お、意外、結構弾力がある。残念ながら? 閃光と共に消えたりはしなかった。

 精霊達はこれが撫でられているように感じているのか、目を細くして指先にスリスリと寄ってくる。


「や、やあ、如月さん……だったよね」


 私の行動を不審に思ったのか級友の男子(クラスメート)が話し掛けてきた。最近、話し掛けられることが多くなったような気がする。学院生活も終わりに近づいてきて名残惜しいのかもしれない。どうせならもう少し早くに声を掛けてくれればいいのに。


 そう、私の魔法学院生活は、まもなく終わりを迎える。


 一昨日、院への進学試験の中止が正式に発表された。

 情勢的に試験を実施する余裕がないとのことである。国の内外で複数のダンジョンが同時多発的に瘴気に汚染され、順次この世界からの切り離し作業が行われていたのだが、そのタイミングで王都の近辺に新たなダンジョンが発見された。それも切り離すことができないほど汚染された状態で。ダンジョンは僅かならぬ瘴気を発していのだが、既に汚染処理済みのダンジョンが近くにあったため、その瘴気の残滓だと思われて発見が遅れたと見られる。現在、汚染がダンジョンの外に広がらないように抑えているものの、いつ瘴気に覆われた魔獣がダンジョンから溢れ出してもおかしくない状況であるらしい。この世界に瘴気を撒き散らされたら、大変なことになってしまう。


『我々の世界への汚染を食い止めよ!』


 急遽王の勅命により軍の派遣が決定された。

 ……と、学院新聞に書いてあった。


 そう言う訳で、教師、学生を問わず騎士団に所属している者が多い魔法騎士科を始め、学院の他学科の教職員達も動員されることが決まり、この国家の危機に際し、進級試験など行っている場合ではないということである。

 だた、期末試験は通常通り行われるので、進学する院生の選抜にはそれを準用するらしい。本来期末試験は、外部の学校への進学や転入にあたり、成績証明書の作成のために一般的な科目を対象として実施される。魔法能力については、何かあった時に魔力保持者を管理するための登録が目的なので、実技試験は実施されず、各担当教官が評価を行うことになる。あくまで、魔力所有者の国への紐付けって訳。魔法による犯罪が行われた時に使用するとか、ナントカ……

 私の場合、魔法の実技についいては師匠に評価されることになると思う。一応、担当教官だし。


「…………」


 ねえ、師匠って学院への進学に影響力あると思う?


「……ふっ」


 ということである。

 本来実施される進級試験は、魔法騎士科や魔法戦士科の院生における武闘大会のようなもので、対戦までは行わないが、実技のアピールの場であり、私のように日頃パッとしない入学生にとって一発逆転のチャンスだったのである。

 師匠には私の能力を隠せって言われたけど、人生の掛かった試験だよ。ここで披露しなければ、いつ披露するんだ!

 なんて息巻いていたんだけど……な。その場が奪われてしまった。

 うーん、大人しく就職先を探すか……教務課で斡旋してくれないかな……


「あたし、聖女様なんだよー。なんだって許されるもん」

「その態度、どうかと思いますわ」

「えーっ、みんなこのままでいいって言ってくれてるしぃ」


 まだ飽きもせず杏子と董子の言い争いが続いている。彼女たち、実は仲がいいのじゃ無かろうか。

 杏子も董子も院への進学が決まっているんだってさ。


 いいなぁ、うらやましいなぁ……


 杏子はお勉強はアレだけど、魔法に関しては優秀らしい。更には、最近希有な能力である“神聖力”に目覚め、聖女様に任命されることになっている。日向会長曰く、杏子の神聖力自体は大したことは無いらしい。なんでもこのご時世、象徴的な存在が必要ということで、特例で聖女に任命されるということだ。


 さて、神聖力とは何ぞや?


 聞き慣れない能力である。前世のゲームにも登場しなかったと思う。その実態は―――、“浄化”の能力ということだ。杏子本人が言っているので間違いないと思う。

 浄化―――


 それって、汚い水を飲めるようにする能力?

                     (浄水器?)

 周辺の空気を綺麗にするとか?

                     (空気清浄機?)



 うーん……


 杏子を聖女認定するために過大評価したのだろうか?

 ま、“運命の娘”である杏子にそんなの必要ないか。でも、浄化って、何だか無属性っぽいから私にもできそうじゃない? ちょっと呟いてみることにする。


「「浄化」」

『ギィぃぁぁ……』


 突然、空間がカッと発光する。それから、辺りがキラキラと輝き、光の鱗粉のようなものが降ってきた。

 うわっ、びっくりした。

 これってもしかして、私にも浄化の能力が使えたんじゃない?


「あ、え、ええっと……どぉ? これが聖女様の能力よ」


 杏子の声が聞こえる。

 ああ、杏子が浄化の能力を使用したのか。何だ、私が浄化の魔法を使えたかのと思った……

 でも、浄化の能力が無くっても、私の魔法だって結構負けてないと思うんだよね。何たって空間を歪めちゃうんだよ。


 あ!


 この間追われていた時に空間を歪めて逃げれば良かったんじゃ無い? すっかり頭から抜け落ちていた。

 あの時のことを考える。

 野茨先輩と高砂先輩は魔王の手先なのだろうか?

 本当に魔王を降臨させようとしているのだろうか?

 そして―――、エピさんがあの場にいたのは、単なる偶然だったのだろうか?

 きっとそれらは、杏子の聖女任命式に明らかになるんだろう。

 そこで何かが―――ゲームのように魔王が降臨して、世界は滅亡に向かうのだろうか?


 でも、私には何もできない。


 私は主人公ではないし、況してや魔王でもない。絶対に無い!

 私は単なるモブのモブで、世界を救うのは、“運命の娘”である杏子の役目だから。きっと杏子が何とかしてくれるだろう。私はただ平穏な日常が続くことを祈ることだけ。


 そうだよね。きっと杏子が何とかしてくれるよ……ね。


 モブな私は目の前のことを考えよう。そう、目の前のこと―――それは、院への進学試験が正式に中止になったということ。


 そうだよ。就職先どうしよう。


 もうすぐ聖女任命式が行われる。

 きっと、この世界の主人公である聖女様が救ってくれる――――――たぶん。



     ***



 長い髪を後頭部で一つに結わえた少女が、「へ組」の看板が掲げられた教室の前で足を止めた。その立ち姿も凜々しい。


「ここに佐倉杏子がいるのか」


 彼女、“剣”達が目的を遂げる上で脅威となる存在。しかし、今は何をしようという訳ではない。ただ、その存在がどういうものであるか、気になっただけだ。

 “剣”は扉に近づいた。


「浄化」


 微かに声が聞こえたような気がした。突然光が“剣”を包み込む。


『ギィィィィィーーー』


 少女の肩に乗る黒い塊が悲鳴のような声を上げ、空間に溶け込んでいく。

 少女の身体が一瞬、ビクッと震え、それからパチパチと瞬きを繰り返した。


「ん? 私は何故、こんなところにいるんだ?」


 高砂小百合は、用も無い入学生の教室棟の廊下で首を傾げた。












 天井からボタっと黒い何かが落ちて来る。それは白い煙を上げ、半分溶け掛かった身体でモゾモゾと蠢く。


「主の剣を名乗りながら、嘆かわしいこと……」


 暗闇の中で巻き毛の美女が呟き、無慈悲な笑顔を浮かべる。


「まあ、いいわ」


 美女の肩に乗った黒いものがブルブルと震えると、急激に膨らみ牙を剥き、今にも消え入りそうな蠢く何かをごくりと飲み込んだ。



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