第三十七話「赤岳・晴天その10」
「さて、今回は山ごはんでも人気のパスタを作っていこうと思います。基本的には家庭料理からのアレンジなので普通に作っていただければご家庭でももちろん楽しめる味です。早速材料から見ていきましょうか。今回は二人分の材料を使います」
「四人いるっつってんだろ」
「一回に四人分作れないんだよ」
・パスタ 2人前
・レタス 1/2個
・アスパラガス 5本
・ベーコン 4枚
・パスタソース(ドレッシングタイプが望ましい。ペペロンチーノのでも可) 適量
「まずは山ごはんの基本になりますが、下ごしらえはゴミを出さないためにもご家庭でお願いします。えー……っと、下ごしらえ部分いる?」
「作りながらお願い」
「ただの独り言じゃん」
なんで料理番組もどきをやっているのかというとたった数分前に資格持ちだということを持ち上げられて会長や吉岡から「高山先生!」と若干揶揄の入ったコールを頂いたからである。すごく自然な流れだ。
「レタス、アスパラガス、ベーコンは一口大に切ってジップロックに詰めておきましょう。ではこれらの具材から炒めていきます。油は無くていいのでとりあえずベーコンを炒めます。そこにレタスとアスパラガスを入れてしなしなになるまで炒めましょう」
「先生、何かここでポイントは」
「……無茶振りじゃない?」
「でも視聴者の皆さんは野菜を炒めるのに不安があったりするわけじゃないですか。何かポイントを」
「野菜炒めるの苦手って奴見たことないんですが」
「ポイントを」
どうしても言わなきゃいけないのか……?あっという間に野菜に火が通る。
「……焦がさないようにしましょう」
「ありがとうございます。野菜は焦がさないようにしましょう」
「野菜に火が通ったら、パスタと少量の水を投入します」
「先生、ここが一番のキモなんですよね」
「はい。基本的に山では麺類の茹で汁は捨ててはいけません。そうなると、全て水を吸わせるか、スープとして頂くしかございませんね。ですがこれはスープパスタではなく普通のパスタです」
「何かポイントは」
「今言ってんだろ」
桐生が俯く。多分笑ってるのだろう。
「使用するパスタですが、今回はサラダに使う短いものを使用しています。普通のパスタを折って頂いても構いません。山に行く前に、口の広い瓶などの容器にたっぷりと水を入れてそこにパスタを投入し一時間ほど水を吸わせます。パスタが白くなってふにゃっとしたら水を切ってジップロックに詰めましょう」
「テレビで見たことあるんですけどこれパクリですよね」
「……パクリですね」
「先生これは資格の剥奪ということでよろしいでしょうか」
「こうすることでパスタを茹でる際に「無視ですか」少量の水でもきちんと茹で上がります。「無視ですねこれは」なお、一度に大量にパスタを投入すると「視聴者の皆さんに申し訳ないとは思わないんですか」エラいことになるので、大人数の場合は数回に分けて「反省の言葉を」作りましょう。うるせぇぞ」
上手くいくか正直不安だったがなんとか綺麗な色になったようだ。家で一回やらかしといて良かった。失敗は成功のもととはよく言ったものだ。
「パスタの色が戻ったらソースを投入します。水を吸っているので茹で時間は少なくて良いです。今回はドレッシングタイプのソースを使用しますが、具材的にはペペロンチーノのソースを使っても美味しいかもしれません。基本的に応用が効くようになってますので是非お試しください」
「先生こちら、料理名を教えてください」
「無茶振りですね」
「でないとこれがなんなのか分かりません」
「明らかにパスタですね」
「ミートソースには見えませんよね」
「当たり前ですね」
「ではなんですかこれ。なんと呼称すれば良いのですか」
「えー……お手軽簡単!レタスとアスパラベーコンのパスタです」
「先生これは、ネーミングセンスがないので資格剥奪ということで」
「ではお召し上がりになってください」
最初はボケに徹した会長と、視聴者その一の吉岡が食べる。
「頂きます。あれ、普通に美味しい」
「そりゃそうだろ」
二回戦目のパスタを作り終えて桐生に渡す。さっきから目を閉じたりしていていかにも寝る体勢に入っていた。
あくまでクールな表情を崩さずもそもそと食べる。
「何見てんだよ」
「感想をどうぞ」
「……美味い」
「そりゃ良かった」
正直なところ余程の料理音痴でなければ誰にでも美味しく作れるパスタだ。舞い上がったってしょうがない。
……まぁ上手くいったかな。いつもの味だ。
「なんなんだねキミたちはさっきから人がカップ麺食ってる横で香ばしい匂いさせやがってからに」
「なんでお前が来るんだよ」
自分のテントからのそのそと星野が「メシテロじゃあメシテロじゃあ」と鳴きながら這い出てきた。
「ウチは今、美味しいもの警察です。明日香ちょっと食べさせて」
「やらねぇよ」
「じゃあ舎弟でいいや。あーん」
突発的なあーんだったがそこは舎弟。体が反応する。そういえばこんな感じで修学旅行の弁当食べさせたなぁ。今となっちゃ苦い思い出だ。
「んー美味い。誰が作ったん?場合によっちゃ連行するけど」
「俺だよ」
「なら常識的に考えてウチの分も作るはずだよね」
「常識的に考えれば遭遇するなんて思ってもみなかった星野の分を用意してるわけないんだよなぁ」
「そこは用意するんだよ!舎弟とボスは引かれ合うんだから察しなよ!」
「スタンド使いじゃないんだから無理だろ」
「じゃあ、あーん」
体が反応する。もそもそと咀嚼した後でまた口を開けるので突っ込む。その繰り返し。
「高山、ご飯なくなっちゃうね」
「ウチの行動食分けてあげるよ」
「飯くわせろよ」
流石にパスタだけでは物足りないので市販のポタージュを作り、ロールパンも添える。皿の汚れをなるべく落とすためにもこのロールパンはセットで用意するのがベストだ。少し油っこいソースがパンにマッチして美味しい。
食べたなぁ……。しかし、満足感はあっても満腹感がない。まだ足りないような気もするのは何故だろう。星野からもらったカロリーメイトを咀嚼する。
テント場の朝と夜は早い。早い人は夕方ごろには寝て、夜明け前には出る。俺たちは早く出る必要がないので、日の出と共に行動開始がベストか。
八月の夕方ではまだ星もまばらだったが、今日は深夜から運転しているので夕闇すら待てない。頭の中はほとんど空っぽなのでさっそく寝袋に足を突っ込む。
「流石にまだ暑いな」
高所とはいえ、夕方過ぎでも涼しいことは涼しいのだが寝袋にすっぽり包まれたいと思うほど涼しくはない。
上半身は投げ出された状態でそのまま深い眠りにつきそうだった。
山には行くが登らない日々が続く。




