↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/51

第二十三話「妙義山・晴天その1」

 国道十七号。埼玉県中央付近を通るこの道を北側へと進んでいく。若干の雲があるが一応は晴れている。 棒ノ嶺で鎖場を体験した俺は次の山行も鎖場を使いたいと思い、そういえば北関東は攻めていなかったことを思い出して、日本三大奇勝の一つである妙義山を提案した。

 三人で「いいじゃん」なんて言い合って次の山行に期待を寄せていたのだが、どうしてこんなことになった。


「……そろそろコンビニ寄る?」


「まぁいいんじゃねぇの」


 後部座席からの無反応。そりゃそうだ。いねぇもん。

 吉岡はここ最近の気温差にやられて風邪を引き、会長はというと急遽バイトの面接の日程が変更になった。これは次の機会にとも思ったのだがこれから先の天気が荒れそうなので逃すわけにもいかず、どうせ二人きりは断るだろうと思った俺はソロ登山も考慮しながら桐生に聞くと「連れてけ」と一言。


 そろそろ彼女の存在にも慣れてきたが、隣にいる彼女には相変わらずの言いようのない距離を感じる。



 十七号からバイパスへの分岐を進むと群馬まではほとんどこれ一本だ。道が単純なことは良い。迷わなくて済む。

 ただ、埼玉のど田舎、しかも農作地帯を北上するので時間が経過しても山という山は現れない。改めて盆地だということを思い知る。暑いぜ熊谷。


「……」


 なんか話さなきゃかな。お気に入りの音楽も控えめの車中、話を切り出す。


「最近どうよ?」


「……なんのことだよ」


「いや、ほら、色々さ。吉岡も来るようになって、結構やかましくなったじゃん。勿論いい意味でさ」


「まぁそうだな」


「そういや登山って会長と一緒に始めたん?」


「いや、あいつと山登ったのは数年前とかだ。別に興味もなさそうだったしな」


 そりゃ二十歳そこそこで登山に興味なんて山岳部とかでも入らない限り珍しい類ではある。


「じゃあ、桐生はそれより前から山に行ってたんだ」


「まぁそうなるな」


「羨ましいな。その頃俺は学校と家の往復だったからさ。世界がすげぇ狭かったもん。たまには桐生どうしてんのかなって思うこともあったけどさ、心配して損したわ」


「手前に心配してもらうような生活送ってねぇよ」


「まぁそりゃそうだ」


 会話終了。手応えは以前よりあるはずだ。

 群馬に入って数十分でようやく山が見え始める。だが奇岩で知られる妙義の姿はなく、ありがちな山が広がるだけだ。


「割と近いはずなんだけどなぁ」


 おそらくは他の山に囲まれて死角になっているのだろう。

 そこからさらに車を走らせ、登坂車線すらある急勾配の坂を降りた時に妙義山は急にその姿を現した。


「……うっわぁぁ!すっげぇ!!すっげぇよ!!」


「いきなり大声出すんじゃねぇ」


 そうは言っても。屹立する荒々しい岩肌は遠くから見ても実に厳かだ。武甲山のような人の手が入っていない状態であの山容だ。大声を出して感嘆というか興奮せずにいられるか。


「……まぁ確かにすげぇな」


 桐生は窓越しの妙義山になんだかんだ言いつつも目を奪われているようだ。

 姿が見えてからは早いものだ。登山口である妙義神社へは十数分ほどで着く。しかし高山、これを華麗にスルー。峠道を更に奥の方へと進みもう一つの登山口である中ノ嶽神社の大駐車場まで車を走らせる。


挿絵(By みてみん)


 七時すぎには駐車場へ到着。停まっている車はまばらもまばらで登山客や、ドライブで来たような客が数人いるのみ。ここからでも妙義の岩山を一望できるので車から降りて私服姿で山を仰ぐ人の姿もある。


「……しくじった」


 ザックを置くこともないままポケットに手を突っ込んだ桐生が立ち尽くしている。


「どした?」


「髪ゴム忘れた」


「あぁ…」


 桐生はこだわりでもあるのか、必ず山についてから長い髪を束ねる。妙に風の強い今日、宙に舞う金色は邪魔で仕方ないだろう。


「……ま、しょうがねっか。命に関わるもんでもねぇし」


挿絵(By みてみん)


 中ノ嶽神社の鳥居で一礼して、今日一日の山行の無事を祈る。境内には妙な存在感を放つ金色の巨大な大黒様が出迎えてくれる。縁起の良さカンスト気味。悪趣味とは言わないが凄まじい景観である。


挿絵(By みてみん)


 更に奥に進むと鳥居を越えた先に長い長い石段が登場する。朝の湿り気を帯びた空気の中にそびえる階段はまるで異界への入り口の様。

 登山を始めた頃なら絶望すら覚えたであろうこの石段も、だんだんと健脚になりつつある俺には


「ぐ……はぁっ、はぁっ」


 あれ、なんかおかしいぞ。


「もうバテてんのか?」


「バテちゃいないけどさ、」


 その後に続く言い訳を喉の奥にしまい込む。

 この石段、やたら一段一段が大きい上に、大きさもまばらで、一段一段が狭い。お年寄りがバランスを崩そうものなら一瞬で転げ落ちてしまう凶器。


挿絵(By みてみん)


 ゆっくり歩きながらやっとの思いで乗り越えた階段の先に登山道はある。妙義の大きく荒々しい岩山の登山は開始直後からガレ場が続く。そして地味に勾配がキツい。一応、慣れ始めてはいるのでこれくらいならなんとかなるのだが……つくづく鷹ノ巣山を経験しておいて良かった。口癖が「あれと比べれば」になりつつある。


挿絵(By みてみん)

ガレ場を越えると通常の登山道に戻るのだが、早速分岐がある。片方の登山道に置かれたいくつもの注意喚起。この先、一般登山者の立ち入りお断り×3。どれだけ険しい道なんだ。


「この先は表妙義縦走路って言ってな、お前も登山始めたんだからもう日本で一番難しいルートは知ってんだろ?」


「あぁ、穂高岳んとこだろ?」


 穂高岳、西穂〜奥穂縦走路。日本で最難関と言われるルートである。中でもジャンダルムと呼ばれる巨岩が険しい稜線上にそびえ、フランス語で憲兵を指すその言葉通り、稜線を通過する登山者の前に立ちはだかる。

 山と高原地図の難易度表記は最高難度の更に上。上級者でさえお断りという登山客のラスボス的存在である。


「それと同じ難易度だ」


 ……だそうだ。


「表妙義縦走路は今見えてるピーク同士を繋いでくんだよ。見りゃ分かるが尾根なんてもんはねぇから、とっかかりのない垂直の鎖場を登ってかなきゃなんねぇ。棒ノ嶺ん時、なるべく鎖を使うなって言ったけど、あそこだけは例外で鎖と登山靴のソールのグリップ力だけで登ってくんだ。それが見ての通りいくつも続く。一般登山道は三時間くらいで通過できるがあれはコースタイム十時間だからな。体力と気力と技術力と運をフルで使わないとダメなコースだ」


「……お前、結構喋るな」


「うっせぇ。今日は楓いないだろ」


 たしかに今のは会長の役割だ。っていうか下の名前で呼ぶのか。俺なんか会長の名前忘れてたぞ。


「……やるか?」


 看板の先へ続く道を指して桐生が尋ねる。


「やらねぇよ」


 とにかく不安と何に対してかもわからないような期待の混じる山行が始まった。

お詫びの二連投。最近「読みたいことを、書けばいい」という本を読みました。誰に向けて書いてたか分かんなくてなかなか筆の進まなかったこの話がこれを読んでかけるようになりました。マジだ。なんか書くのやんなっちゃったり、筆進まなかったりしたときはこれを読めば書けるようになる。マジだ。

さて、妙義です。もうそろそろ行ってからひと月近く経ちます。んで、こ れ 以 降 の 山 行 は 悪 天 候 に よ り 行 っ て お り ま せ ん 。全部雨が悪い。次回からボルダリング、筋トレ、ランニング小説になります。嘘です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。