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第十三話「高尾山~小仏城山・晴天その1」

 登山が好きでお洒落な女の子のことを山ガールなんて言うらしい。登山ギアも可愛いものに、一緒に行く友達や彼氏には細やかな気配りをし、昼時には自ら腕をふるって山ご飯。


 くそったれが。


 登山用品店で一気に買い揃えた私の装備は、山登りして花の写真を撮るおばあちゃんみたいだ。山ご飯なんて出来そうもない。もともと簡単な料理しか作れない。

 そんな私は山ガール。んなわけない。格好こそ違うものの、心意気はもはや山伏のように険しいものになっている。


 待ち合わせ場所の懐かしの学校前の駐車場。一台の車が止まる。何度か乗ったことがあるので高山の車だというのがすぐに分かった。


「よう。よく起きられたな」


「起きようと思えば起きられる」


 車から出て伸びをする彼と最後にあったのは半年前。話したのは昨日。改めて考えるとなんだかおかしい関係だ。


 「会長とかはもう少し遅くなるから先に色々買い込んどこうぜ。つか何気に俺より早く来てんのすげぇよ」


 待ち合わせには確かに早すぎたかもしれない。休日は昼過ぎまで寝てる私なりにかなり頑張って起きたのだ。

 行動食と軽い朝食を買ってコンビニのベンチで二人を待つ。やってきた見覚えのある顔の山ガールふたつ。割と相変わらずの感じだけど背が少し高くなったかもしれない。


 朝日に照らされる金髪の女性。桐生……明日香。本物だ。本物の桐生さんだ。


 今でも鮮明に焼き付いてる。時が止まったような体育館に響き渡った体育教師の怒号と硬い拳の音。鼻から流血した体育教師と敢然たる姿勢を崩さない小さな体躯。その場にいた全員の心臓を止めた、元ヤンキーみたいな顔の鬼の体育教師に殴りかかるという凶行。

 あの一件で退学処分になった彼女は昔と変わらない出で立ちで私たちの前に現れた。


「美優ちゃんおひさー」


「会長、久々だね」


 その隣に立った会長は相変わらず綺麗だ。天は彼女になにもかも与えすぎだ。もう少し平等に容姿や能力を分け与えるべきだ。

 ふつふつと沸き立つ嫉妬心を隠しながら、久々の会話を続ける。仲が良かったわけじゃないから言葉に困る。会長が誰とでも仲良くしてただけなのだ。


 会話の中にできた一瞬の間に私は振り返った。二人の声が聞こえないかと思ったら、ベンチに座ってのんびりタバコを吸っていたのである。なにを話すわけでもないけど、眠そうに煙を吐く二人がどこかお似合いだったのが少し胸を苦しめた。


 車に乗って数十分、朝六時前の空の下、高速道路を走っている。寒いけど、私の隣にある窓は全開だ。だってこうでもしないと、


「美優ちゃん寒くないの?」


「まさか会長まで喫煙者だとは思わなくって」


「あーそっか、美優ちゃんタバコの煙ダメな人か」


「そこまで嫌いってわけじゃないけど」


 こんなほぼ密閉空間で三人が同時にタバコ吸えば煙くもなりますわ。窓はもちろん開いてるけど、ほとんど意味成してないし。


「悪いが辞める理由がない」


 まだ遠くにある山を見ながら桐生さんが言う。いや、山登ることって案外禁煙の理由になったりしませんかね。一応はおニューの服が紫煙に犯される。


 まだなんとなく薄暗いけれど今日はこれ以上はないってくらいの晴天らしい。すべてが目覚めきってない朝の時間、珍しく起きて家の外にいる私にはすべてが新鮮だった。



 午前七時半、高尾山市営駐車場。


「なんで一回ここに来てんのに迷うんだアホ」


「この前下道だったんだよ!まだ時間は早いから良いだろ!?」


 高尾山ICを降りてすぐ、高山がうろたえ出したのでどうしたのかと思ったら迷ったと言い出した。本来なら十分もしないでたどり着ける距離だったのに、三十分近くのロスだ。ナビついてて迷う人がいるのか。方向音痴が山登りって死亡フラグじゃない?

 ともかく一難あっても市営駐車場に着いた。


「どっから登るの?」


 ザックを背負い、準備万端の私は高山に尋ねた。


「登山口はまだ先だ。今のうちにトイレ済ませとけ」


 答えたのは桐生さんだった。格好こそ山ガールだけどちょっと怖い。普段の会話からして凄まれてる。


 京王線高尾山口駅のトイレで用を済ませて眺める山並み。私でも分かる。この山は大して高くない。でも登れるかどうかと言われるとぐぐぐと自然に喉が鳴る。

 そこから少し歩き、蕎麦屋さんの立ち並ぶ通りを抜けて目の前に現れる「高尾山」の文字。ケーブルカーの駅のようだ。すでに何人か駅で並んでいてアナウンスの声が響いている。

 ケーブルカーの駅の脇へと向かう人たちは私たちよりも奥に向かっていって、私たちはその手前で止まる。高尾山稲荷山コース。小さい川を渡った先からすでに上り坂が始まっている。


「稲荷山コースはちょっと長いけど歩きやすいからここにしとくか」


 高山がベテランのような口ぶりで言った。お前この前始めたばっかだろ。

 慎重に踏みしめる第一歩。この日の為にできるだけならしておいた登山靴は妙な重厚感を醸している。何度歩きづらいと嘆いたことだろうか。

 歩いて数十秒後、いや、マジだ。誤植じゃない。息がすでに切れてる。楽しいんだか何だかよくわからない三人を見ると息切れしてるようには見えない。上り坂キッツ。少し登ったところにある小さなお稲荷様で三人が私を待っていた。


「大丈夫か?」


 なんか余裕そうな高山が尋ねる。


「さすがに、舐めすぎだよ高山。私、まだ全然行ける」


 だめだ説得力ねぇ。


 はっきり言って意地でここに来てる。山登ることに前向きの印象なんかない。この二人に高山との時間を取られて暇を持て余すのが嫌だった。ただそれだけだ。

 ただそれだけで登れるのだろうか。それだけが不安だ。


「天気ならこっからでも色々見えるんだなぁ」


「あん時は本当に何も見えなかったからな」


「高山はともかく、桐生はなんでそんな日に登ったのよ」


「暇だったから」


 すでに汗が止まらない。少し間を空けながら進む三人は涼しい顔をしている。

 木立の影から見下ろす圏央道から車の音が響き渡って聞こえる。まだまだ序盤なんだろうけど、それでも高くまで登ってきたようだ。威勢のいい音の割には車はミニカーよりも小さく見える。


「美優ちゃん無理しないでね」


 歩行ペースを合わせてくれるのは嬉しいけど、はっきり言って偽善っぽいなって思う。会長は昔っからそんな感じだった。誰からも愛される人間なんていない。仮にいるとするなら誰かを嫌いになりながらも取り繕って生きれる人だ。そういう人の優しさや笑顔には恐怖すら覚える。


「大丈夫だよ会長」


 かくいう私もそういう人間だけど、私の人望は少ない。世渡りは下手くそだ。

 先を行く高山の背中を睨みつける。私が来ることの意味を、意義を、お前に見せつけてやりたい。

 意地だけが私の足を動かした。

高尾山もう書いたし書くことないな。大丈夫かな。

つい先日も同じルートで小仏城山まで登ってきました。あいにくの曇天でしたが。

この話で書くつもりはないんですけど、五月十七日はもう毛虫がそこら中にいて悲鳴上げながら登ってました。山登るのに虫駄目なのかおめーはよぉ。んでついこのまえ、六月八日に登ったら全部蛾になってました。もうそこらじゅうに白い蛾が飛んでるの。気色悪い見た目じゃないから遠目から見ると「ちょうちょがいっぱいだぁ」って感じです。毛虫よりは全然マシだ。高尾山は行く季節考えようね。

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