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20 仲間割れ


「いってぇ……」


 気付けば、地面へうつ伏せに倒れていた。爆風に煽られ、吹き飛ばされたらしい。

 顔を上げると、体表を覆う多量の土砂。爆発の威力を肌で感じながら、両腕に力を込めて上半身を起こした。


「がうっ!」


 耳元でラグの鳴き声が聞こえ、定位置である俺の左肩へと着地してきた。


 右手の紋章は嘘のように静まり、普段と変わらない様相を見せる。全ては夢だったのではないかと疑ってしまうが、目の前には累々と横たわる魔獣たちの死骸。戦いはまだ終わっていない。ここに確かな現実がある。


 前方で戦っていた三人が気になり、即座に視線を巡らせる。しかし、魔獣の死骸ばかりで肝心のあいつらはどこにも見えない。最悪の展開が頭を過ぎるが、レオンも魔力結界を発動させてくれていたはずだ。


 すると、爆発地点からかなり離れた場所に、アルバンとモーリスの姿を見付けた。どうやらあそこまで弾き飛ばされてしまったらしい。背後にはシルヴィさんたちも確認できたが、倒れたまま誰一人として動かない。


「レオンはどこだ? 動けるのは俺だけか」


「きゅううん……」


 しょんぼりとしたラグの鳴き声に、吹き出してしまった。


「なんでおまえが申し訳なさそうにしてんだよ。それに俺だけが無事だってのも、おまえのお陰かもしれねぇし」


 竜の力同士がぶつかり合い、威力を軽減させた可能性は大いにある。足下に転がるCの長剣ロングソードを拾い上げ、前線へ足を進める。


 死骸から立ち昇る白煙と、焼け焦げた肉の匂いが鼻を突く。竜の吐息ブレスを再現したような惨状に、改めて伝説の存在の力を見せ付けられた気分だ。


 動いている魔獣は皆無。残さず駆逐されたようだが、Gの姿もない。


「ひょっとして……」


 魔獣の下敷きになってしまったとしたら、探すのは一苦労だ。


「ラグの鼻で探せねぇのか」


「きゅうぅぅん」


 相棒は、うな垂れながら即答だ。


「はいはい。俺が悪かったよ」


 みんなを起こして、しらみつぶしに探すしかない。そう思った時だ。


「そうか。あれがあるじゃねぇか」


 胸ポケットにしまっていた通話石を思い出した。声を通せば、Gの持つ片割れから音が漏れるはず。


「ぐぅっ……」


 苦しげな呻き声と共に、草木を揺らす音が聞こえた。

 咄嗟に剣を構えたが、茂みからゆっくりと現れた人物に驚いた。


「レオン!?」


 緩慢な動作で大木に手を付き、体の具合を確認している。だが、あいつの立ち位置に違和感を覚えた。


 アルバンとモーリスに守られて戦っていたはずが、レオンだけかなり後方まで下がっている。その理由に気付くと、込み上げる怒りを抑えられなくなっていた。


「レオン、どういうつもりだ」


「何が?」


 意味が分からないという顔のレオンを睨む。魔獣の死骸を踏み散らかして眼前へ詰め寄り、軽量鎧ライトアーマーから覗く二の腕を強く突いた。


「何が、じゃねぇだろうが。自分だけを魔力結界で守って、二人を見捨てたのか」


 すると、呆れたような苦笑を浮かべたのだ。


「結界はちゃんと張ったよ。でも、あんたの攻撃がその強度を上回って、弾き飛ばされたんだ。少しでも衝撃を緩和するために、風の魔法をぶつけて後ろに飛んだだけ」


 レオンに悪気はない。こいつはきちんと、やるべきことをやっていた。


「悪い。俺の早とちりだ」


「それに言ったはずだよ。戦士の端くれなら自力でしのげって。弱ければ死ぬだけなんだ」


 その目が真っ向から俺を見据えた。


「しかも俺には、あの二人を守る義理も恩もない。昨日今日、会ったばかりの相手へ簡単に心を許すなんて、どこまで甘いんだ」


「なんだと」


 怒りと共に、フェリクスさんの顔が過ぎる。あの人はどうしてこいつを仲間へ入れたのか。


「碧色の閃光。とことん期待外れだね」


「あぁ、そうかよ。悪かったな」


 言い返した途端、今度は俺が胸を押された。


「がうっ!」


 上空へ飛び上がったラグの姿が視界へ映る。その直後、背中へ何かがぶつかる感覚と共に、体を紫電の渦が駆け巡った。


「ぐあぁぁぁっ!」


 頭頂から足先まで、全身を針で刺されたような鋭い激痛に襲われた。目の前が暗くなり、魔獣の死骸の上へ膝を付いてしまう。


 倒れそうになる体を四つん這いで支えたものの、全身が痺れ、思うように動けない。

 間違いなくいかづちの魔法。これはクロコディルの能力じゃない。


「やってくれたな。碧色」


 背後からの声にどうにか顔を向けた。数メートル先へ、魔獣の下から這い出してくる痩せぎすの人影。落ち窪んだ瞳が、恨むように俺を見ていた。


「仲間割れとは呑気だな。ここは酒場か? まぁ、てめーを突き飛ばす辺り。二物の方は仲間とも思ってねーって顔だな」


 視界の片隅には、ソードブレイカーを構えるレオン。俺を突き飛ばして盾代わりにするとは信じられない奴だ。

 しかし、さすがのGも先程の爆発で手痛い傷を受けたらしい。這い出してきた動きは鈍く、精細さに欠けている。


「G。てめぇは俺が倒す」


 電撃の痺れが消えれば条件は五分。竜臨活性ドラグーン・フォースも使えない。マリーの癒やしの力で倦怠感は晴れたが、効果は一時的かもしれない。身も心も限界は近いが、ようやく追い詰めた。


 視界に映った加護の腕輪。魔力障壁プロテクトの残量を示すラインは橙色。残りは四割程度だ。

 Gにもまだ手札が残っているのだろうか。降参する素振りもなく、不適に微笑んでいる。


「碧色。そこの馬車へ隠しておいた手荷物に気付かなかったのは失敗だったな。魔法石は、てめー専用だとでも思ってるのか」


 余裕の笑みを浮かべ、足下の道具袋から短剣を取り出したG。抜き放たれた刃が月光を怪しく照り返す。

 その光景に、レオンも武器を構えた。


「あいにく、あんたに止めを刺すのは碧色じゃない。この俺だ」


 瞳に宿るのは、深い憎しみの色だ。


「魔獣を操って人々を襲うなんて鬼畜の所業、完全に狂ってるよ。俺は、あんたの存在自体が絶対に許せない」


 その憎しみの眼差しを物ともせずに受け流し、Gは尚も不適に笑う。


「てめーもさっき言ってただろーが。弱ければ死ぬだけってよ。強さと賢さを持つ者だけが真の勝者だ!」


「消えろよ。外道が」


 剣を手に、前傾姿勢で駆け出すレオン。


(そら)駆ける風、自由のあかし。この身へ宿りて敵を裂け……」


 左手へ白の魔力光が生まれる。それを待っていたようにGも動いた。


斬駆創造ラクレア・ヴァン!」


 レオンが風の刃を繰り出すと同時に、Gも複数の魔法石を投げた。それらが砕け、紫電を纏った小型の竜巻が発生。風の刃を容易く打ち払い、レオンを目掛けて迫る。


「魔法の力を掛け合わせたのか!?」


 あんな芸当は初めて見た。高位の魔導師に合成魔法を使う者がいるとは聞いたが、魔法石でそれを再現するとは。だが、相当上物の石でなければここまでの効果はない。なぜこんな奴が、それほどの物を。


「くそっ!」


 前傾姿勢で走っていたレオンは、転がりながら竜巻を避けた。目標を見失った竜巻は魔獣の死骸を巻き上げ、大地を攫って吹き抜けてゆく。


「よし」


 あんな奴を応援してしまうのは悔しいが、動けない以上あいつに期待するしかない。レオンはゆっくり立ち上がるも、なぜか動く気配がない。


「レオン、どうした!?」


「クックッ……うまく避けたつもりだろうが、左足はしっかり飲み込まれたよな。俺には見えてたぜ。足が痺れて動けねーんだろ」


 醜悪な笑みを浮かべたGが、レオンとの距離を詰めてゆく。それはまさに、死神が近付く足音のように思える。


 だが、レオンの目は死んでいない。左手には再び魔力が収束してゆく。それを見越していたように、Gの投げた魔法石がその左腕を直撃した。


 レオンの左腕が肩まで凍り、魔法の詠唱は即座に封じ込まれてしまった。

 このままだと、あいつの命が危ない。Gの気を逸らす、ほんの少しの時間でも動ければ。


 神を崇拝するわけでも、信仰しているわけでもない。俺の願いを聞き届けたのが誰かは知らない。でも今は、本当に奇跡が起きたのだと信じたい。


 長剣を杖の代わりに立ち上がり、Gの姿を真っ向から睨み据えた。


「俺が相手だ……」


「ほぅ。真打ち登場、ってわけか」


 Gが投げたのは黄金色の魔法石。それがレオンの眼前で砕けると同時に、激しい爆発がその体を弾き飛ばした。


 魔獣の死骸の上を転がるレオン。腕輪から無情な警告音が漏れてきた。


「光の魔法を封じた魔法石。そんな希少品、どこから手に入れた」


「そんなことは、どうでもいいだろうが。 さぁ。宴の幕引きといこうか」


 底知れぬGの力に尻込みしそうになるが、負けるわけにはいかない。

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