↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.01 ランクール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/388

07 双頭の魔獣と、ふたつの覚醒


魔力障壁(プロテクト)が……破られた……」


 ナルシスの腕輪から光が消えた。まさか、命まで失われたのか。


 恐怖にも似た想いがこみ上げた時だった。


「うぅっ……」


 微かな呻き声が届く。


「まだ、生きてる……」


 安堵したのも束の間だった。


 すぐ助けに行きたいが、一歩でも視線を外せば、次にやられるのは俺だ。


 奥歯を噛み締め、碧色に輝く剣を握り直す。


 右の頭が、じっと俺を見据えていた。左の頭は、まだ閃光の影響が残っているらしい。


 右の前脚が大きく振り上げられる。


 また横薙ぎか。


「単調なんだよ」


 腰を落とし、一気に踏み込んだ。


 鼻先を掠める爪をかわし、そのまま巨体の腹下へ滑り込む。剣を下から突き上げた。


 胸元から腹へ、刃が肉を裂く感触が腕へ伝わる。熱い血が吹き出したが、魔力障壁(プロテクト)がそれを弾き、身体には一滴も届かない。


 暴れる巨体から転がるように離脱すると、魔獣の足下には血だまりが広がっていた。


 深手だ。次で決める。


 そう判断して剣を構え直すと、背中を何かが薙ぎ払った。


「がっ!」


 凄まじい衝撃とともに身体が宙へ浮き、そのまま地面へ叩きつけられる。肺から空気が抜け、一瞬、息ができなかった。


 顔を上げると、太い尾が視界を横切った。


「くそっ……」


 どうにか立ち上がる頃には、ふたつの頭が同時に大きく息を吸い込んでいた。


 吐息(ブレス)の一斉放射だ。まともに受ければ、今度こそ終わる。


「ラグ、来い」


「がうっ!」


 上空を舞っていたラグが、碧色の光を纏って一直線に突っ込んできた。


 ラグが右手の紋章へ飛び込むと、碧色の光が腕から全身へ駆け巡った。


 腹の底から熱が湧き上がり、全身を巡る。髪が、銀色へ変わっていく。視界が研ぎ澄まされ、世界の動きが遅くなったように感じた。


「待たせたな」


 何度使っても、この力の理屈はわからない。普段は魔法を使えない俺でも、ラグを取り込んでいる間だけは、竜の力を借り受けることで魔法のような力を引き出せる。


 この姿になれば、身体能力も別物になる。代償があるが、それを考えるのは後だ。


「行くぜ」


 立ち上がって魔獣を睨むと、ふたつの口から巨大な風の渦が放たれた。


 暴風が地面を削りながら迫ってくる。


「避ける必要もねぇ」


 風なら、風で消せる。


付与(エンチャント)飛竜刃(ヴァン・ラム)!」


 剣に風を纏わせ、一気に振り抜いた。


 鋭く白い斬撃が、迫り来る吐息(ブレス)と正面から衝突する。


 耳を裂くような高音が響き渡り、激しく渦巻いていた風が弾け飛んだ。


「はぁっ!」


 そのまま踏み込み、追撃を叩き込む。


 風を纏った刃が魔獣の背を斬り裂き、巨体が苦悶の咆哮を上げた。


「効かねぇよ」


 挑発するように告げると、四つの瞳が怒りに染まる。


 怒号とともに巨体が突進してきたが、覚醒した今、その動きにさほど脅威は感じない。


「来いよ」


 速い。


 だが、見える。


 前脚の軌道を見切り、横へ回避すると同時に剣を振る。刃が脚を斬り裂き、新たな傷を刻んだ。


 左右から爪撃が降り注ぐ。


 しかし、必要最小限の動きだけで避け続けることができる。


 何度目かの爪をかわした時、左の頭が大きく口を開いた。


「だから効かねぇって……」


 言った瞬間、視界が白く染まった。


 爆発的な炎が全身を呑み込む。


「ぐぅっ!」


 熱と激痛が身体を貫いた。


 咄嗟に距離を取り、地面を滑るように後退する。


 腕輪を見ると、ラインは赤へ変わっていた。


 残り三割。


「二属性かよ……」


 背筋に冷たい汗が流れる。今まで戦ってきた魔獣とは、明らかに格が違う。


「だったら……足を潰す」


 一気に距離を詰めるが、魔獣は冷静だった。


 ふたつの頭が、こちらを見下ろしている。必死に抗う小さな存在を、嘲笑うように。


 剣へ込めた風の力が唸る。


 次に来るのは風か、炎か。半分は賭けだ。


 そして、ふたつの口が同時に開いた。


「おい……」


 左から風。右から炎。ふたつの属性が絡み合い、灼熱の暴風となって迫る。


複合吐息(ミックス・ブレス)か」


 炎を纏った嵐が、夜を昼のように照らした。


「ふざけんな」


 突進を諦め、横へ駆ける。


 だが、魔獣は吐息(ブレス)を吐きながら、そのまま追ってきた。


 大地が一直線に抉られていく。


 逃げ切れない。


「それなら……」


 覚悟を決め、足を止めた。


 風は相殺し、炎は受ける。それしかない。


「うらあぁっ!」


 剣を振り抜く。


 真空の刃が暴風へ叩き込まれ、荒れ狂う風の力を削り取っていく。


 あとは、炎を受けきるだけだ。


 両腕で顔を庇い、衝撃に備えた時だった。


氷竜零結(ヴォロンテ・グラッセ)!」


 凛とした声が夜に響く。


 直後、すべての炎が凍り付いた。


「なんだよ、これ……」


 恐る恐る顔を上げる。


 暴れ狂っていた炎は、巨大な氷の螺旋へと姿を変えていた。白蒼の氷が月光を反射し、周囲を幻想的に照らしている。


「あり得ねぇ……」


 視線の先では、セリーヌが杖を掲げていた。


 先ほどまで震えていた姿は、もうない。静かで、凛としていて、神秘的ですらある。


「取り乱してしまい、申し訳ありません」


 駆け寄ってきたセリーヌの瞳には、もう迷いがなかった。


 魔獣へ視線を戻すと、氷に包まれた身体を大きく振っていた。全身にまとわりついた霜が払い落とされていく。


 今なら、動きが鈍っている。


「セリーヌ。もう一撃だ」


「はい」


 再び駆け出すと、背後でセリーヌの詠唱が始まった。空気が震える。


 魔力を持たない俺でもわかるほど、濃密な力が周囲へ集まり始めていた。


 恵みの(あかし)、母なる大地。


 生命の証、静寂の水。


 躍動の証、猛るは炎。


 自由の証、蒼駆(そらか)ける風。


 澄み切った詠唱が、静かな夜へ溶けていく。


 剣を握る手が、一瞬だけ止まった。


 力の証、蒼を裂き、


 轟く(いかづち)、我照らす。


 詠唱が終わると同時に、背後から感じる力が爆発的に膨れ上がった。


地竜裂破ヴォロンテ・ラ・テール!」


 大地が裂けた。一直線に走る亀裂が魔獣の前脚を呑み込み、巨体が大きく体勢を崩す。


「今だ!」


 剣を水平に構えると、碧色の光が刃へ集まり、剣先に魔力の球が生まれる。


 それは脈打つように震え、荒れ狂う力を内側へ押し込めていた。


「くらいやがれ……」


 剣先へ、さらに力が集まっていく。まるで竜そのものが牙を剥いているかのような、暴力的な力だった。


 狙うのは、右側の頭だ。


竜牙天穿(りゅうがてんせん)!」


 突き出した刃の先から、碧色の魔力球が放たれた。空気を震わせ、一直線に突き進む。


 疲弊した魔獣に、避ける余裕はない。魔力球が、右側の頭へ直撃した。


 一瞬遅れて、轟音が夜を揺らす。


 巨大な頭部が爆ぜ、血肉が夜空へ飛び散った。巨体が大きく揺らぐ。


「まだだ」


 残った左側の頭が牙を剥き、こちらへ突進してくる。


 その進路へ、セリーヌが割って入った。


光竜滅却(リミテ・リュミエール)!」


 眩い閃光が炸裂し、思わず腕で目を庇う。


 耳を爆音がつんざく。凄まじい衝撃に足が浮きかけたが、どうにか踏みとどまった。


 やがて光が収まり、恐る恐る腕を下ろす。


 そこにあったのは、左半身ごと消し飛んだ魔獣の残骸だった。


 砕けた肉片。飛び散った内臓。あまりにも圧倒的な破壊だ。


「なんだよ、これ……」


 こんな力は、見たことがない。


 美しく、澄み切っていて。それでいて、底知れなく恐ろしい。


「お怪我はありませんか?」


 駆け寄ってくるセリーヌを見て、そこで初めて気付いた。


 髪と瞳が、黄金色に変わっている。


「まさか、あなたも竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使えるだなんて。驚きました」


竜臨活性(ドラグーン・フォース)?」


 聞き慣れない言葉に眉をひそめると、セリーヌは目を見開いた。


「知らずに使って……」


 言葉が途中で止まった。


「この力を知ってるのか!?」


 思わず身を乗り出したが、セリーヌは答えない。険しい顔で、魔獣の死骸を見ている。


 つられて視線を向けた瞬間、背筋が凍った。


 絶命したはずの左側の頭が、こちらを見ている。


「見事だ」


 低い男の声が、魔獣の口から漏れた。死肉の奥から滲み出るような、不快な声だ。


「どうなってやがる……」


「何者かが操っています」


 セリーヌの声音も鋭い。


「てめぇは誰だ。出て来い」


 怒りを込めて剣を向ける。


「引きずり出して、ぶった斬ってやる」


 狼の口から、くぐもった笑い声が漏れた。


「名など不要。君たちは私を、終末(しゅうまつ)(にな)()と呼べばいい」


「あなたの目的は何なのですか」


 セリーヌも杖を握り締め、鋭く睨み据える。


「いい力試しになった。感謝する。君たちの力、ぜひ欲しい」


 男の声が愉快そうに歪んだ。


 ぞわりと背筋が粟立ち、嫌悪感が胸の奥を掻き回した。


 意味がわからない。


 だが、ひとつだけ確かなことがある。


 こいつは許せない。


「てめぇの勝手で、この街の人がどれだけ苦しんだと思ってんだ」


 街で見た光景が脳裏に浮かぶ。


 泣きじゃくる子ども。その子を抱き締める母親。瓦礫を片付ける人々。疲れ切った顔で炊き出しを続けていた大人たち。


 不意に、兄の言葉が脳裏をよぎった。


『魔獣に苦しめられている人たちもたくさんいる。みんなが手を取り合うべき時に、人同士が争うなんて悲しいじゃないか』


 あの街の苦しみが、こいつにとっては遊びだと言うのか。


「てめぇだけは……絶対に許さねぇ」


「んふっ。冷静が肝要」


 狼の赤い瞳が妖しく揺れる。


「次はもっと面白いものを見せよう。“蜘蛛に囚われた森”を探せ」


 その言葉を最後に、赤い光が消えた。


 まるで糸が切れた操り人形のように、巨体が地面へ崩れ落ちる。


「魔力が消えました……逃げられたようです」


 セリーヌの声が、夜風へ静かに溶けてゆく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。